第11話:冷徹皇帝のウエディングドレス選びは、財政界を震撼させます
お待たせいたしました、第3章スタートです!
王国を属国にしてすっきりしたのも束の間、ついに二人の結婚式準備が始まります。
普段は冷徹なギルベルト陛下ですが、桜子のドレス姿を前に、ポーカーフェイスの裏の脳内が大変なことになっております。
部屋中の調度品やダイヤくんたちにツッコミを入れられまくる、ウブな陛下の限界突破っぷりをぜひニヤニヤしながら見守ってください!
「サクラ・コ様、こちらのドレスはいかがでしょうか?」
帝国の最高級ブティック。貸し切られたサロンには、ため息が出るほど美しい純白のドレスが何十着も並べられていた。
ついに始まった、ギルベルト陛下との結婚式に向けた衣装合わせ。
「……どれも素敵すぎて迷っちゃいますね」
私は前世の記憶を思い出しながら、まばゆいシルクやレースのドレスを見つめる。
日本にいた頃は、自分がウエディングドレスを着る日が来るなんて夢にも思っていなかった。しかも、隣国の地下牢から拾われた後に、冷徹皇帝のプロポーズを受けるなんて、人生本当に何が起こるか分からない。
「サクラコ、焦る必要はない。お前が気に入るものが見つかるまで、何日でも付き合う」
ソファに腰掛け、優雅に紅茶を嗜むギルベルト陛下。
普段通りの隙のないポーカーフェイスだが、その紅蓮の瞳はどこか緊張で強張っているように見える。
『あははは! 主様、さっきから生唾飲み込みすぎ! 「サクラコのドレス姿を最初に見る男が俺で本当に良かった、神に感謝する」って、頭の中で祈祷を捧げてるよ!』
指先の婚約指輪から、ダイヤくんもキャッキャと光を弾けさせる。
『僕も楽しみー! サクラコお姉ちゃん、早く着替えてきてよ!』
(……相変わらずこの子たちは、陛下のウブな脳内を容赦なく実況するんだから!)
私は顔が熱くなるのを誤魔化すように、フィッティングルームへと駆け込んだ。
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数十分後。
お仕立て係の女性たちに手伝われ、まずは一着目のドレスに身を包んだ。
贅沢にパールの刺繍があしらわれた、気品溢れるAラインのドレスだ。
「サクラ・コ様、準備が整いました。カーテンを開けますね」
シャーっと音を立てて、大きなベロアのカーテンが開く。
「あの……陛下、いかがでしょうか?」
少し恥ずかしくなって、俯きがちにギルベルト陛下を見つめる。
すると、陛下は手にしたティーカップをピきりと固まらせたまま、完全に石化してしまった。
表情はいつもの氷の仮面。しかし、その耳の裏が、みるみるうちに沸騰したように真っ赤に染まっていく。
「……っ」
無言。圧倒的な無言。
あまりの無反応さに、私が「変、ですか……?」と不安になった、その瞬間。
部屋中の調度品が一斉に大合唱を始めた。
『うわあああ! 主様の脳内、尊さで大気圏突破ーーー!!』
『「可愛い。天使か? いや女神だ。今すぐ抱きしめて我が終の棲家に幽閉したい。誰にも見せたくない、結婚式を身内だけで済ませる法案を今すぐ可決させるべきでは?」って、思考が暴走を始めてまーす!』
壁の金細工、シャンデリアのクリスタルたちがチカチカと狂ったように明滅する。
『お姉ちゃん綺麗ーー!!』
指輪のダイヤくんも大興奮だ。
『主様、心臓の鼓動がうるさすぎて僕の硬度でもヒビが入りそうなんだけど! 口では「似合っている」って言おうとして、噛みまくる未来が見えるよ!』
「さ、サクラ・コ……。あ、あまり、にも、に、似合って、いる……」
ダイヤくんの予言通り、ギルベルト陛下はロボットのようにぎこちなく立ち上がり、顔を真っ赤にしながら視線を彷徨わせた。
「ありがとうございます、陛下。……じゃあ、次はもう少しボリュームのある、プリンセスラインのドレスを着てみますね!」
私は石たちのツッコミと陛下のギャップに悶絶しそうになりながら、再びフィッティングルームへ避難した。
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二着目は、お姫様のようにスカートが大きく広がった、華やかなドレス。
三着目は、背中が大胆に開いた、大人っぽいマーメイドラインのドレス。
カーテンが開くたびに、部屋中の調度品が「主様が息をしていない!」「尊死秒読み!」「財政界が震撼する予算が組まれようとしています!」と大騒ぎを起こす。
そして五着目を着終えた時、ギルベルト陛下はついに限界を迎えたのか、お仕立て係の店長をキッと睨みつけた。
「店長」
「は、はいっ! ギルベルト陛下!」
冷徹皇帝の凄まじい覇気に、店長がガタガタと震え上がる。
しかし、陛下から放たれた言葉は、国家の財政を揺るがす恐るべき暴走だった。
「サクラ・コが今着たドレス、そしてこれから着る予定のドレス、すべての型を彼女のサイズに仕立て直せ。……一着残らず、俺が買い取る」
「ええええええ!?」
思わずフィッティングルームから素っ頓狂な声を上げてしまった。
いくら何でも、高級ドレスを全種類お買い上げなんて、国家予算レベルのお買い物を個人の趣味でやらないでほしい。
『あははは! 言っちゃったよ、この超過保護皇帝!』
『「毎日違うドレスを着せて、毎日俺が初見のフリをしてあーんだと言ってタルトを食わせる」ってさ! 独占欲がカンストしてるね!』
「へ、陛下! 流石にそれは困ります! 着る機会がありません!」
私が慌てて止めると、ギルベルト陛下は真顔で、しかしどこか縋るような目で私を見つめてきた。
「……ダメ、か? お前があまりにも美しくて、他の者に一着も渡したくないのだ」
(……ううっ、そんな冷徹な顔で、ウブな子犬みたいなこと言わないで! ずるい、可愛すぎて断れないじゃない……!)
結局、陛下の圧倒的な財力と重すぎる溺愛によって、サロンにあるドレスの半分以上が我が家のクローゼットに収まることが決定してしまったのだった。
世界一やかましい石たちの実況に包まれながら、私はこれからの甘すぎる新婚生活に、嬉しい悲鳴を上げずにはいられないのだった。
(第11話おわり)




