大森林調査
平穏の中に押し隠す、逆撃の一歩。
大森林外縁の調査。
やることは予め決められた範囲で、不審な形跡か魔獣そのものを見つける事。
形跡は兎も角、魔獣そのものは難しいんじゃないかな?
森の中なら居るかもだけど、外側まで来てるもんかな。
まあ、ハンスさん含めた冒険者ギルドの幹部だって、その辺は織り込み済みなんだろう。
そんな調査作業、ウィザードの出る幕は有るのかなあ? すごく今更な俺です。
ここ2~3日で付いた疵などの痕跡を探す。
地道な作業だ。
一応俺も、便利魔法シリーズに含まれていた「探索」とか言う魔法はある。
だが、ゲームはもちろん「向こう」でも使ったことがない、というか魔法そのものを使ったことがないので、これでホントに役に立てるか全く不明である。
試してみようかと思うが、まだこの辺りは他の冒険者の担当エリアだ。
勝手な事をしちゃあいけない。
「酷い目に遭ったぜ」
せいぜい不満げな声と不機嫌な顔――仮面で見えないが――でタイラー組と合流。
「来たか」
見た目通りの無愛想さでタイラーくんが短くお出迎え。
「あ、もう大丈夫なの? 無理しちゃ駄目よ?」
ジェシカさんは心配そうな顔をこちらに向けてくれる。
基本優しい人だし、良いなあ、と、思わなくもないが。
さっき、しれっと置いていかれたことは忘れないぞ。
「んで、調査はどうなってんだ? 俺は火力系ウィザードだから、そういう作業苦手なんだよ。何をすれば良いのか判らん」
言いながら森の方を見るが、何が怪しいのか怪しくないのか全く判らない。
探索がどの程度の範囲をカバー出来るのか判らないが、これは思った以上に地道で大変な作業になりそうだ。
「まあ、調査はクラスで向き不向きが出るのは仕方がない。こういう仕事は俺達の様な斥候クラスに任せろ」
さり気なくタイラーくんの職が判明。
俺達、と言うのはジェシカさんもそうなのか、タイラーくんを含めた斥候に任せろ、と言う意味なのか。
ボケた振りして聞いてみるか。
「ん? 俺達? ジェシカさんも斥候なのか?」
言いながらジェシカさんの方に改めて顔を向ける。
地図を片手に、何やら色々書き込んでいる様子。
その佇まいと、ちょいと目を離した隙に音もなくさっき居た場所から移動している辺り、間違いない気がするね。
「ええ、私は純粋な斥候ね」
ちょっとだけ作業の手を止め、どこかいたずらっぽく微笑んでみせる。
うーん、あしらいの端々に見え隠れする大人感。
たまに子供と一緒にはしゃいでるけど。
って、純粋な? 私は?
「じゃあ、あっちは不純な斥候か……やらしー」
特に意味はないが、思い付いたまま口にすると、不意を突かれたようで吹き出すジェシカさん。
「不純なって……不純……ふくく……!」
変なツボに直撃したらしい。
「お前らな……俺は暗殺者系の斥候だ。とは言え、基本技能は持ってる」
苦虫を噛み潰した様な顔をこちらに少し向けるだけで、タイラーくんは調査の手を止めない。
ソツがないのは良いけど、今キミ、なんか不穏な事言ったよね?
「暗殺者て……また物騒な職だな。俺の後ろに立つんじゃねーぞ」
「俺を後ろに回さないように気をつけるんだな」
肩を竦めて言ってやると、面白くもなさそうに答えてくる。
悪いやつじゃないが、なんと言うか、意外な職選択なのな。
そのうち、コイツが暗殺者なんか選んだ理由も、聞くことが有るんだろうか?
あと、そのうち言わなきゃいけないのだろうか。
……暗殺者だからって、ウサギを狩るのに全力で走って近づいて斬る……とか、しなくて良いんだよ、と。
「あ、俺も探索使ってみて良いか? 昨日覚えたんだけど、使ったらどうなるのか判らんから」
本職に任せた方が良いとは思うが、手持ち無沙汰で暇なので、多少なり手伝いが出来るかと声を掛けてみる。
「使ったら何が起こるか判らない魔法とか、危険な予感しかしないんだが」
すると、手を止めたタイラーくんがこっちに向き直った。
一瞬なんだこの野郎と思ったが、言われてみると確かに、効果が予想できる魔法名を無視すれば、禁呪感が凄いな。
「探索は周囲の違和感を強調する感覚系の魔法だ。使い慣れないと、強調されてもそれが何か判らない事もあるぞ」
えー、なにその小難しい感じの魔法。
「唱えたら自動で怪しいとこが光るとか、そういう魔法じゃないのかよ」
なんか思ってたのと違う、そう思って口を尖らせると、タイラーくんが再び口を開く。
「効果はそんな感じだが、なんで怪しいのか、パッと見て理解るか? つまりはそういう事だ」
タイラーくんの講義に、珍しく棘がない。
「あー、調べるトコは教えてくれるけど、なんでそこを調べるのかは考えろって事か」
中々、楽させてくれない魔法らしい。
魔法とは一体。
「そうだな。付け加えるなら、考えるにも経験が必要になるという事だ。まあ、より深く使えるようになれば、探索で知ることが出来る情報も深くなる。小難しく言ったが、要するに慣れだ」
やはり答える口調に嫌味がなく、俺の言った事を受け止めつつも、一歩踏み込んだ説明を返してくる。
元来、この男は人に物を教えるのが好きなのかも知れない。
より深く、か。
慣れ……。それは熟練度と言う意味だろうか?
或いは、魔法に振り分ける魔力量の調整という意味で、とか?
「お前さんも探索を使ってるのかい?」
「無論だ」
ふむ。
今の俺が熟練度をどうこうすることは出来ないから、じゃあ、使う魔力を増やしてみるか?
魔力って、MPの使用量って認識で良いのかな? 何か違う気がしなくもないけど。
……今関係ないけど、HP90万そこそこに対して、MPは22000くらい。
歪過ぎやしないか俺のステータス。
HP高すぎに見えるが、実際はMPが低すぎる。
しかしこれは俺の所為と言うより、ゲームのシステムの問題だ。
ホントに俺、魔導士なんだろうな? 自覚も自信も無いぞ?
……うん、それはそれで良いとして、どうやってMPの使用量なんて増やせば良いんだ?
雑念をなんとなく追い出し、目を閉じて、魔法に集中してみる。
発動を直前で止めて、リソースを多く振り分けるイメージ。
そうだな、具体的にはステータス画面で見慣れた、MP総量の容量の1割を使うイメージ。
イメージは明瞭で、なんとなく、俺の体内の魔力と外界の魔力――これが魔素ってやつなのか?――が溶け合うような、そんな感じで俺の周囲を舞っているのが理解る。
テレポートと違って「酔う」感じも無し。
魔法の効果が広がる様子をイメージしながら、ゆっくりと目を開ける。
「お前……何をしたんだ」
目を開ききる前に、タイラーくんが珍しく驚く声が聞こえた。
今日はコイツの珍しい面をよく見る日だ。
呑気な考えの俺の目は、まだ周囲の状況を理解できる程には開いていなかった。
自覚の薄い魔導師、その片鱗。




