第18話:「皇后の家族だぞ」と、今さら利権を求めて擦り寄ってきた実家の伯爵家
私の提案した『生活便利魔石』のブランドは、瞬く間に帝国全土、そして周辺国へと爆発的に普及していった。
温度調節ができる魔導コンロは主婦層に大ヒットし、お肌を潤す美容魔石は貴族令嬢たちの必須アイテムに。
『お姉様! 今月の純利益、なんと先月の300%増や! そろばん弾く手が摩擦熱で燃えそうやわぁ!』
私のオフィス(兼・お茶会部屋)で、黄金のシトリンちゃんが金貨の山の上を転がりながら、大はしゃぎで関西弁風の歓声を上げている。
『ふん、僕が宣伝用のチラシに「真実の太鼓判」の光を仕込んであげたおかげだからね! 感謝しなさいよね!』
『新入り二人とも、よく頑張ってるじゃん。主様なんて、桜子お姉ちゃんがプロデュースしたエプロン姿を見て、脳内で「毎日このエプロンで朝食を作ってほしい。いや、むしろ俺が作ってベッドまで運ぶべきでは?」って限界突破してるよー!』
サファイアさんの容赦ない実況に、背後で書類をチェックしていたギルベルト陛下がピクリとペンを止めた。相変わらずポーカーフェイスのままだが、耳の裏が真っ赤だ。
そんな風に、仕事も新婚生活も順風満帆だったある日のこと。
皇宮の謁見の間に、泥にまみれたハイエナのような……失礼、ひどく場違いな連中が、図々しくもやってきた。
「ああ、サクラ・コ! 我が愛しの娘よ! 帝国で皇后になったと聞いて、父は、父はどれほど心配したか……!」
大げさに両手を広げて涙を流す演技をしているのは、旧王国で私を「無能」と見捨てて地下牢行きを黙認した、実家の**バルトフェルト伯爵**。そしてその後ろには、贅沢なドレスを着た母と、傲慢な顔をした兄の姿もあった。
王国が帝国の属国となったことで、彼らは「皇后の親族」という強力なコネを手に入れたと勘違いし、ホイホイと帝国へ乗り込んできたのだ。
「……何のご用でしょうか、バルトフェルト伯爵。私を地下牢に閉じ込め、王籍を剥奪した時点で、私とあなた方の縁は切れているはずですが?」
私が冷ややかな視線を向けると、伯爵は一瞬顔をひきつらせたが、すぐに「育ての親」の顔をして詰め寄ってきた。
「何を言うんだ! 親子の縁がそう簡単に切れるわけがないだろう! それよりサクラコ、お前が始めたというその『生活魔石』のビジネスだが……あれの製造利権とレシピ、そして商標を、すべて我がバルトフェルト伯爵家に譲渡しなさい」
「……は?」
あまりの図々しさに、思わず素の社畜ボイスが出てしまった。
兄が一歩前に出て、偉そうにふんぞり返る。
「妹のくせに生意気な。お前のような無能が皇后の座にいられるのは、我々が育ててやった恩があるからだ。その『生活魔石』とかいうゴミ石ビジネスの利益を、実家に還元するのは当然だろう。すでに帝国の最大手である『ガバルド商会』と契約を結んである。お前は黙ってサインをすればいいんだ!」
彼らは、私が持っている莫大な利権をタダで奪い取ろうと、帝国の悪徳商会と裏で手を組んだらしい。
その瞬間、大聖堂の空気が凍りついた。
ギルベルト陛下が、ゆっくりと玉座から立ち上がったのだ。その紅蓮の瞳には、かつて戦場を震撼させた「覇王」の、絶対的な殺意が宿っていた。
『うわあああぁぁぁ! 主様、ブチ切れメーターが宇宙の果てまで突破ーーー!!!』
『「我が国で一番尊いサクラコを、かつて地下牢に追いやったゴミ蟲どもが、どの口で親を名乗る。今すぐこの一族の首を撥ねて、ついでにガバルド商会とやらもろとも消滅させてやろうか」って、全火力が殺戮モードに切り替わってまーす!』
サファイアさんの実況通り、陛下の周囲の大気がピリピリと音を立てて震え始める。ティアラのダイヤくんも『僕の結界でこいつら圧殺しちゃっていい!?』と大激怒だ。
しかし、私はそっとギルベルト陛下の袖を引き、ニコリと完璧な「ビジネス・スマイル」を浮かべた。
「陛下、どうかその剣をお収めください。このような有象無象に、陛下の高貴な手を汚していただく必要はありません」
「……サクラコ?」
心配そうに私を見る陛下。私は実家のクズどもに向き直り、不敵な笑みを深くした。
前世のブラック企業時代、理不尽な取引先にデザインや手柄をパクられ、それを逆手に取って何倍もの違約金で合法的に叩き潰した経験が、私の脳内で美しく蘇っている。
「バルトフェルト伯爵、そしてガバルド商会さん。私に無断で『低価格の模倣品(パクリ商品)』をすでに市場に流し始めていることも、すべて把握していますよ?」
「な、何だと……っ!?」
「いいでしょう。どうぞ、そのままその粗悪な模倣品を、全財産を叩いて大量生産してくださいな。――後悔することになりますから」
「ふ、ふん! 強がりを! 行くぞ!」
伯爵たちは、私の警告を負け惜しみだと勘違いし、ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながら退室していった。
彼らが去った後、ギルベルト陛下が焦ったように私の両肩をがっしりと掴んできた。ポーカーフェイスの裏は、サファイアさんによって瞬時に翻訳される。
『主様、「サクラコが優しすぎてあのクズどもを許してしまった、俺が夜中にこっそり闇討ちするしかない」って、過保護が物騒な方向へ暴走中!』
「ふふ、大丈夫ですよ陛下。許したわけありません。前世の、いえ、私の故郷のことわざに『飛んで火にいる夏の虫』という言葉がありまして……。リスク管理(罠)は、すでに完璧に張ってあります」
私は手のひらの上で『ウチの計算通りやな、お姉様!』と邪悪に輝くシトリンちゃんを見つめながら、クズどもを奈落の底へ叩き落とす「次なるマーケティング戦略」の全貌を、静かに思い描くのだった。
(第18話おわり)




