第13話:新魔石『フローライト』くんは、感情が色に出すぎるチョロイン(?)でした
「おいおい、本当にあの呪いの石に挑む気か?」「無知とは恐ろしいな、王国の元悪女め」
バルドゥール大公の煽りに乗った私を見て、周囲の保守派貴族たちがクスクスと下品な笑い声を上げる。
「サクラ・コ、無理をするな。俺が今すぐこの老害どもを――」
「大丈夫ですよ、ギルベルト陛下。私を信じてください」
私はそっと陛下の大きな手を握り、安心させるように微笑んだ。私の指先で、ダイヤくんが『主様、あの新入りの生意気な鼻っ柱を折ってやって!』とチカチカ応援の光を放っている。
「では、エレオノーラ嬢からその優秀な魔力とやらを見せていただきましょうか」
バルドゥール大公が勝ち誇った顔で合図を出すと、従者が檻を覆っていた紫色の魔力布をバサリと剥ぎ取った。
「なっ……!?」
会場の貴族たちから、どよめきが上がる。
檻の中に鎮座していたのは、毒々しいほどに怪しく明滅する、紫と緑のグラデーションに彩られた結晶――『フローライト(蛍石)』だった。
大気をピリピリと震わせるような、荒々しく不穏な波動。
エレオノーラはふんと鼻を鳴らすと、自信満々に檻へと近づき、自身の傲慢な魔力を結晶へと浴びせかけた。
「我が名はエレオノーラ・フォン・ヴァルハイト! 呪われし石よ、高貴なる我が魔力に従いなさい!」
その瞬間。
『うわっ、何この上から目線のクソデカ不快魔力!? 暑苦しいんだよ、あっち行けババア!!』
ドゴォン!!
「きゃあぁぁぁぁ!?」
フローライトから放たれた禍々しい紫色の電撃のような魔力がエレオノーラを直撃し、彼女は無様に床へと弾き飛ばされた。ドレスはボロボロ、髪は静電気で逆立ち、お姫様抱っこならぬ「床へのスライディング」を決めている。
「エレオノーラ嬢!? ……くっ、やはり並の魔力では拒絶されるか。さあ、次はサクラ・コ様の番にございます。精神が崩壊しても、我が大公領は一切の責任を負いませんぞ!」
バルドゥール大公は、エレオノーラの失敗を棚に上げて、私を破滅させようと邪悪に目を細めた。
私はフリルのスカートを揺らしながら、ゆっくりと檻へと近づく。
目の前のフローライトくんは、バチバチと警戒するように紫と緑の光を激しく明滅させていた。
『おい、お前もあのババアの仲間か!? 近づいたら今度は大爆発させてやるからな! 僕をこれ以上怒らせるなよ!』
ツンツンと尖った、生意気な小悪魔少年ボイス。
けれど、その声の裏で、彼が何百年も暗い地底で一人ぼっちで寂しかったこと、誰にも本当の姿を見てもらえずに「呪いの石」と怖がられて傷ついていたことが、私には痛いほど伝わってきた。
私は檻の前にしゃがみ込むと、優しく目を細めて語りかけた。
「ううん、怒らせたりしないよ。……ただ、すごく綺麗なグラデーションだなって思ったの。新緑の葉っぱと、可愛いスミレの花を閉じ込めたみたい。ずっと、暗いお部屋で寂しかったんだね」
そう言って、私は檻の隙間からそっと手を伸ばし、フローライトくんの結晶の表面を優しく包み込むように撫でた。
その瞬間――。
ピカァァァァァァァ!!!
「ま、眩しいっ!?」「何が起きたんだ!?」
謁見の間全体が、見たこともないほど温かで圧倒的な純白の光に包まれた。
毒々しかった紫と緑の波動が一瞬で消え去り、私の手のひらの中で、フローライトくんの結晶が嘘のように「ぽわん」と、ものすごく可愛いサクラ色へと変化したのだ。
『ふ、ふん! に、人間にそんな風に褒められたって、べ、別に嬉しくなんか……嬉しくなんか、ないんだからね……っ!』
脳内に響き渡る、ものすごいツンデレセリフ。
『……って、ひゃあああぁぁぁ! お姉ちゃんの手、めっちゃポカポカして気持ちいいいぃぃ! 魔力の波長が極上すぎるよぉ! 僕、一生ここから離れたくないかも……(サクラ色から、嬉しさのあまり虹色のカラフル発光へ)』
(……え、何この子。めちゃくちゃチョロい……!!)
感情がすべて石の色に直結して爆発している。ツンツンした態度を取ろうとしても、石が嬉しさでレインボーに輝いているから、本音が丸見えだった。
これには、主の胸元のサファイアさんも大爆笑だ。
『あははは! 新入りのフローライトくん、秒速で落ちたーーー!!』
『「嬉しくない」って言いながら全身レインボーに光ってんじゃねえよ! チョロすぎるだろ!』
私の指のダイヤくんも、ドヤ顔(石だけど)で精神をリンクさせてくる。
『でしょ? サクラコお姉ちゃんの手のひらは世界一なんだから! ほら新入り、主様(ギルベルト陛下)の嫉妬の視線が痛いから、あんまりお姉ちゃんにベタベタすんなよなー!』
「サクラ・コ……」
見れば、ギルベルト陛下がいつの間にか私の背後に音もなく立っており、ポーカーフェイスの裏で、私の手を両側から挟み込むように握りしめていた。
『うわっ! 主様、脳内で「あの新入りの石、サクラコに撫で回されて贅沢すぎる。今すぐ粉砕して我が国の砂利にしてやろうか」って、ものすごい形相で嫉妬してまーす!』
「へ、陛下……石に嫉妬しないでください……」
私が苦笑いしていると、呆然自失としていたバルドゥール大公が、顔を真っ青にしながらガタガタと震え出した。
「ば、馬鹿な……! 我が領地の最大最強の呪いの石が、なぜ一瞬で懐いているのだ……!?」
形勢は完全に逆転した。
しかし、このフローライトくんの「本当の力」は、ただチョロくて可愛いだけではなかったのだ。
(第13話おわり)




