表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/36

幕間:新妻の経済改革と、夜の予算仕分け

――深夜。皇帝のプライベートオフィス。


サクラコがすやすやと心地よい寝息を立てて眠りについたのを確認し、俺はそっとベッドを抜け出し、隣の執務室へと移動した。


机の上に置かれた書類――サクラコが立案し、帝国全土に驚異的な富をもたらした『生活便利魔石』の最終決算書をめくる。

そのあまりに完璧な数値と、無駄のないマーケティング設計に、俺は改めて溜め息を漏らした。


「……本当に、自慢の妻だな」


『ほんまそれですわ、主様!』


机の上に並べられた魔石の中から、黄金の『シトリン』がパッと成金のような輝きを放った。


『この利益率、この資金繰り! お姉様の脳内は、一体どうなってますの? ウチのそろばんが「このお方に一生ついていきます!」って叫んでますわ!』


「シトリン。サクラコを起こすなと言ったはずだ」


俺が低く睨みつけると、シトリンは『ひえっ、冷徹皇帝の目がマジや!』と一瞬すくみ上ったが、すぐにちゃっかりとした関西弁風のトーンを取り戻した。


『いやいや主様、怒らんといてくださいな。ウチ、主様のサクラコお姉様への「愛の価値」も試算してみましたんやけど……』


「……なんだと?」


『現在、主様がお姉様に注いでいる愛のプライスレス度、時価にして【帝国国家予算100年分】を軽々と突破しております! 特に「サクラコが他の男(あるいは石)と喋っている時の独占欲リスク」が急上昇中でして、経済損失が出かねへんレベルですわ!』


「だれが独占欲の塊だ」


『あははは! シトリンちゃん、言ったでしょ?』


ブローチのサファイアが、待ってましたとばかりに青い光を爆発させた。


『ウチの主様、サクラコちゃんが「シトリンちゃん可愛い」って撫でた瞬間、脳内で「あの金ピカの石、今すぐ叩き潰して純金の指輪に作り替えてやろうか」って本気で怒ってたんだから!』


「サファイア……貴様、本当に一度細粉にしてやろうか……」


俺が眉間を押さえて拳を握りしめると、ティアラの上のフローライトがサクラ色から紫へとグラデーションを変えた。


『ちょっとサファイア先輩もシトリンも、主様を煽らないでよね! ……あ、でも主様、さっきサクラコお姉ちゃんが寝苦しそうにした時、お布団を掛け直す手がプルプル震えてたのは見逃さなかったんだからねっ!(照れ隠しの爆発発光)』


『ふふん、甘いねみんな。僕の【過去最大級の絶対遮断結界】がなかったら、昨夜の甘々なおしおきタイムの実況で、主様の顔が限界突破して爆発してたくせにー!』


婚約指輪のダイヤが、誇らしげに無色の輝きをチカチカと弾けさせる。


脳内で繰り広げられる、四者四様のやかましいツッコミ。

だが、以前なら「不快だ」と切り捨てていたはずのその騒がしさが、今の俺にはどこか心地よくすら感じられるのだから、人間分からないものだ。


「……ダイヤ」


『ん? なに主様?』


「……昨夜の結界は、まあ……見事だった」


俺が素っ気なく、けれど誠実に礼を言うと、四つの魔石が一瞬で静まり返った。

次の瞬間――。


『うわああぁぁぁ! 主様が素直に褒めたーーー!!』

『全米が泣いた! 主様のツンデレがデレたで!!』

『褒められた! 褒められたから僕、またサクラ色になっちゃう!!』

『えへへ、主様もお姉ちゃんも大好きー!』


大歓声を上げる石たち。

俺は思わず苦笑を漏らし、静かに席を立った。


そっと寝室の扉を開ける。

天蓋付きのベッドの中、純白のシーツに包まれて幸せそうに眠るサクラコの姿があった。


王国の暗い地下牢からすくい上げた、俺の命よりも大切な光。

彼女がもたらしてくれたのは、帝国を潤す経済的富だけではない。俺の冷え切っていた心に灯された、世界で一番温かく、賑やかな「家族」という名の光だ。


ベッドの脇に腰掛け、サクラコの柔らかな頬にそっと指先で触れる。


「……おやすみ、俺の愛しい皇后(妻)」


耳元で囁くと、彼女は夢の中で嬉しそうに微笑み、俺の手にすり寄ってきた。


背後で『尊い……っ!』『尊死とうしメーター完結!』と小さな光を明滅させる石たちの祝福を受けながら、俺は愛おしい新妻を抱きしめ、共に甘い夢の中へと落ちていくのだった。


(幕間おわり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ