空回りの輪舞曲
フォローするなら、ちゃんとしよう。
もうさ。
飯食ってから移動するんだったら、飯も冒険者ギルドで食えば良いじゃん。
「食事は素直に、『銀の馬の骨』のが美味い」
エールを水代わりに、タイラーくんが事も無げに言う。
あのな、料理も出してる店でそういう事を普通に言うんじゃないよ。
確かに妙に味の濃い肉料理とか、何かパサついてるパンとか、ちょっと元気の足りないサラダとか、そんなんしか無いつっても、折角作ってくれたもんなんだぞ?
そういう人たちに失礼でしょうが。
あ、夜の酒場からいつもの俺です。
「んで、料理出来るやつを探してるんだって?」
何やら理由は判らないが、妙に上機嫌なグスタフさんが、俺の隣でジョッキを抱え込んでいる。
アンタはいつからここで呑んでたんだ?
というかホントに冒険者か? 酒樽の妖精とかじゃないだろうな?
「うん、とは言え、都合よく見つかるとも思えないけどねぇ」
タイラーくんにはああ言ったが、実はコレが本音だ。
そうそう理想の人材なんて、見つかるハズないじゃないの。
クランを立ち上げるのはこの際良いけど、急ぐ理由も無いし。
もっと言えば、俺は別にクランを必要として無い。
……寧ろ、なんでタイラーくんが強引とも言える程の勢いでクランを欲しているのかが理解らない。
居場所が欲しいとか?
いやまさか、コイツがそんな可愛らしい理由で動くもんかよ。
まあ、仲間だと思ってくれてるなら、そのうち話してくれるんじゃないかな?
色々あるだろうし、極論で言うなら「知らんけど」でしかないんだけどな。
「話は理解ったぜ。そういう話をどこかで聞いたら、覚えとくわ」
「ああ、助かるよ。頼みます」
豪快な笑顔で、酒樽の妖精が請け負ってくれた。
なんだかんだ良くここに居るし、聞けばこの冒険者ギルドの防衛班の責任者でもあるらしいし、これでクランのマスターもやってるらしい。
そんなグスタフさんだから、あちこち顔が利く予感が有る。
そうでなくても既に世話になり過ぎてるし、ちゃんと礼はその都度伝えねば。
「料理スキル持ちの冒険者か。それだけだったら該当は居るが、素行やら何やらに問題が有ると面倒だからな。慎重にもなるか」
そしてグスタフさんの反対側、俺を挟む位置にいるのはハンスさんだ。
最近ここに来ると大テーブルまで拉致されて、気が付くとなんかこのポジションなんだけど?
何? 俺、なんか悪い事した?
オッサンに挟まれると、俺、オッサンに戻っちゃうかも知れないぞ?
くるっとひっくり返っておっさんの俺が出てきたら、こいつらどんな顔すんだろうな。
「まー、急がずのんびり構えとくさ。こういうのは、慌てるとロクな事がねェ」
馬鹿な考えは置いといて、俺はエールをひとくち呷ってから、言葉を並べる。
既に飽きるほど言った気がするが、どうもタイラーくんがコレに関しては焦り気味な感がある。
事あるごとに言うくらいで、丁度良いだろう。
焦らなくても、そのうち見つかるだろうしな、多分。知らんけど。
タイラーは焦りを隠せない自分に、微かな怒りを覚える。
ことこの件に関しては、リリスの言う通りだ。
慌てても良い事が有るとは思えない。
それが理解っているのに、どうしても気が急いてしまう。
自分が捨てられたのだと知った幼いあの日から、ずっと探し続けていた。
1年前にジェシカと出会い、手に入れたと思っていたモノ。
だが、お互い冒険者だからと、何処か冷めている部分は有った。
そんな半端な満足感に浸っていた日々、そこに現れた転機。
危険な力を宿しながら、その在り様は世間知らずの生意気な小娘⋯⋯としか見えない新人冒険者。
そんな出会いから、幾日か⋯⋯そう、まだほんの幾日かでしかないその交流の中で、湧き出る戸惑いを隠しながら、酒場で、そして調査で行動を共にした。
一度は、その巨大な力に圧倒され⋯⋯同時に、その危うさに、いつかの自暴自棄だった自分の影を重ねた。
そして、そんな時間の先にある、今。
考えられない程賑やかになった日常が、ジェシカと違う反応で正面からぶつかって来る新人が、何故か慕って懐いてくる子供達が。
タイラーの中で諦めかけ、俯き蹲っていた少年の心に――幼い頃の夢に光を当てていた。
家族。己の居場所。
それが手に入るのかも知れない。
そう思えば、柄にも無く焦りが生まれる。
そんな事は、この仲間たちには――恥ずかしさから、絶対に伝える事は出来ない。
特に、出会ったばかりの。
まっすぐな瞳で、まっすぐに感情を向けてくる、その感情のままに走り出す妹分には。
どんな間違いが有っても、伝える訳にはいかない事だった。
ちらりと目を向けると、タイラーは何やら考え込んでいる様子で、ハンスに観察されているとも気付いた様子はない。
少しだけ目を伏せ、薄く笑う。
「あん? なんだぁ熊さん、ようやく酔ったのか? 3〜4日かかったな? だから無茶な飲み方すんなって言ってんのに」
隣で上がった無粋な声を、ハンスは苦々しく右手を上げ、その頭を押さえつける。
「熊じゃないと何度言えば理解るんだ、お前は」
「ぎにゃあああ!? 痛え、髪、痛、ハゲるから離せえええ!」
妙な悲鳴を上げているが、構わずグリグリと押さえつける。
――まったく、どうでもいい時はただの口の悪い小娘だ。
視線の先のタイラーは、物思いの沼から上がってくる様子は無い。
「はっ、いいザマだなちびネコ。たまにはハンスに絞られとけ」
グスタフの声を皮切りに、テーブルに笑いが咲く。
咲かせている方は頭を振って逃れようとしている様だが、逃がすつもりは無い。
反省を促して素直に従うタマでもないし、そもそも酒の席のじゃれ合いの範疇だ。
いつもの妙な仮面を外し、油断したリリスが悪い。
「んぎぎぎぎ、はーなーせーっ、離してくれええ」
「なっはっはっ、逃げようにも立ち上がれんな? この跳ねっ返りが、素直に助けくらい求めたらどうだ、うん? 気が向いたら、3〜4日くらいしたら助けてやってもいいぞ?」
「今助けろよ、今ァ!」
ニヤニヤ笑い、グスタフがリリスを茶化す。
「そうそう、素直が一番だ。お前は助けてやらんが」
「なんでだよ!? このハゲ覚えて⋯⋯ぎにゃあああああ痛え痛えって!」
その状況で何故強気になれるか理解出来ない、そう思っている間に、グスタフにも頭を撫で回されている。
「悩むのも立ち止まるのもいいが、ちゃあんと口に出さなきゃ助けてやる事も出来ねえんだ。理解るか?」
「何の話だよ!」
グスタフの言葉に目を向け、そしてタイラーへと巡らせる。
彼は聞いていたのかいないのか、そのジョッキは置かれたままだった。
大人の意見はちゃんと聞こう。




