悪巧みの午後
素知らぬ顔には無理がある。
ちょっと早めに宿に戻った俺は、難しい顔で腕組みしてベッドに腰掛けるタイラーくんを目撃する。
大変そうだねぇ、なんか知らんけど頑張ってね?
素知らぬ顔でこんにちは、俺です。
「待て。少し相談に乗れ」
ちっ。
逃げられなかったか。
「なんでい、相談って」
部屋だし、そもそも装備を外しても問題ない。
俺は仮面を外して、適当にタイラーくんの向かいのベッドに腰掛ける。
そんな俺とタイラーくんの周りには、子供達が腰掛けたり寝転んだり。
いいなあ自由で。
「あと2人だ」
真顔だし圧が強いし、もー。なんなの。
「言葉が足りないって、言葉が。もっと言葉を尽くせ、頑張って伝えて行こうぜ」
正直、言いたいことは何となく理解るのよ?
でもほら、聞いてるのは俺だけじゃない訳よ。
そんな事を思いながら、俺は寄ってきたフレッドくんとカレンちゃんに挟まれつつ、タイラーくんと少し距離があるものの、向かい合う形でベッドに腰を下ろす。
「メンバーがあと2人ってんだろ? ツテがなきゃ厳しくねえか? 俺はともかく、タイラーくんやジェシカさんが知らん相手なら、正直、信用して迎え入れるとか難しいぞ?」
俺が言うと、丁度部屋に戻ってきたジェシカさんが頷きながら続く。
「そうなのよねぇ。まあ、最悪は適当なの2人誘ってクラン立ち上げちゃって、すぐに放逐しても良いと思うけど」
いつもの笑顔で、なんかとんでもねぇ事言い出すジェシカさん。
駄目だよ? そういう、禍根にしかならないことは絶対駄目よ?
「考え方変えようぜ」
俺が事も無げに言うと、珍しくポカンとした顔でタイラーくんが俺を見る。
「ウチのクランって、どういう集まりだい?」
俺が楽しげに質問を投げると、タイラーくんとジェシカさんが顔を見合わせる。
「仲間!」
「仲間ー!」
フレッドくんとカレンちゃんがほぼ同時に、手まで挙げて答える。
純粋なその意見は眩しいし羨ましい。
俺は2人の頭に手を載せ、優しく撫でてやる。
「だ、そうだぜ? 結局クランに何を求めるかなんて、人それぞれな訳だ。小難しく考えてもしょうがないじゃんよ」
俺にとってはどうなのか?
正直判らない。
なにせ、クランを結成するなんて、考えてなかった。
俺は少し背を反らせ、上体を両腕で支えるようにして軽く伸びをして、タイラーくんの方に改めて向き直る。
「別に躍起になって依頼やらんでも、資金はしばらくは有るし? 何となく貯金できてる、って程度で依頼回してたら問題ないさ」
つまり、ガンガン依頼受ける様な、根っから冒険者です、っていうタイプは今は必要ない。
そういうのは、現状で充分だから。
「俺が今仲間に欲しいのは、料理作れるやつと魔法道具を作れるやつ。こんなトコかな?」
虚を突かれたのか盲点だったのか、タイラーくんが目を見開いている。
珍しく考え込み過ぎなんじゃないの?
普段のタイラーくんだったら、絶対気づいてると思うんだ、こんなの。
「んで、そう言う連中って、研究やら開発やら修行やら終わるとか軌道に乗るとかするまで、色々大変なんじゃないかな? 具体的には、資金とかさ」
俺が言いたいのは気楽な仲間探しのアイディア、なんてもんじゃない。
そもそも、誰もがクランに求める事は違うが、結局どういう形であれ、メリットが有るからこそ参加するんだろう。
単純に冒険者なら、バランスの良いパーティで冒険したり、周辺の攻略を効率よくしたいとか。
そうで無ければ、冒険者しながら錬金術を研究してたり、魔法道具作ったり。
料理人として身を立てたい奴も居るかも知れない。
そういうタイプの連中は当然努力を重ねるが、必ずしも上手くいく訳でもないだろう。
例えば、実力は有るが、スポンサーが付かないとかね。
あとちょっとの資金で上手くいく、そう頑張ってる連中を取り込むのはある程度判り易いんじゃないかな?
「料理人目指してるんなら、ウチだったら料理作り放題だ。魔道具作ったりだったら、当然環境を整えるのも協力するし、その先に作ったもので商売できたら面白いだろうし」
そういうのを、即物的なメリットを目の前にぶら下げて餌で釣れと、そういう現金な話をしているのだ。
具体的に、俺が欲しいと思える人材を指定しつつ。
こっちは食材やら資金を提供し、特に魔道具関連は商売にも出来ると。
異世界モノの定番、地球製品の異世界開発なら、アイディアは出せない事も無いのだから。
娯楽で言えば、トランプとか……この世界、紙も有るし。
紙に強度持たせられたら、案外作れそうじゃない?
んで、そう言う事になるのなら、欲しい人材もきちんと明言する必要が有るだろう。
欲しいと言えば、屋敷の管理を任せられる人も欲しいね、いずれは。
「後は、まあ、3人程度で、あの屋敷を維持できる人材が欲しいな。毎日掃除しろとは言わんけど、まあ、全体がそこそこ綺麗に保てるようにさ」
俺の話を、いつの間にかメモを取りながら聞くタイラーくん。
「成程……料理人か。それに魔道具作成のスキル持ちに『商品』を作らせるとは、考えたな。どういった物を作らせるんだ?」
ありゃ。乗り気なのは良いけど、出来るかは別問題だぜ?
まあ、言うだけならタダだし、良いけどさ。
「そうだな。例えば、改良された石鹸とか、食材やら酒やらを冷やして保存できる箱とか」
俺の言葉にピンと来ないのか、今ひとつな反応のタイラーくん。
「食材の保管? それはアイテムボックスでは無いのか?」
ジェシカさんもタイラーくんの隣で、同じ用に訝しげだ。
「いや、単純に保存するんじゃなくて、能動的に『冷やして』置く物さ。冷やすってのは、実際に出来ると馬鹿に出来んもんだぜ?」
例えば今はそういうアイテムが普及してないから、どうしても常温で飲むのが普通なエールが主流だが。
冷やすことが普通にできるようになれば、冷やして美味いラガーが台頭することになるだろう。
風呂上がりにキンキンに冷えたビール、最高だよね。
俺のどうでもいい郷愁はともかく、言葉での理解は難しいだろうなあ。
コレばっかりは完成したもので体感させないと、かもね。
「ゆくゆくは開発は2人とかに増員しても良いだろうし、料理人も2人体制にして良いと思う。屋敷のメンテ役は他の人数が増えたら必要に応じて増員で」
使う部屋の掃除をメインに、使っていない部屋は最低でも週1で掃除しとけば、急な来客が続かない限り大丈夫だろう。
「お掃除は、僕たちも手伝えるよ!」
タイラーくんの近くに居たマシューくんが、元気に手を挙げる。
良いね、頼もしいぜマシューくん!
「というわけで、最低でも欲しい人材が5人は居る訳だ。どうせあれだろ? あの家に住まわせろとか言うんだろ? だったらあの家に俺達が引っ越してから探しても良いし、焦ることもないだろうさ」
マシューくんの頭を撫で回しながら俺が言うと、タイラーくんが大きく伸びをする。
「フン。一瞬は殺気を撒き散らすほど怒ってた癖に、案外前向きに考えてくれるじゃないか」
え、嘘。
やだなあ、殺気なんて出して無いっすよ……え、マジで?
「正直、タイラーくんが下手打ったと思ったわね。暴れだすんじゃないか心配したもの」
ジェシカさんまでそんな。
なんか怖くて子供達にその話題を振れない、聞けない。
「俺が怒ったのは内容じゃなくて、ちゃんと相談しろって事だからな。相談を持ちかけられてたら、混ぜっ返しはしても怒りゃしねぇよ」
だから、一応言い訳。
俺が言うと、タイラーくんが肩を竦める。
ホントに理解ってるんだろうな、コイツ。
……まあ、良いけどさ。
「敢えて言うなら、急いで欲しい人材は料理人だな。クランを立ち上げる事を説明して、その上で力貸してくれる様な奴が良いね。引っ越してすぐ、家で美味いもの食いたいじゃない?」
誤魔化しに、話を戻す。
誤魔化しの話題だけど、希望しているのは本当だ。
腕が良ければ尚良し。
「成程、クランマスターの直々の指定だ、早速今晩にも調査に行くか」
調査? 今晩?
何やら晴れ晴れとした顔で、タイラーくんがメモを閉じる。
どうやら悩みはある程度晴れたのね、良かった良かった。
……ソレは良いんだけどね?
なんでだろうね? 今晩にも、って辺りに、すっごく嫌な予感がするよね?
俺の疑問顔を無視するその横顔は、多分、何を言っても答えてなんかくれないんだろう。
そんな事だけは、何故か確信できるのだった。
結局、ノリノリ。




