第16話:新婚皇后の初仕事は、ニッチな「生活魔石ビジネス」の立ち上げです
晴れてギルベルト陛下の妻となり、帝国の皇后となった私、サクラコ。
身分も部屋もベッドの広さも(ここ重要)格段にグレードアップしたけれど、私の前に立ちはだかったのは、予想だにしない「強敵」だった。
「サクラコ、今日はもう動かなくていい。お前はただベッドで果物でも食べて、俺に護られていればいいんだ」
「陛下、今はまだ午前10時ですし、私元気です!」
そう、ギルベルト陛下の「超過保護モード」が完全にカンストしてしまったのだ。
冷徹皇帝の面影はどこへやら、私が一歩歩こうとするだけで「転んだらどうする」「皇宮の床をすべて絨毯敷きにするか」と真顔で言い出す始末。
しかし、前世がブラック企業の限界社畜だった私。何もせずダラダラしていると、逆に落ち着かなくて禁断症状(?)が出てくる。
(せっかく皇后になったんだし、ニート生活を満喫するより、この素晴らしい帝国の役に立ちたい……!)
ウズウズするビジネス根性を抱えながら、私は陛下が執務室で広げていた、帝国の「経済報告書」を覗き込んだ。そこには、現在の帝国が抱える、ある深刻な経済リスクが記されていた。
「……軍事用魔石の供給過多、ですか?」
私の言葉に、ギルベルト陛下は少し驚いたように紅蓮の瞳を瞬かせた。
「ああ。王国を属国化したことで、あちらの鉱山から大量の魔石が流入している。だが、今は戦時ではない。軍事用の高出力な石ばかりが倉庫に眠り、市場のお金が回らなくなっているのだ。……難しい話だな。サクラコは気にしなくていい」
「いいえ、陛下。これは大チャンスです!」
「……へ?」
私は机をバンと叩いて身を乗り出した。
前世で培ったマーケティング脳と、リスクアセスメントの嗅覚がピピッと反応している。
「これまでは、魔石といえば『軍事用』か『一部の特権階級の贅沢品』でした。だから供給過多で行き詰まるんです。だったら、これまで誰も目を向けなかった『一般家庭の女性向け市場』を狙えばいいんですよ!」
「いっぱん、かてい……?」
ポーカーフェイスのまま、完全にフリーズするギルベルト陛下。
すかさず、陛下の胸元でサファイアさんがパチパチと青い光を爆発させた。
『あははは! 主様、サクラコちゃんが急にバリキャリの顔になったから驚いてる! でも脳内では「難しくてよく分からないけど、真剣な顔のサクラコも信じられないくらい可愛い。全額出資する。今すぐ国家予算の半分を彼女の口座に移そう」って、鼻血が出そうなほど尊さに打ち震えてるよー!』
ティアラの中のダイヤくんも、嬉しそうに共鳴する。
『お姉ちゃんすごーい! 僕たちの新しい使い道を考えてくれるんだね!』
さらに、新入りのフローライトくんも負けじと七色に明滅した。
『ふ、ふん、僕だってただ嘘を暴くだけの石じゃないやい! お姉ちゃんのためなら、どんな地味な仕事だってやってあげるんだからねっ!』
石たちの賑やかな実況をBGMに、私はホワイトボード(の代わりの羊皮紙)にサラサラと企画を書き殴っていく。
「私たちが狙うのは『生活便利魔石』のブランド立ち上げ、つまり完全なニッチ市場の開拓です!
例えば、火力が細かく調節できる調理用の低出力魔石。お肌の潤いを保つミスト機能付きの美容魔石。これらを安価で一般家庭向けに量産するんです。軍事用としては使い物にならない『低出力のクズ石』こそ、このビジネスの主役になります!」
そう、王国で「色を持たない、ただ硬いだけの無能」と蔑まれたダイヤモンド(ダイヤくん)が世界最高の宝石だったように、帝国で「出力が弱すぎるゴミ」と捨てられている低出力の石たちにこそ、無限の生活需要が眠っているのだ。
「……なるほど。一般の民が日常的に魔石を消費するようになれば、市場の冷え込みは一気に解消されるな」
ギルベルト陛下は、私の拙い説明から一瞬で本質を理解し、その紅蓮の瞳を鋭く輝かせた。やはりこの人、恋に関してはウブだけど、政治と経済の天才だ。
「サクラコ、そのプロジェクト、俺に一口乗らせてくれ。いや、帝国政府として全面的にバックアップする。予算はいくらでも使え」
「ありがとうございます、陛下! では、まずは宮廷の皆さんにその利便性を知ってもらうために、デモンストレーションを行いましょう!」
私は拳をぎゅっと握りしめ、次なる作戦――「前世のDIY料理チート」を脳内で組み立て始めた。
『ひゃっほう! 初めての夫婦の共同プロジェクトだね!』
『主様、脳内で「サクラコと名実ともに最高のビジネスパートナー(夫婦)になれる。嬉しすぎて明日からの政務がいつもの3倍のスピードで終わりそう」って、ウキウキでダンス踊ってるよー!』
「サファイア、黙れ……!」
真っ赤になってそっぽを向くギルベルト陛下と、私の新しい挑戦を祝福するようにキラキラと輝く魔石たち。
甘すぎる新婚生活の裏で、私の「帝国経済改革プロジェクト」が、いよいよ勢いよく動き出すのだった。
(第16話おわり)




