第14話:光り輝く蛍石の前で、どんな悪巧みも隠せませんよ?
「な、何かの手品だ! こんなものはイカサマに決まっている!」
静まり返った夜会の会場に、バルドゥール大公の苦し紛れの怒声が響き渡った。
髪を逆立てて床にのしたままのエレオノーラ令嬢も、キッと私を睨みつけ、金切り声を上げる。
「そうですわ! その王国の元悪女、怪しげな呪術か何かで石を誤魔化しましたのよ! 不潔な平民上がりの分際で、私に恥をかかせるなんて……っ!」
(……いや、私一応伯爵令嬢なんだけどな。まあ、前世はがっつり平民の社畜だったから間違ってはいないけど)
往生際の悪い二人に私が呆れていると、私の手のひらの上で、さっきまで綺麗なサクラ色だったフローライトくんが、一瞬でメラメラと激しい「炎のような怒りの深紅」へと色を変えた。
『んだとゴラァァァ! 誰が不潔だ! 誰がイカサマだ! この頭の固いハゲ大公と、盛りすぎ静電気ババアが!!』
お上品な夜会にはまったくふさわしくない、口の悪いヤンキー少年ボイスが私の脳内に響き渡る。
『お姉ちゃん、こいつらマジでムカつく! 僕の本気、見せてあげる! 僕の本質は『天才の石』――持ち主の脳を活性化させ、あらゆる隠し事や嘘を暴く、真実の光なんだからね!』
フローライトくんがそう叫んだ瞬間、彼の結晶から、サーチライトのような鋭い紫色の光線が放たれ、大公とエレオノーラを容赦なく照らし出した。
するとどうだろう。
光を浴びた二人の身体が、ドス黒い、どろどろとした闇のような色に染まり始めたではないか。
それと同時に、フローライトくんの大音量の暴露テレパシーが、会場にいる全貴族の頭の中へ直接流れ込んだ。
『うわー、見てよみんな! このハゲ大公、裏で我が国にひれ伏したはずの王国の残党貴族と繋がって、「ギルベルトを失脚させて俺が新しい皇帝になる」って、国家転覆の計画をばっちり脳内で練ってるよ!』
「な、何だと……っ!?」
会場の貴族たちが一斉に色めき立つ。バルドゥール大公は顔面を土気色に変えた。
『それからそこの静電気ババア! さっきから「勝負に勝ったら、すれ違いざまにサクラコのドレスに赤ワインをぶっかけて精神崩壊させてやる」って、めちゃくちゃ陰湿な作戦を考えてた! 性格悪すぎ!』
「ひっ、あ、頭の中に直接、私の声が……っ!?」
エレオノーラは自分の企みが完全に筒抜けになった恐怖で、ぶるぶると震え出した。
言い逃れのできない完全な証拠(石の告発)。
バルドゥール大公はついに正気を失ったのか、懐から合図の魔導具を取り出し、床に叩きつけた。
「おのれぇぇ! 計画を狂わせおって! 出会え、出会え! ここにいる不届き者どもを、一人残らず叩き斬れ!!」
大公の叫びに応じるように、夜会の壁を突き破って、大公が密かに伏せていた私兵の暗殺者たちが一斉に飛び込んできた。
ギラリと光る刃が、私とギルベルト陛下へと向かって振り下ろされる。
「サクラ・コ!!」
ギルベルト陛下が私を庇うように抱き寄せ、腰の剣を引き抜こうとした――が、それよりも早かった。
『僕を忘れてもらっちゃ困るなー!』
私の指先で、ブルーダイヤモンド――ダイヤくんが、まばゆい無色の輝きを爆発させた。
キィィィィィィン!!!
凄まじい硬質の音が響き渡ると同時に、私と陛下を中心に、半径数メートルを覆う強固な透明の半球――【絶対防御結界】が展開される。
ガキィィィン!!
暗殺者たちの剣や攻撃魔術が結界に激突したが、火花を散らすだけで、結界には傷一つ、1ミリのヒビすら入らない。
『へへーん! 世界最高硬度の僕の結界だよ? 有象無象のペラペラな刃なんか、1ミリも通すわけないじゃん!』
ダイヤくんが脳内で得意げに胸を張る。
「……愚かな。我が庭で、これほどの不手際を見せるとはな」
結界の内側で、ギルベルト陛下がふっと冷酷な笑みを浮かべた。
その紅蓮の瞳には、一切の慈悲はない。彼がパチンと指を鳴らすと、結界のすぐ外側に、帝国の精鋭である近衛騎士団が瞬時に転移で行列をなして現れた。
「バルドゥール大公、およびヴァルハイト公爵令嬢。国家転覆罪、ならびに皇族暗殺未遂の容疑で拘束する。……抵抗する者は、その場で一族もろとも塵にせよ」
陛下の氷のような命令が下る。
圧倒的な軍事力を前に、暗殺者たちも大公も、戦う前に戦意を喪失してその場にへたり込んだ。
「あ、ああ……我が大公家が……こんな、石ころどものせいで……」
「嫌よ! 私は、私は次の皇后になるはずですのよ――っ!」
無惨な悲鳴を上げながら、大公たちは近衛兵によって引きずられていった。
かつて王国のクズどもが消え去ったように、帝国の老害たちも、あっという間に一網打尽にされてしまったのだ。
パチパチパチ、と拍手の音が響く。
陛下の胸元のサファイアさんだった。
『あははは! 大勝利ー! 新入りのフローライトくん、いい仕事したじゃん!』
『ふ、ふん、お姉ちゃんを騙そうとする奴らは、僕が許さないんだからね! ……あ、でも、あの主様(ギルベルト陛下)の目がまだ怖いんだけど……っ(恐怖で青ざめた水色に発光)』
見れば、ギルベルト陛下は結界が解けた後も、私の腰をがっしりと抱きすくめたまま離そうとしなかった。
そのポーカーフェイスの裏は、やはりサファイアさんによって瞬時に暴露される。
『主様、大公への怒りよりも「サクラコが怖がっていないか心配。でもそれ以上に、さっき新入りの石がサクラコに『お姉ちゃん』って甘えてたのが許せない。早く式を挙げて名実ともに俺だけのものにしないと狂う」って、独占欲が限界突破してまーす!』
「へ、陛下……。もう敵はいませんから、そんなにギューってしなくても大丈夫ですよ?」
私が赤くなって見上げると、陛下はふいと目を逸らしつつも、さらに腕の力を強めてきた。
「……お前がどこかへ消えてしまいそうで、不愉快だっただけだ。……早く結婚式を挙げるぞ、サクラ・コ」
耳まで真っ赤にした冷徹皇帝の、必死な本音。
新しく加わったカラフルなフローライトくんも巻き込んで、私たちのウエディングへのカウントダウンは、さらに甘く、そして賑やかに加速していくのだった。
(第14話おわり)




