第10話:世界で一番やかましくて尊い、プロポーズの返事
元婚約者たちが地下牢へ連行されてから、数日後。
我が国――帝国の圧倒的な魔力と軍事力を前に、完全に財政破綻した王国は、正式に帝国の属国となる道を選んだ。
ジークフリートとマイアは、王籍を剥奪の上、生涯にわたる魔力鉱山での強制労働が決定したらしい。かつて私が一人で支えていた過酷な現場で、今度は彼らが泥にまみれて働く番だ。
(……うん、完璧な自業自得ね。悪役令嬢としての破滅フラグも、これで跡形もなく粉砕できたわ)
そんなニュースを横目に、私は今、月光が優美に降り注ぐ皇宮の空中庭園にいた。
隣には、仕立ての良い漆黒の礼服に身を包んだギルベルト陛下。
「サクラ・コ。……少し、こちらを向いてくれ」
「はい、陛下?」
振り返った瞬間、息を呑んだ。
冷徹な覇王として恐れられるあのギルベルト陛下が、私の前で、そっと片膝を突いたのだ。
彼の手元には、小さなベルベットの箱。
蓋が開けられると、昨日まで宝物庫で暴れていた『竜の涙』が、見事な職人技によって美しい婚約指輪へと姿を変え、月光を反射して七色にきらめいていた。
「俺の妻になってくれ、サクラ・コ。世界中の何よりも、お前を愛している。お前のこれからの人生、そのすべてを俺に護らせてほしい」
低い、けれど鼓膜を甘く揺らす極上のプロポーズ。
冷徹皇帝の必死で真摯な眼差しに、私の胸はいっぱいに満たされていく。
(……ああ、もう、本当に格好よすぎる。前世の社畜時代には想像もできなかった、本物の王子様、お姫様扱いだわ)
最高のロマンチックな雰囲気。
しかし、私たちの恋路には、いつだって「彼ら」が同席している。
『ひゃっほう! 主様、ついに言ったね! 緊張で膝がガクガクだよ!』
『心拍数250突破ー! 「もし断られたら俺はショックで明日から政務を放棄して寝込む」って、頭の中で大パニックを起こしてるよー!』
サファイアさんとダイヤくんの、容赦のない脳内実況中継が始まった。
『っていうかさ、前のクズ王太子、僕たちの主を「色を持たない、ただ硬いだけの石ころ」なんて言ってたっけ?』
『ほんとウケる! 無色透明だからこそ、どんな光も吸い込んで、世界で一番強く、一番美しく輝く結晶になれるのにね!』
『そうだよ! その最高硬度の輝きを受け止められるのは、9月生まれの主様の、深い青だけなんだから! 石の相性も、生まれ持った運命も、最初から完璧に決まってたんだよ!』
賑やかに頭の中でぶちまけられる、石たちの祝福の声。
「色を持たない、ただ硬いだけの石」。ジークフリートたちが無能の証だと笑ったその特徴こそが、世界で最も尊ばれる『宝石の王』の証明だったのだ。
説明なんていらない。この指輪の輝きが、そして隣で騒ぐサファイアの青が、すべてを物語っている。
私は込み上げる愛おしさに目元を緩ませ、陛下の手にある指輪を見つめた。
「はい、陛下。喜んでお受けします。私はもう、陛下の隣からどこへも行きません」
私が微笑んで左手を出した瞬間、ギルベルト陛下の顔が、一気に茹で上がったトマトのように真っ赤に染まった。
彼は震える手で指輪を私の薬指へと嵌め、立ち上がると同時に、壊れ物を扱うように優しく、けれど力強く私を抱きしめてきた。
『わあぁぁ! 繋がった! 絶対防御結界、発動しちゃうよー!』
『主様の脳内、サクラコちゃんへの愛が限界突破して大爆発を起こしてまーす! お幸せにー!』
私の指先で、そして陛下の胸元で、二つの至高の魔石が、世界で一番やかましく、そして世界で一番温かい祝福の歌を大合唱し始める。
ウブで過保護な皇帝陛下と、お喋りな宝石たち。
この騒がしくて愛おしい帝国で、私の本当の、最高に幸せな物語が幕を開けるのだった。
(第2章・完)
第2章:『皇宮の内政無双と、増えていく賑やか魔石』
【作者より】
第2章をお読みいただき、ありがとうございました!
サクラコちゃんを「元地下牢の無能」と見下す性悪貴族たちを、前世の社畜知識と魔石の力でスカッと論破! 皇后としての存在感をバチバチに示してくれました。
そして今章では、無色透明なツンデレダイヤくんと、嘘を絶対に見逃さないフローライトくんが仲間に加わり、脳内実況は3人(個)体制に……!
陛下の毎日プロポーズと過保護なストーカー度(=サクラコ愛)も、日々最高記録を更新しております(笑)。
第3章はいよいよ、二人の愛が結実する**『大結婚式&愚かな王国の末路(ざまぁ編)』**です!
サクラコちゃんをポイ捨てした旧王国が図々しく忍び寄ってきますが、陛下が「重すぎる愛と圧倒的武力」で木端微塵に踏み潰してくれますのでご期待ください!
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