実験はプランを練ってからにしよう
気の向くままに、それも一興。
俺の知っているゲームのそれより遠目だったけど、この距離なら充分至近弾と言えるだろう。
衝撃だってそれなりに有る筈なのに、俺は吹き飛ばされもしていない。
……って、そっか、これは夢だったな。
何度目かの自己確認に、途方にくれて空を見上げて、どうせ夢なんだから飛べないかと思案してみたりもしてみる。
しかし唸ってみてもボーッとしてみても、飛べる事もなければ、破壊された地面のようなエフェクトが時間経過で修復される、なんて事もなかった。
そろそろ目が覚めても良い。そんな事を呑気に考える、それが俺です。
飛べない以上、歩くしか無い。
夢だと言うのにユーザーに優しくないものである。
ゲームだったらマップで行き先指定で一瞬だと言うのに、ゲームの仕様に負ける夢とは一体何だというのか。
なんとなく大地を荒らした現場に居たくなかったので、ついでに街でも探そうと歩き出したのだが。
理解ってる。おいちゃん――でもまだ27歳――これが夢だって理解ってる。
どうせあれでしょ? この道沿いに歩いたこの先、草原の只中に、突然秋葉原とかの、見知った街が出てくるんでしょ?
夢なんて、前後の繋がりがハチャメチャだからね。タダの記憶の連なりだし。
この景色に見覚えがない、って事実はスルーだ。
さて、夢の中で出るのは秋葉原かな? それとも、うちの近辺だったりして?
無責任にワクワクしながら、しかし黙々と歩く。
そりゃそうだよ、独り言ブツブツ垂れ流しながら練り歩くとか、どう考えてもアレだろう。
そんな事を考えながら、街道を征く。
前後に人影は無し。
街に近づいているのか遠退いているのかもサッパリである。
これ、街に行けないとか言う類の夢の可能性も有るな。
いや、いやいや。幾ら夢でもそれは性格が悪すぎる。
信じて進むだけだ。うん、カッコいい。
単に、引くに引けない距離を歩いちゃってるだけとか、思っても言ってはいけない。
行く宛の無い旅路と言うか、先の見えない道ってのは不安が募る。
俺の夢のクセに、随分と手の込んだ嫌がらせじゃないか。
……どうにかして、この嫌がらせじみた不安行軍から開放されないものだろうか。
そんな事を思いながら空を見上げた俺は、唐突に思い付いた。
きっと、現実であれば、思い付いても実行などしなかっただろう。
それはバカバカしいから、だけではなく。
可能だった場合、冗談抜きで命に関わると、子供にも理解る事だからだ。
しかし、今は夢の中だ。
寧ろ、これを切っ掛けに飛行能力なんてものに目覚めるかも知れない。
良いじゃないか、夢は自由であるべきだ。
謎の強気で自分を鼓舞すると、俺は……少し考えて周りを見渡し、街道から少し離れた所で両手を武器ごと、いつもと違って地面に向けて構える。
右手の剣は切っ先を向けるのではなく、剣の腹を見せるように自分と相手――この場合は地面――とを結ぶ線に対して直角に交差するように、左手の魔宝珠は刀身に添えるように、しかし触れないように絶妙な位置で。
いつもはボタンひとつで繰り出す、お気に入りの攻撃魔法である。
そしてこれも魔力光弾と同様に、ミーティア発動のキーになるスキル……魔法だ。
だから、今度は予めミーティアを使用しないようにスキル準備状態を解除してしまう。
戦闘とかになるようなら、戻せば良いのだ。
気を取り直して、俺はソレを発動させる。
どうやって発動させるかを考えるより先に、頭の中でコントローラーを操作する如く。
呪文の詠唱どころか魔法名を言うこともなく、ソレは発動した。
ダム・デストロイ。
それはウィザードの代表魔法とも言えるもの。
武器と俺自身の基礎ステータスだけでもそこそこの威力――実は魔力光弾よりちょっと強い程度――で組み合わせがしやすく、俺の装備構成でも運用が容易だから当然のように愛用している。
名前に「ダム」と「デストロイ」と過激な単語が仲良く並んで、完全に日本語ローカライズ班がやらかした感が漂うが、別に修正される事も無い。
元の英語版の表記がどうだったか、こんな夢の中では確認のしようもないが、少なくともこんな退廃メタルな名前ではなかった筈だ。
そんなんだったら逆に覚えてる気がするし。
ともあれ、それをそのまま使えば良いだろうに、なにを思ってこんなスラッシュなメタルみたいな名前にしたのやら。
アレか? ハクスラだからか?
俺はどっちも好きだけど、だからってさあ……。
毎回「ク◯が! ぶっ壊れちまいな!(意訳)」なんてシャウトする訳にもいかないし、俺は開き直って「ダム」部分を無視して「デストロイ」を勝手に改変、お上品に「ミス・デストレア」……ごめん嘘、単に女性っぽいと言うだけの理由で「デストレア」と呼んでいる。
やらかし度では俺もローカライズ担当と大差無いが、俺は俺にしか通用しないと自覚してるし、外に向かって公言した訳でもない。
そういう意味で罪は小さいと思うが、どうかな?
っていうか、ローカライズ班は誰も気にしなかったんだろうか。
ヘドバンしすぎてどうでも良くなっちゃったとしか思えない。だーむ。
読みとか名付けの微妙さはさておき、それ単体でかなりの火力を見込める、主砲と言って差し支えの無い火力。
迸る火線を、俺は迷わず大地に叩きつけた。
ゲーム内で出来る挙動ではないし、遊んでいて反動が有るような様子など見受けられなかったが、きっとアレだ。
凄い魔法技術で制御してるんだろう、きっと。
それにこれは夢だ。
何でも有りの夢だったら、「極太ビーム魔法を推力に飛行」とか、余裕だろう。
言うほど極太じゃないが、代わりに火属性の魔力拡張スキルで、同時に2本発射のイカツイ仕様に変更済みだ。
どうでも良い事を考えてる間に、発動から1秒経過。
急速に威力を上昇させた「デストレア」は大地に激しく突き刺さり、特に抵抗なく俺を遥かな高空――多分俺が思ってるほど高くないんだろう、きっと――まで運んだ。
正直、夢だと言うのに滅茶苦茶怖い。
高度感がリアルで、浮遊感がリアルで。
「んにゃあああああああ!?」
甲高い、耳慣れない自分の――だと思う――悲鳴と、割と遠目に見えた気がした城壁のような何か、その両方共に確認も気にする余裕もなく。
恐怖心からデストレアを解除した俺は、引力に引かれて地面へと急速帰還を開始する。
やばい、やばいっ!
慌てて再度デストレアを起動させるが、どうやら行動が遅かったらしい。
「ぎにゃっ!?」
落下に拮抗する程の出力を発揮する前に、俺は比較的やんわりと、腕を突き出した姿勢のままで大地に手荒く受け止められたのだった。
激痛にのたうち回ることしばし、これは絶対に腕が折れてる、というか折れてるで済んでる気がしない、そう思いながら何とか身体を起こしてみれば。
痛みこそ残るものの、俺の両腕は健在であった。
あの高さから、いくらか減速したとは言え腕からモロに落ちたと言うのに、これは……。
そう真面目に考えかけた所で、はたと気が付く。
そう、これは夢なのだ。
途端に、身体から力が抜ける。
夢なんだから、どうせならさっき見えた建物? 壁? に向かって飛んでみても良かったな。
そう思う俺だが、じゃあ今からやって見よう、とは思わなかった。
だって怖かったんだもん。
幾ら夢だって言っても、怖いもんは怖いんだよ!
そんな事しなくても、もう歩いて行けそうな距離には見えたし、きっと大丈夫。
さっきの高さとその臨場感を思い出し、足が震えるのに任せ、少しの時間だけ、その場で立ち尽く……のんびりと過ごすのであった。
いくらなんでも、考えなさすぎ。




