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踏みしめる旅路

異世界の、空の下。

 簡単な依頼(クエスト)の筈だった。

 そう、街の外で、ポーションの材料となる、ありふれた野草をかき集めて納品する。

 それだけの、ありふれた依頼(クエスト)。

 駆け出し冒険者の自分達には、手頃で安全、簡単に実績を積める、そういうモノだと。


 だから、いくら4人居るとは言え、油断していた。


 街のすぐ近くに魔獣が現れるなんて、考えもしていなかったのだ。




 遠い。ダルい。

 何なんだよ徒歩移動!


 異世界って体(てい)の夢なんだろこれ⁉


 空飛ばせるか、最低でも自転車、道が悪いからMTBかシクロクロスくらい乗らせろ!

 シクロとか、乗ったこと無いし超興味有る!


 のっけから愚痴だかなんだか、そんなスタートで恐縮です、俺です。




 いやもう、思ったより近いかもとか思った1時間前の俺を殴りたいね。

 ちょっと高いところまで行っただけで、情けないくらいに足ガクガクになったクセに、ねぇ。


 いやそれ俺の事だよ。

 自分で考えても凹むわ。


 脳内で気分転換に、スキル……魔法関係の構成を弄りながらダラダラと歩く。

 こうして眺めると、今まで殆ど使ってなかった魔法ってのも、意外と有るもんだと気付かされる。


 勿論、全く使っていないものは無い筈だ。


 軽く使用して、使用感の確認程度はしているのだが、自分の使用用途に合わないものはどうしても使用頻度が減る、或いは使わなくなる。

 使わないから印象に残らず、記憶から薄れていき、こうしてたまに思い出してなんだか新鮮な気分になり、そしてまた使わないから……。


 なんだか急に、今見ているこの魔法が愛おしく思えたが、結局は使わないだろう。

 南無。


 それはそれとして、歩きがダルい。


 気分転換しようが、ダメだ。

 夢なんだから、ここは脈絡のない場面転換で街の中にいるとか、やりようは幾らでも有るだろうに。


 融通の効かない夢である。

 もっと柔軟にいかんと、夢なんだからさぁ。


 脳内で理不尽に不満を並べる俺だが、その夢を生み出しているのは俺の脳だという事実は無視だ。


 柔軟、柔軟ねぇ。

 ぽっかりと空に浮かぶ雲を眺めていて、俺は急に思い付いた。

 デストレア、あれ、手からじゃなきゃ発動出来ないのは絶対なのか?


 いや、それ以前に。

 ――どうやら試したいことが出来たらしい。


 俺は徐に、両手に武器を持たずに魔法を使ってみる。

 まずは、何も考えず、普通に「素手」で使うイメージ。


 一応、さっき確認した街とは反対方向に向かっておもむろにデストレア。


 1秒以上発動させたが、特に威力が上がったような手応えはない。

 というか、反動が軽い。

 さっきの空に浮かび上がった時のような身体を押し上げる程の圧力を感じない。


 一度解除し、今度は武器をイメージする。

 本来両手に装備するそれぞれの武器、クライングオーガと宝飾の宝珠を脳内で明確にイメージしながら、同じ様に同じ魔法を放つ。


 結果は、明らかに違った。


 まるでさっき、武器を持って使用したのと同じ様に、油断すれば身体ごと後ろに飛ばされそうな圧力。

 体幹に力を入れて耐えるが、実際にはカウンター・マスの様なものを射出しているのかも知れない。


 そうでなければ、簡単に耐えられる気がしない。


 さっきのセルフ打ち上げは、そのカウンター・マスを目的に応じて解除した結果なのだろう。

 この魔法が、ゲーム内で使用するには完全に足を止め、せいぜいが旋回できる程度になる理由が理解(わか)った気がする。


 そして、少なくともこの夢の中だったら、そのカウンター・マスを解除出来る事も理解(わか)った。

 次は、手ではなく、任意の場所……じゃないな、部位? から発動できるかの実験だ。


 具体的に言えば、背面。


 背中で発動して、それを動力に前方に移動出来るかどうか。

 夢の中だから、せめてそれくらいは自由に出来てくれなければ困……りはしないが、面白くはないだろう。


 発動位置は背中、何となく両肩甲骨辺りに設定。

 浮き上がってしまっては困るから、発射方向はやや上方。

 取り敢えずの実験感覚で、まずはこれくらいから。


 この時の俺は世界が驚く程度には軽率だった。



 普通は、低出力からテストするだろう。

 だが、俺は何を考えることもなく、迷いなく。


 いつも通りのイメージ、かつ、カウンター・マス無効を追加でイメージに加え、デストレアを発動させた。


 1秒後、俺は僅かな射出で空中に打ち上げられるその威力に背中を押され、激しく転倒した挙げ句、その衝撃で魔法が解除されたにも関わらず結構な距離を転がされ、被っていた仮面メットに感謝しつつ、自分の軽率さに歯ぎしりする。


 だが、そんな程度ではへこたれない。

 俺は、楽するための努力を惜しみはしないのだ。


 身体についた土を払い、黙々と準備を整え、そして俺は今サポート付きで「走る」ことに成功している。

 イメージで発射位置も威力も制御出来ると判明したので、今度は武器無し、イメージもしないで発動させた。


 今度は予め負荷を予想出来ていたので、走り出しに成功。

 というか、走りながら発動させた。


 威力上昇効果が発動しないので急に押し出されることも無く、威力が低いと言ってもそれは飽くまで俺基準……というか、ゲーム内基準であって。


 走行のサポートとしては十二分(じゅうにぶん)の性能である。

 というか、これでも走り出すと、ともすれば足が着いてこないまである。

 というか、多少楽になった程度で疲労はするので、走らない方向でどうにかならないか、と考えれば。


 俺は思いつきのまま、魔法を発動させた状態で、まるで両足を突っ張るように固定させる。

 あくまでも、動きそのものを、だ。


 地面に停止するためではないし、この状態でそんな事したらさっきと同じ様にスッ転ぶだけだ。

 同時に、靴底に魔法の板すらイメージして、滑りやすいようにと祈る。


 確かこの見た目装備、ヒールの高いブーツだからだ。

 そのままだと、結局踵が地面に引っかかってスッ転ぶ。


 正直、思いつきにしても咄嗟過ぎて、自分でもなんで実行出来たのか理解(わか)らない。

 思うに、なんにも考えていないからだろう。


 イメージとしては、地面の上を滑るように。


 引き続き爪先を上げ、足下の魔力版が途切れないように注意しつつ、地面に対しての抵抗を極力減らす。

 ところでこの魔力版、なんの魔法の応用なんだろうか?


 ともかく、さっきのも、その前の落下も、怪我らしい怪我はしていないがすっげえ痛かったから、慎重に。

 石かなにかに躓いたら確実に吹っ飛ぶので、足元の注意は数メートル先まで怠れない。


 なにこれ、すっごい早いけどすっげえ疲れる! 爽快感皆無!


 そうは思うものの、走るのもダルいし歩くのも飽きたので、俺は街道を滑走するに任せるのだった。

何事も、思ったとおりには……もう少し考えた方が良いのでは。

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