↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/50

空回りの輪舞曲

フォローするなら、ちゃんとしよう。

 もうさ。


 飯食ってから移動するんだったら、飯も冒険者ギルド(ここ)で食えば良いじゃん。


「食事は素直に、『銀の馬の骨』のが美味い」


 エールを水代わりに、タイラーくんが事も無げに言う。

 あのな、料理も出してる店でそういう事を普通に言うんじゃないよ。


 確かに妙に味の濃い肉料理とか、何かパサついてるパンとか、ちょっと元気の足りないサラダとか、そんなんしか無いつっても、折角作ってくれたもんなんだぞ?


 そういう人たちに失礼でしょうが。


 あ、夜の酒場からいつもの俺です。




「んで、料理出来るやつを探してるんだって?」


 何やら理由は判らないが、妙に上機嫌なグスタフさんが、俺の隣でジョッキを抱え込んでいる。

 アンタはいつからここで呑んでたんだ?

 というかホントに冒険者か? 酒樽の妖精とかじゃないだろうな?


「うん、とは言え、都合よく見つかるとも思えないけどねぇ」


 タイラーくんにはああ言ったが、実はコレが本音だ。

 そうそう理想の人材なんて、見つかるハズないじゃないの。


 クランを立ち上げるのはこの際良いけど、急ぐ理由も無いし。


 もっと言えば、俺は別にクランを必要として無い。

 ……寧ろ、なんでタイラーくんが強引とも言える程の勢いでクランを欲しているのかが理解(わか)らない。


 居場所が欲しいとか?

 いやまさか、コイツがそんな可愛らしい理由で動くもんかよ。

 

 まあ、仲間だと思ってくれてるなら、そのうち話してくれるんじゃないかな?


 色々あるだろうし、極論で言うなら「知らんけど」でしかないんだけどな。


「話は理解(わか)ったぜ。そういう話をどこかで聞いたら、覚えとくわ」

「ああ、助かるよ。頼みます」


 豪快な笑顔で、酒樽の妖精が請け負ってくれた。

 なんだかんだ良くここに居るし、聞けばこの冒険者ギルドの防衛班の責任者でもあるらしいし、これでクランのマスターもやってるらしい。


 そんなグスタフさんだから、あちこち顔が利く予感が有る。

 そうでなくても既に世話になり過ぎてるし、ちゃんと礼はその都度伝えねば。


「料理スキル持ちの冒険者か。それだけだったら該当は居るが、素行やら何やらに問題が有ると面倒だからな。慎重にもなるか」


 そしてグスタフさんの反対側、俺を挟む位置にいるのはハンスさんだ。


 最近ここに来ると大テーブルまで拉致されて、気が付くとなんかこのポジションなんだけど?

 何? 俺、なんか悪い事した?


 オッサンに挟まれると、俺、オッサンに戻っちゃうかも知れないぞ?

 くるっとひっくり返っておっさんの俺が出てきたら、こいつらどんな顔すんだろうな。


「まー、急がずのんびり構えとくさ。こういうのは、慌てるとロクな事がねェ」


 馬鹿な考えは置いといて、俺はエールをひとくち呷ってから、言葉を並べる。

 既に飽きるほど言った気がするが、どうもタイラーくんがコレに関しては焦り気味な感がある。


 事あるごとに言うくらいで、丁度良いだろう。


 焦らなくても、そのうち見つかるだろうしな、多分。知らんけど。




 タイラーは焦りを隠せない自分に、微かな怒りを覚える。


 ことこの件に関しては、リリスの言う通りだ。

 慌てても良い事が有るとは思えない。

 それが理解(わか)っているのに、どうしても気が急いてしまう。


 自分が捨てられたのだと知った幼いあの日から、ずっと探し続けていた。


 1年前にジェシカと出会い、手に入れたと思っていたモノ。

 だが、お互い冒険者だからと、何処か冷めている部分は有った。


 そんな半端な満足感に浸っていた日々、そこに現れた転機。


 危険な力を宿しながら、その在り様は世間知らずの生意気な小娘⋯⋯としか見えない新人冒険者。


 そんな出会いから、幾日か⋯⋯そう、まだほんの幾日かでしかないその交流の中で、湧き出る戸惑いを隠しながら、酒場で、そして調査で行動を共にした。


 一度は、その巨大な力に圧倒され⋯⋯同時に、その危うさに、いつかの自暴自棄だった自分の影を重ねた。


 そして、そんな時間の先にある、今。

 考えられない程賑やかになった日常が、ジェシカと違う反応で正面からぶつかって来る新人が、何故か慕って懐いてくる子供達が。


 タイラーの中で諦めかけ、俯き蹲っていた少年の心に――幼い頃の夢に光を当てていた。


 家族。己の居場所。

 それが手に入るのかも知れない。

 そう思えば、柄にも無く焦りが生まれる。

 

 そんな事は、この仲間たちには――恥ずかしさから、絶対に伝える事は出来ない。

 特に、出会ったばかりの。

 まっすぐな瞳で、まっすぐに感情を向けてくる、その感情のままに走り出す妹分には。


 どんな間違いが有っても、伝える訳にはいかない事だった。




 ちらりと目を向けると、タイラーは何やら考え込んでいる様子で、ハンスに観察されているとも気付いた様子はない。

 少しだけ目を伏せ、薄く笑う。


「あん? なんだぁ熊さん、ようやく酔ったのか? 3〜4日かかったな? だから無茶な飲み方すんなって言ってんのに」


 隣で上がった無粋な声を、ハンスは苦々しく右手を上げ、その頭を押さえつける。


「熊じゃないと何度言えば理解(わか)るんだ、お前は」

「ぎにゃあああ!? 痛え、髪、痛、ハゲるから離せえええ!」


 妙な悲鳴を上げているが、構わずグリグリと押さえつける。

 ――まったく、どうでもいい時はただの口の悪い小娘だ。


 視線の先のタイラーは、物思いの沼から上がってくる様子は無い。


「はっ、いいザマだなちびネコ。たまにはハンスに絞られとけ」


 グスタフの声を皮切りに、テーブルに笑いが咲く。

 咲かせている方は頭を振って逃れようとしている様だが、逃がすつもりは無い。


 反省を促して素直に従うタマでもないし、そもそも酒の席のじゃれ合いの範疇だ。

 いつもの妙な仮面を外し、油断したリリスが悪い。


「んぎぎぎぎ、はーなーせーっ、離してくれええ」

「なっはっはっ、逃げようにも立ち上がれんな? この跳ねっ返りが、素直に助けくらい求めたらどうだ、うん? 気が向いたら、3〜4日くらいしたら助けてやってもいいぞ?」

「今助けろよ、今ァ!」


 ニヤニヤ笑い、グスタフがリリスを茶化す。

「そうそう、素直が一番だ。お前は助けてやらんが」

「なんでだよ!? このハゲ覚えて⋯⋯ぎにゃあああああ痛え痛えって!」

 その状況で何故強気になれるか理解出来ない、そう思っている間に、グスタフにも頭を撫で回されている。


「悩むのも立ち止まるのもいいが、ちゃあんと口に出さなきゃ助けてやる事も出来ねえんだ。理解(わか)るか?」

「何の話だよ!」


 グスタフの言葉に目を向け、そしてタイラーへと巡らせる。

 彼は聞いていたのかいないのか、そのジョッキは置かれたままだった。

大人の意見はちゃんと聞こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。