混乱を極めし者
似た者同士、ぶつかる事もある。
思いつきで行動する奴とか、ホント困るよね。
何よクランって。
予め相談くらい貰わないとさぁ。
なんだか微妙に座りが悪い、そんな俺です。
ほら、急に家を買いたいとか言われても、言われたほうは咄嗟に反応出来ないじゃん?
そういう事だよ、うん。
うん? 最近似た事例を目にした?
へぇ、世の中には迷惑な人って居るもんだね?
「……当のリリスが、話に着いてこれて居ないようだが」
ハンスさんの声が不意に、明瞭に聞こえて、ハッとして周囲を見渡し、それから俺は事の発端に荒れた声を投げつける。
「おいタイラーお前この野郎!」
口調がどこかの芸人風になったが、そんな事は今どうでも良い。
鼻息も荒く糾弾の指を突きつける、そんな真っ当な反応の俺。
「なんだ、黙り込んだり騒ぎ出したり、忙しいやつだな」
だと言うのに、タイラーは全く気にする素振りが見られない。
この野郎は、自分が原因だとは露ほども思っちゃ居ない様子で、あろう事か溜息まで重ねやがる。
「誰の所為だと思ってやがるんだコンチキショウ! クランとか、ひとっつも聞いちゃ居ねえぞ俺ァ‼」
テーブルを強く叩いてから、指先をもう一度タイラーに突きつける。
「……嫌なのか?」
顔色を変えるような可愛げなんか欠片ほども見せず、タイラーはそもそも悪びれない。
「嫌かどうかの話はして無ェんだよ俺は! 勝手にお前が決めた事に巻き込むなっつってんだよ! テメェの常識はどうなってやがるんだ⁉ あぁ⁉」
今回ばかりは言わなきゃならん。
そりゃあ、俺の家の件も周りを振り回したのだが、俺的には勝手に勘違いされた感じだ。
基本は「俺が個人的に」住むための家を買う相談からのスタートだった筈だ。
そもそもクランってのが、俺の知ってる「クラン」と同じものか判らんし、同じだったとしても。
いや、同じだったら尚の事、それは「個人で」決める事柄じゃないだろう。
「なんで『血族』って言うのか、良く考えろこの野郎……!」
単なる思いつきの事に俺や子供達を巻き込むなら、幾らこいつでも、ちょっと許す訳にはいかない。
「子供達は元より孤児、身を寄せ合って必死に生きている。彼らはお前のクランに入ることに、抵抗は無いだろう」
勝手に話を進める様に見えるタイラーに激昂しかけるが、その俺の視界の端で、子供達が大きく頷いている。
視線を向ければ、不機嫌で酷いツラをしてるであろう俺に、精一杯の笑顔で頷いて見せている。
怒ってる俺が怖いのだろう、冷や汗が見え隠れしているのに。
……そんな顔されたら、怒れないじゃないの。
「俺もジェシカも、お前を気に入っている。すぐに暴走するし、目を離したらすぐ暴れるような危なっかしい奴だが、目を離せない部分も含めて、まあ悪くないと、そう思う」
少しも褒められている気がしないが、少なくとも「いつもの」軽口とは違うらしい。
タイラーの言葉に、今度はジェシカさんがのんびりと頷いて見せる。
「リリスちゃん、一緒にいると面白いからね。宛もなく旅から旅の冒険者も悪くないけど、落ち着けるならその方が楽だしね」
カラカラと笑い、ジェシカさんは大人の余裕を俺の方へ向けてくる。
「……なんでジェシカさんまで乗り気なのさ……」
げんなり顔の俺と、ニコニコ顔のジェシカさん。
役者が違う。
格が違い過ぎる。
この人にはこの先ずーっと、頭が上がらないんだろうな。
そう思うと、自然と溜息が漏れた。
「で、もう一度聞くが。嫌なのか?」
そんな諦めムードに肩まで浸かった俺に、タイラーくんの確認の声が振ってくる。
卑怯な野郎め……!
タイラーくんの、答えは判りきってる、的な表情にもハラが立つ。
「……俺が怒ったのは嫌だからじゃなくて、勝手に話を進めるその態度に、だ。間違えんじゃねぇぞバーカ」
精々憎々しげに、つまらなそうに言ってやる。
それで気が晴れる訳でもないが、言ってやらなきゃ気が済まなかったんだ。
深く大きく、今度は意識して溜息を吐く。
「運営はお前らに丸投げすんぞ」
「任せろ。組織の資金を食い潰すとか、やってみたかったんだ」
心底うんざり顔の俺と、全然楽しくなさそうなタイラーくん。
とても和解の顔合わせには見えないが、短い付き合いでお互いどころか、周囲がコレを日常の一幕と認識しているらしい。
どうにか纏まったふうの雰囲気に、主に子供達がホッとした様に表情を緩める。
ごめんよ、君達はひとつも悪くないんだよ。
タイラーくんは、後程説教だ。
「やれやれ、纏まったか。クラン結成の届け出はキチンと手続きを踏めよ? 人数は5人からだが、成人前の子供はカウントされない。後2人頑張れよ」
もういい加減頭に入れるべき情報が増えるのは勘弁して欲しい、そう思いながら歩み去るハンスさんの背中を見送り、タイラーくんの顔に視線を戻した俺は思わず吹き出していた。
「子供が不可……だと……?」
心底驚いた顔のタイラーくんというのは、多分レアなものだと思う。
一度報酬を持ってきてくれたハンスさん――この人、意外とフットワーク軽いのな――に、クラン結成の条件について確認して、やっぱり打ちひしがれる様子のタイラーくんを指差して笑ってやってから、俺は子供達と共に、意気揚々と薬草採取に。
今日は東門の方に行くというので、5人でワイワイと移動。
キャイキャイとはしゃぎながら薬草を採取し、俺の能力……正確にはゲームのシステムだけど、ソレによって俺のアイテムボックスに、付近の薬草をごっそりと「回収」する。
子供達と薬草を探して俺が拾う、を何度か繰り返し、30分程度の時間で全員が12束納品できるほど採取し、ワイワイとギルドへと戻る。
薬草採りも、賑やかにやると楽しいねぇ。
え? 普通に採取しろ?
やだよそんな、腰に来そうな事。
ギルドで納品し、それぞれが報酬を受け取り、さてこれからどうすっかな、そう思っていると。
「リリス姉ちゃん、お家見に行こう!」
マシューくんが手を引いてくる。
「おいおい、まだ修繕中だし、行っても中には入れないぞ?」
空いてる手をカレンちゃんに引かれ、俺はよたよたとギルドを出る。
何人か人相の悪い冒険者が慌てたように俺を避けて行くが、中に混じってた人相が悪いのに気さくな冒険者が、すげ良い笑顔で挨拶してすれ違う。
媚びてるとか、そんなんじゃない、人相が悪いなりに、心からの笑顔。
そんなもん向けられる程、俺は愛想が良くない筈だし、そもそも心当たりも、と考えた所で気が付く。
……ああ! ありゃあグスタフさんトコの若いのか。
そう言えば出発前の晩とか、一緒に呑んでたわ。
ちょっとづつ顔が広がっていく感じで、なんだかこそばゆい気持ちを味わいつつも、子供達に急かされるままに俺は歩く。
商店街を抜け、急に静かになった通りを曲がり、俺達は絶賛作業中の建物を、門の外から見上げる。
2階建てなのだが天井が高いようで、俺の知ってる2階建ての建築物より上背が有る。
「ねえ、僕たちは4人でひと部屋なの?」
見上げてくるマシューくんの頭を撫でながら、俺は答える。
「いや、基本は1人1部屋だよ? まあ、寂しかったら誰かの部屋に集まって寝ても良いし、なんなら俺んとこ来ても良いし」
カレンちゃんとティアちゃんに飛びつかれ、ほんわかした気分でしばらく工事の様子を眺め、ギルド前の広場に向かって移動する。
適当に串焼きとか果実飲料でも楽しんで、のんびりしよう、そんな事を考えながら。
似た者同士、適当に済ます事もある。




