帰路の憂鬱
同乗者? は無茶を言いがち。
昼食と並行して地図の書き込みの確認をして、タイラーくんとジェシカさんは報告の抜けはないと判断、荷物を纏めて帰還することに決まった。
それは異存ないのだが。
「帰りはテレポートとやらが有るから、夕刻までは帰れるか?」
ごく簡単にコイツは何を言い出しやがるかな?
「途中で細かく休憩させろ。幾ら何でも、休憩無しで跳んだら死んでしまう」
MPが尽きないように気を使いつつ、限界まで跳ぶ、コレが出来れば大丈夫だが、正直そんな器用な事ができる気が全くしない。
原因は目の前にいる2人。
こいつら、テレポートに慣れたら慣れたで急かすようになりやがった。
調子狂わされたらMP管理が雑になる。
非常に嫌な予感がするので、跳ぶにしても毎回MP残量を確認し、余裕の有無は見ておこう。
きちんと管理出来れば、タイラーくんの言う通り、夕方くらいまでには帰れるとは思うが、余計な事を言うとホントに急かされ兼ねない。
帰りは慎重に帰ろう。
脳裏を掠めるのは嫌な予感かフラグの立った音か、どっちにしろロクなもんじゃない。そう思う俺です。
結局帰りに4回ぶっ倒れ、その都度休憩をとり――しかし万全の体調には戻せず――街に着いたのは、すっかり夜。
「使えない……」
「あぁ⁉ お前、言うに事欠いてこの野郎!」
夜間は門が閉まる。
門前の広場で、俺達は悪態を吐きあいながら野営の準備である。
野営だから当然見張りも立てるのだが、すぐそこに大門があり、防壁の上では衛兵が警戒してくれている。
警戒っていうか、俺とタイラーくんの仲良しコンビのじゃれ合いを見て笑ってる衛兵も居る。
こっちは良いから仕事しろよもう!
夜間は、余程やんごとなき方々の特使とかそういった証の有る者でもなければ、例えこの街出身の冒険者であろうとも中に入れないのがルール。
そんな感じで衛兵さんが眼を光らせてくれるので、半端な場所で野営するくらいなら門の前まで来たほうが安心して眠れる。
「あー、頭痛え。悪いが先に休ませてもらうぜ、交代の時間で起こしてくれ」
タイラーくんとじゃれて遊んでいたのだが、キャンプの準備も整い薪に火が入ると、俺は夕食もそこそこに横になった。
晩飯も朝昼と同じメニューだし、起きてから食おう。
そう思いつつ、簡単な寝床を地面に設え横になると、俺の意識は急速に深い所へ潜っていく。
ああ、仮面外したっけか、そんな事を思ったが、そこまでが限界で。
タイラーくんの声で眼を醒まし、仮面を付けたままだったことに少し頭を抱える。
そんなどうでもいい事は脇にどかして見張りを交代し、俺は昨夜と同じく周囲を警戒しつつ、とりとめもなく考える。
やはり昨夜と同じ疑問を胸中に、朝日が星々を追い払い、遠く稜線を浮かび上がらせる様を眺めて。
昨日に続いて答えを見つける事が出来ず、今日も俺は、自分の立ち位置を保留する事しか出来ないのだった。
太陽も出たし、衛兵さん達も門を開けたり交代していたりと動き出し、今日が始まるんだなぁ、などと非常に他人事な感想を思いながら先輩方を叩き起こす。
後輩冒険者の鑑と呼んで頂きたい。
それはともかく、門が開くまでの時間で考える。
4日分の食料を買ったものの、2日半で帰ってきたので食料が余っているが、まあアイテムボックス? バッグ? どっちだっけか……。
とにかく、ソレのおかげで腐ることがないので安心だ。
安心なのだが、じゃあそれはいつ消費するのか。
服ごと身体を洗浄し、魔法の偉大さを感じながらも心からサッパリとしつつ、冒険者ギルドに顔出す前にはそんなどうでもいい事は忘れ、少し落ち着きたいと「銀の馬の骨」へ。
タイラーくんが特に文句を言わなかったのは、ジェシカさんがどうせなら「銀の馬の骨」での朝食を希望したのと、今ギルドに行っても時間が早すぎて、ハンスさんも来てないだろうという事だそうで。
だったら、と、俺達は悠々と「銀の馬の骨」へと踏み込むのだった。
今日はデザイン違いの軍服といつもの仮面。
見た目が変わっただけで中身は一緒なのだが、洗浄のおかげで隈なく綺麗。
魔法って便利。
便利は良いのだが、やはりこう、異世界モノお決まりの台詞は湧いて出る。
そろそろお風呂入りたいモンだ。
魔法で綺麗になるって言っても、やっぱお風呂は大事だよ。
ここ、銀の馬の骨には部屋持ち込み用に湯桶を借りるか、頑張っても裏庭の大ダルしかないから、手作業で身を清めることくらいしか出来ないけど、まあ気分だ。
⋯⋯例の新居のお風呂がものすごく楽しみです。
「リリスちゃんって」
やはり「銀の馬の骨」の飯は美味い。
2日半ぶりの子供達に囲まれ、そんな事を思いながら幸せに浸っていると、ジェシカさんがニコニコと俺を眺めている。
「干し肉とパンが好きなのかと思ってたけど、ちゃんと美味しいご飯を美味しいって思えるんだねー」
さらっと酷くないです?
「あのね、ジェシカさん。外に出て、安全でもない環境で食べるのに、凝った物の用意なんかしないでしょ」
好きで干し肉齧ってた訳じゃないんだから。
嫌いでもないけれど。
歯ごたえが有るから、アレ噛んでるだけでお腹いっぱいになった気分になれるし。
「……意外と考えていたんだな」
スープを味わいながら、タイラーくんが心底驚いたように呟く。
失礼を着こなしたメガネめ。
「いい加減確認しとかないといけないと思うんで聞くけどな? お前、俺を何だと思ってるんだ?」
食事中なので仮面のない俺は、嫌そうな顔を隠しもせずに尋ねる。
すると、数秒俺を見つめてから目を閉じ、頭を振ると言う暴挙に出た。
挙句の果てにその口から飛び出したのは
「出来の悪い、口も悪い妹かな」
どう聞いても立派な暴言である。
この野郎。
顔色ひとつ変えずに、人様を口も頭も悪いと言い切りやがった。
挙げ句にコイツの妹とか、どういう系統の罵声だ。
「リリスお姉ちゃんが妹だったら、タイラーさんは私のお兄ちゃん?」
ティアちゃんが澄んだ眼でタイラーくんを見上げている。
やめて。
うちの子がお前の妹とか、勢い余って灰にしちゃうぞこの野郎。
「……ティアが妹になるなら、リリスは要らないかな」
自然にティアちゃんの頭を撫でるタイラーくん。
実に気が合うじゃねぇか、この野郎……!
「お前なんかにウチの大事なティアちゃんを預けられるかバァカ! 手ェ出すんじゃ無ぇよこのメガネ!」
「いつもの事だが、お前の口調には品がないな。しかも罵倒の語彙が少なすぎる。少しは本を読め」
「うるせぇよバーカバーカ!」
最早いつもの光景となったらしい俺とタイラーくんのやりとりを、宿の女将さんや亭主、それにジェシカさんやウチの少年少女達までもが笑顔で眺めている。
なんか俺の扱い、悪いとまでは言わねぇけどさ……何て言うか。
ポジションで言ったら、ペットじゃねえか?
深刻な疑惑が湧いて出た訳だが、きっと問うても誰も答えないで笑ってるんだろうな、と。
そんな確信を抱いたのは俺の所為ばかりではない……そう思うのだった。
居場所が見つかって良かった。




