第15話:世界一やかましくて尊い、誓いのキス
バルドゥール大公の一派が国家転覆罪で一網打尽にされ、帝国の憂い(うれい)は完全に払拭された。
邪魔する者が誰もいなくなった世界で、ついに、私とギルベルト陛下の結婚式当日がやってきた。
白亜の大聖堂。
ステンドグラスから差し込む七色の光が、バージンロードを美しく彩っている。
「サクラ・コ、緊張しているか?」
隣に立つギルベルト陛下は、仕立ての素晴らしい純白の儀礼服に身を包んでいた。
いつも以上に凛々しく、まるで彫刻のように美しい。相変わらず完璧なポーカーフェイスだが、私と繋いだ彼の手のひらは、わずかに汗ばんでいた。
「はい、少しだけ。でも、陛下が隣にいてくださるなら大丈夫です」
私が微笑むと、陛下の喉が緊張で愛おしく上下した。
私の頭上――髪を飾る美しいティアラの中央には、あの無色透明の『竜の涙』と、新入りの『フローライトくん』が、仲良く並んで嵌め込まれている。
もちろん、彼らが大人しくしているはずがない。
『ひゃっほう! ついにこの日が来たね! 主様、さっきから「ベールをめくる手が震えたらどうしよう、全財産叩いてでも今すぐ予行練習をしておくべきだった」って、脳内で大パニックを起こしてるよー!』
陛下の胸元のサファイアさんが、楽しそうにパチパチと青い光を弾けさせた。
『主様ウブすぎ! ほら見てよ、感動のあまり僕、こんなに綺麗なレインボーカラーになっちゃった! お姉ちゃん、世界で一番綺麗だよぉ……!』
新入りのフローライトくんが、ティアラの上で嬉しそうに七色にきらめいている。
『ちょっと新入り、主様の心拍数がギネス記録を更新しそうなんだから、あんまり脳内を煽るなよ。……あー、でもサクラコお姉ちゃんマジ天使。僕が結婚したいくらい』
ダイヤくんまで一緒になって、頭の中で大合唱を始めた。
大聖堂に集まった何百人もの貴族たちは、厳かな雰囲気に息を呑んでいるけれど、私の頭の中だけは、お祭り騒ぎのようにやかましい。
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神官の前に進み出ると、いよいよ誓いの言葉を交わす瞬間が訪れた。
ギルベルト陛下は私の両肩に手を置き、まっすぐにその紅蓮の瞳で見つめてくる。
「サクラ・コ。……隣国の地下牢で、ボロボロのお前を見つけたあの日から、俺の世界はお前だけで満たされている。無能だと蔑まれ、すべてを奪われていたお前を、俺は世界一幸せな皇后にすると誓った。その誓いは、生涯変わらない」
低い、けれどどこまでも誠実な声。
陛下の大きな手が、私のウエディングベールをそっと、優しく持ち上げる。
「俺の命が尽きるその瞬間まで、お前だけを愛し、お前だけを護り抜くと誓う」
「はい、陛下。私も、貴方だけを一生愛し続けると誓います」
私が顔を上げて微笑んだ瞬間、ギルベルト陛下は愛おしそうに目を細め、ゆっくりと顔を近づけてきた。
重なる唇。
甘く、温かい、誓いのキス。
そのロマンチックな最高潮の瞬間に、私たちの愛すべき「家族」たちが、待ってましたとばかりにウルトラ大合唱を爆発させた。
『うわあああぁぁぁ! 繋がった! 主様の脳内、サクラコちゃんへの愛が限界突破して大爆発ーーー!!!』
『「愛してる、愛してる、愛してる、絶対に離さない、俺の可愛いお妃様」ってさ! もう尊すぎて、僕の表面にヒビが入りそう!!』
『おめでとー! お祝いに僕、帝国全土へ「永遠の幸福を約束する最強の絶対防御結界」を永久展開しちゃうからねー!!』
『僕も僕も! 国民全員の嘘を暴いて、犯罪率ゼロの超ハッピーな国にしてあげるーー!!』
サファイアさん、ダイヤくん、フローライトくんの3大魔石による、容赦のない脳内実況&チート能力のゲリラ大解放。
キスを終えて顔を離した瞬間、ギルベルト陛下は、案の定、茹で上がったトマトのように耳の裏まで真っ赤に染まっていた。
「どいつもこいつも……、静かにしろ……っ」
陛下は片手で赤い顔を覆いながらボソリと呟くが、その裏の本音が幸せに満ち溢れていることを、私はちゃっかり知っている。
王国の地下牢という、最悪の場所から始まった私の新生活。
まさか前世の記憶を思い出し、石たちの声を聴き、こんなにもウブで過保護な皇帝陛下に溺愛されるなんて、思いもしなかった。
「ふふ、これからもよろしくお願いしますね、私の旦那様」
私が悪戯っぽく微笑んで腕を絡めると、陛下は観念したように、でも世界で一番優しい笑顔を浮かべて、私の手を握り返してくれた。
世界一やかましい石たちの祝福の歌声に包まれながら、私たちは、最高に幸せな新婚生活の第一歩を踏み出すのだった。
(第3章・完)
第3章:『大結婚式と、愚かな王国の末路(ざまぁ編)』
【作者より】
第3章完結です! ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
サクラコちゃん、ついに晴れて帝国の「皇后陛下」になりましたーー!!(盛大な拍手)
毎日毎日めげずにプロポーズを重ねてきた陛下の重すぎる愛が、最高の形で結ばれましたね。
「石と喋る無能」と蔑んで地下牢に閉じ込めていた旧王国&クズ元婚約者には、ギルベルト陛下の容赦ない外交権&軍事力で跡形もなくスカッとざまぁを叩き込ませていただきました。サクラコちゃんを捨てた代償はあまりにも大きかった……!
初夜の甘々すぎる空間では、ダイヤくんの【過去最大級の絶対遮断結界】が良い仕事をしてくれました(笑)。
さて、次なる第4章では、社畜魂が燃え上がるサクラコちゃんの**『皇后様の生活魔石革命&強欲な実家へのお仕置き』**が開幕します!
浪速商人風の「あの新魔石」も登場しますのでお楽しみに!




