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実験は周囲の安全配慮から

信じたくない事が重なりすぎたとき、重要なのは現状の確認。

 俺は、女性が好きだ。大好きだ。結婚も視野に入っている。


 ゲームで、概ねソロで遊ぶ世界。

 言うなれば「俺だけの世界」で、こんな俺が、何が悲しくて男の背中を見ていなければならないのか。


 そこに居るのは自分の分身、性別変更なんか論外と言う人々が居ることも知っている。

 無論、考え方は人それぞれ、楽しめるならソレで良いと思う。

 だが、俺はイヤなのだ。


 どうせ眺めるなら、男の後頭部より女の尻である。


 こんな俺なので、ゲームを始めるに当たって、当然のように自キャラは女。

 敢えて声にして言うが、俺はネカマでは無い。

 俺は、男であることを公言し、女キャラを使用する理由を問われれば――聞かれることなど滅多に無いが――胸を張って上記のように答えたものだ。


 そう、つまり。


 今の俺は、女ボディの男と言う、最高に王道なステータスを手にしたのだった。

 なにが「つまり」でどこの世界の王道なのか、混乱しているので問うのは控えて欲しい、そんな俺です。




 胸当て越しに胸を触って自分でドギマギ……するほどのモノでもないと落胆してみたり、股間の落ち着きの無さに、情けなく嘆いてみたり。

 すぐに、どうせ夢なのだから男に変化出来ない物かと思いついたが、それはうまく行かなかった。


 なんでだよ。


 そうは思うが、男キャラなど使ったことも無いから、それも当然な訳で……。

 いや、そうじゃないだろ。元の自分の身体(からだ)に戻れば良いだけだろ。

 それすら出来ないのはどういう理屈だ。


 大体、女好きなのは俺が「男」だからであって、女になりたいなんて思ったことは1度たりとも無い。

 ここは重要なポイントだが、「女好き」と「女になりたい」の間には果てしない距離がある。


 ホントに、明日目を覚ましたら即病院に行かねば。

 ゲームのキャラになりたかったとか、病んでいるにも程があるだろう。

 溜息吐(つ)くぞコンチクショウメ。


 それはソレとして、である。


 爽やかに風がそよぐ丘と、抜ける様な青空。

 どう見てもいつものゲームのダークなファンタジー世界とは違う風景だが、これは一体、俺のどんな逃避願望なのだろうか。


 いや、あの陰鬱なゲームの世界に行きたいか? と聞かれたら全力で否(ノー)だが、あれほどのダークかつバイオレンスなゲームのキャラで、牧歌的な風景の中に居るというのも……正直意味が理解(わか)らない。


 固定見下ろし(クォータービュー)のゲームだったから、正直空模様なんて想像しか出来ない訳だけど。


 変身願望と逃避願望、か……。


 本格的にヤバい予感がする。

 入院とかになったらどうしよう。


 ま、まあ、暗くなっても仕方ない。

 折角見ている夢なのだから、多少遊んでも問題あるまい。


 右手を何気なく掲げ、デストレイア……は流石にアレなので魔力光弾、掌から放たれる、青白く輝く鏃。

 使えるかどうかの確認的な意味で、特に意味も無くソレを1発、虚空に向けて放つ。

 何かをタゲって居た訳でも無いので、それは僅かに上昇しながら宙を舞い、すぐに切っ先を地面へと向けるとひらりと空を滑りながら、15メートル程先の地面へと落ちていく。


 ああ、ゲーム内の挙動と同じだなあ。


 ターゲット……敵を狙って居ない時の魔力光弾は、割とすぐ近くに落ちる。

 そう言えば俺、光弾のオプション属性は稲妻だったなあ。

 そんな事をほのぼの考えて居た俺の目の前に。


 見た目に反して大地を大きく抉る魔力光弾と、それを追って大地に降り注ぐ7つの火球の轟音が空気を激しく震わせ、失われた息子を縮み上がらせたのだった。


 これも、幻肢痛(ファントムペイン)と言うのだろうか?

 多分、違うと思う。




 ゲームの世界は基本頑丈で、せいぜいがテクスチャで誤魔化してるふうでしかなかった。

 だから、遊んでいても気付かなかった、いや、意識すらしていなかった。


 ハクスラゲーと言うものは、最終ステータスがおかしい。


 序盤は良いのだが、ストーリーをクリアし、装備を整え――順番がおかしい? いや、この順番で合っている――エンドコンテンツの「深層領域」に挑むようになると、与えるダメージがおかしな事になっていくのだ。


 まず、ダメージ表記が、気が付くと「30M」とかになる。

 メートルではない。


「メガ」表記かな? と思うかも知れないが、正解はミリオンの略である。

 意味はほぼ同じだが。


 要は、1Mと表示されたらそれは100万ダメージを超えましたと言うことで、30Mとなったらそれは3千万ダメージということだ。


 これが、その上になるとどうなるか?

 正解は「B」、即ちビリオン……10億ダメージ表記になる。


 幾らゲームとは言え、そんな馬鹿な、と思うかも知れない。

 しかし、ライト層の俺でさえ、自力で1500B前後(ぜんご)、道中でパワーオーブとか言う謎アイテムを拾えば、20秒限定では有るものの、2500B超え……2兆5千億ダメージとかが普通に出るのだ。


 トップランカーが、どういうダメージの世界で戦っているのか……想像も出来ない。


 ちなみに、こちらの被ダメージはそれほど大きくない。

 俺の自キャラのHPが90万そこそこで、1~3発程度は耐えられる。

 その上でダメージカットの障壁を張ってたりするので、そこそこ殴り合いも出来たりするのだ。


 え? ダメージ差が卑怯?


 4桁B(ビリオン)ダメの攻撃を10発以上食らわせてもまだまだ元気一杯、そんなボスの前に立ってから、その台詞をもう一度お願いしたい。


 ……夢の中で現実逃避と言う離れ業を披露してしまったが、とりあえず現状を確認しよう。


 先程までの風のそよぎが戻ってきても、抉られ、焼かれた大地はおいそれと元に戻ることはない。

 俺は自分のキャラクターの装備状況を思い出し、そっと――当たり前のように装備画面を開く。


 犯人は、両手に持つそれぞれの武器の効果。

 特定スキルのダメージを上昇させるほか、他の特定のスキルたちをも同時に発動させる、チートですか? 以外の感想が浮かび難い素敵装備だ。


 なにがチート臭いかと言えば、追加で発動するスキルは魔力の消費がない。

 なのに威力は「普通に使うのと変わらない」のだ。


 そしてその同時発動の条件だが、実に簡単である。


 先程の例で言えば、トリガーとなった魔法が魔力光弾、光る鏃(やじり)のような攻撃魔法だ。

 その魔力光弾の後に降り注いだ7発の火球。


 アレは隕石(ミーティア)。

 魔力光弾の発動をトリガーに自動で発動した魔法だが、ちゃんと単体でも使用出来る。


 そのミーティアに、流星雨(りゅうせいう)という、1度の発動で複数降り注ぐ属性を付与してある隕石雨……と言うか火球雨。

 それが振り注いだ結果が目の前の光景、と言うことだ。


 本気で隕石だったら、もっとシャレにならないことになると思うので、そういう事なのだろうと思う。


 そもそもあんな至近距離に隕石落下とか、普通に死ぬ。

 とは言え俺の切り札でも有るので、隕石では無かったとしても、威力は折り紙付きだ。

 複数個に分散されているので、1発あたりの威力はそれなりに低い。


 それでも眼前に広がるのは、暴虐の爪痕。


 ゲームと違って、ミーティアは俺よりだいぶ前方に向かって広がるように落ちたようだ。

 俺の知ってるダメージ値が大地に与える影響というのは正直ピンと来ていないが、それでも目の前に1個あたり直径20メートル程度のクレーターとして広がって頂くと、大変解りやすい。


 一応、曲がりなりにもクレーター状態になって居るのだ、侮って良い威力ではない。

 これで最大威力状態だったらどうなるのか。

 考えただけで再ヒュンしてしまう。


 今の俺には、ヒュンとするモノは無い筈なのだが。


 そんな、割とすぐ目の前の惨状に、素直な別の疑問も湧いて出る。

 こんな有り様の傍らで、俺は何で無傷で、呑気に考え事する余裕があるんだろうか?


 当然誰も、そんなどうでも良い事に答えてくれる筈もなかった。

思考逃避も、時には必要。

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