報告
完了報告までが、仕事。
釈然としない気持ちで食事を終え、冒険者ギルドでハンスさんの出勤を待ちながらのんびりとバーの一角を占領する俺達。
報告は完全にタイラー組に任せるので、報告の為の地図と書類をチェックしている2人を眺めて、する事も無くあちこち見てたりする、そんな俺です。
子供達はすぐに薬草採りに行くとかで俺もお誘いを受ける。
しかし報告をすっぽかす訳にも行かないので、一緒にハンスさんを待って貰う事になった。
「帰ってきたばかりだって言うのに、マメねえ、リリスちゃん」
俺が薬草採取に行くと知り、報告すべき事の抜けが無いか、説明に不足が無いかを再度確認しつつ、エールを呷ってからジェシカさんが口を開く。
……大丈夫なのそれ? 呑みながらとか、ホントにチェック出来てるの?
「確かに、仕事中の飲酒は褒められた物ではないな。特にジェシカは、呑みすぎるきらいが有るからな」
言いながら、ジョッキを傾けるタイラーくん。
……コントじゃねぇか。
ツッコまねぇからな?
そうこうしている間に、ギルドの入り口に熊さん登場。
手を振ってみせると、驚いた顔をしてからこちらに真っすぐ歩いてくる。
「まさかと思うが、戻ったのか? 早すぎると思うんだが?」
一応礼儀として仮面を外した俺の頭を掴んで、ハンスさんは不思議そうに尋ねる。
待て。なんで頭を鷲掴みなんだ。
「俺が吐きそうになって倒れたり色々有ったんだよ」
俺が端折りすぎたダイジェスト報告をすると、熊のハンスさんよりもウチの少年少女達の方が驚いていた。
そう言えば、その辺の話はしてなかったな。
なんかごめん。
「調査は出来たのか? 治療師を呼ぶか?」
意外な事に、なんだか心配そうなハンスさん。
あれ? なんかそれはそれで居心地悪いんだけど?
「もう大丈夫だよ。調査は終わってて、そっちの2人が報告の資料纏めてる。バカ犬共のマーキング跡を見つけたぜ」
取り敢えず、体調不良で帰還して、調査終わってないとか思われたらイヤだったので、そうではないよとアピール。
俺の報告? に視線を巡らせるハンスさんに、資料を突きつける2人。
「ああ、すまんな。確認させてもらうが、先に規定分の報酬を持ってこさせる。追加に関しては、内容を確認してからだな」
資料を受け取り、地図に書き込まれた内容を軽く確認し、そこで漸くハンスさんは俺を解放する。
そう。今までこのオッサン、俺の頭を掴んだままだったのだ。
「それと、ハンスさん。俺とジェシカは訳有ってコイツらと一緒に暮らすことになった。それでって訳じゃないが、今後しばらくは緊急性の低い仕事は受けず、のんびりしようと思う」
頭を解放され安堵の溜息を漏らす俺と、資料を持って立ち上がろうとするハンスさんは、同時にタイラーくんへと顔を向ける。
いやまあ、暮らすのは事実だけど、報告要るのか?
特に後半、言わなくても良い気が……何かのケジメなのかな。
まあ、仕事減らすのは宿代かからなくなるし、臨時収入が有ったからだろうな。
二度と金貨つかみ取り大会はやんないけどな!
「うん? ああ、いやそれは構わんよ、緊急時に力を貸してもらえるなら、犯罪以外は好きにしてくれて良いんだが」
虚を突かれた様子のハンスさんだったが、タイラーくんの表情を見ている内にその顔に笑みが広がる。
ねえ、俺の目にはいつも通りの、徹頭徹尾無愛想なタイラーくんでしか無いんだけど?
ねえ、ちょっと男子、なぁに通じ合っちゃってんの?
「随分楽しそうな顔じゃないか、何をするんだ?」
ハンスさん?
楽しそうに見えるの? あれが?
なに、ミクロン単位の表情の変化なの? 俺、そんなに眼が良くねぇよ?
なんであの仏頂面みて楽しそうな顔とか思えるの?
「ちび共に稽古つけてやりながら、そいつ……リリスとな?」
あー、フレッドくん達の面倒見る感じなのね。
そう思った所で、急に名前が出て驚く。
しかも、思わせぶりに言葉を切りやがって、なんなの?
そう思う俺が、取り敢えず手近な文句でもぶつけてやろうと口を開いた所で、それを遮る様にタイラーくん自身が、再度言葉を押し出してきた。
「クランを結成しようかと思ってる」
……なんて?
クラン結成。
ハンスは久しい響きに僅かに耳を疑ったが、目の前の男は本気なのだと悟ると上げかけていた腰を椅子に据え直す。
「詳しく聞こうか? 特に、リリスと、という辺りをな」
ハンスの左隣では、急に名前を出されたと思しきリリスが、戸惑いからか動きを停止させている。
恐らく、今初めて聞いたのだろう。
そんな有様で血族とは、なんともちぐはぐな印象は否めない。
だが。
「詳しくも何も、言葉のままだ。クランマスターはリリス、その下に俺達」
初めて聞いたであろうリリスが、大口を開けてテーブルに手をつき、身体を支える。
テーブルの向こうでは、やはり驚いているジェシカ。
その周りで、子供達が不安そうに成り行きを見つめている。
この男は、あれ程言ったのに、まだ。
言葉が足りないクセが治っていないらしい。
「子供達はどうするんだ? 随分お前たちに懐いているようだが?」
ハンスの言葉に、ふと小さく笑みをこぼし、タイラーは4人の子供達へと眼を向ける。
「当然、クランのメンバーとして迎えたい。勿論、本人の意思を優先するが」
タイラーの言葉に、安心したように相好を崩す4人。
あの様子ならば、子供達は大丈夫だろう。
ハンスは1人小さく頷くと、視線を隣に向ける。
「……当のリリスが、話に着いてこれて居ないようだが」
言われて全員が向けた視線の先では、ハンスの言葉に、リリスが思考と動きを取り戻しつつあった。
混乱を招く報告もある。




