成長、本人以外
見切り発車はとても危険。
「成程、確かに。慣れる物だな」
距離を短めにしての、有無をも言わせぬ連続ジャンプ。
俺の時はある意味極限と言うか、気にしてる余裕もない緊急事態だったし、四の五の言ってる場合じゃなかったんだけど。
コイツ、単純に俺のドヤ顔が気に食わないとか、そういうレベルの気に入らなさで荒行に挑んだ。
プライド高い……じゃないな、これはアレだ。負けず嫌いだ、ただの。
「まだちょっと気持ち悪いけど、ちょっと慣れたかも。あー、でもこれキツイわぁ」
巻き込まれたジェシカさんも、数度連続で跳ぶ事で慣らされたらしい。
キツイとか言いながら、もう顔色もそれ程悪くない。
……どうなってんだ? この2人が異常なのかこの世界の住人はタフなのか。
前者じゃないかと思う、そんな俺で……マジでどっちなの?
「……」
元気と言えるかは置いても、まあまあいつも通りを取り戻しつつある2人。
一方で、一番慣れてる筈の俺はと言えば。
「よし、じゃあもう大丈夫だ。一気に行くぞ」
「……」
タイラーくんが手を引くが、大地にうつ伏せに五体を投げ出した俺は反応したくとも出来ない。
「いつまで寝てるんだ、行くぞ」
「うるせぇ。テレポート酔いとMP枯渇の反動で、気持ち悪いんだよ。アホほど跳ばせやがってこの野郎……!」
ゲーム内でMPが切れても、こんな風に倒れたりするような事はない。
単に魔法が使えなくなり、スキルの関係で防御力が極端に落ちてしまう程度である。
……いや、それはそれで大問題なんだけども。
それは置いても、じゃあ今の俺のこの有様の原因は何かと言えば、ゲーム内の出来事と現実での事象の差、と言う奴だ。
リアル……にテレポートで跳ぶことで、慣れてるとは言えノーダメージで済む筈もなく、負荷が蓄積した所にMP切れ。
更に言えば、俺だけが単身で跳ぶ時と違い、3人で跳ぶとなると、どうやら使用するMPも相応に増加するらしい。
ただでさえ「使い慣れている」とは言い難いのに、気づかぬ内に増えた消費量により、一気にMPが底をついてしまったのだ。
単体で使うのも、決して少ない消費量じゃないってのに。
結果、この身体になって初めてのMP切れで、それも多分マイナスに突き抜ける勢いで枯渇してしまった為、ちょっとハードにその結果を突きつけられた感じだ。
MP自体は、会話中に回復しつつ有るのは感じられたのだが、キツめの二日酔いに似た頭痛はガンガンと響く。
多分、もう跳ぶ事は出来る程度には回復したと思う。
心底跳びたく無いってだけで。
「はーい、リリスちゃんも元気に行ってみようねー」
タイラーくんが引いてる、その反対の腕をジェシカさんが引っ張る。
ちょっとまって、元気に逝けって、酷くないです?
この、上級冒険者共が。
「現地についたら休んでるからな、俺」
ホントは「!」付きで強めに言っているつもりなのだが、頭痛の所為で勢いが出ない。
両側から抱えられると言うか、引っ張り上げられている形になって地味にキツイので、観念して立ち上がる。
余裕が無いので跳べる限界までのテレポート数回で森林の縁に到達出来た。
タイラーくんとジェシカさんが慣れる為の連続テレポートが、何だかんだで距離を稼がせてくれていたらしく、思ったより大森林に近付いていた。
……と、安心したのが間違いだった。
「もう一度だ」
「だから、どれくらいの距離だよ……!」
タイラーくんの指示で細かいテレポートにシフトし、担当エリアを探す。
クリスタルが反応してくれれば目的地到着なのだが、タイラーくんの手にあるソレは反応が無い。
「通り過ぎてたりしてねェだろうなァ!」
「む、その可能性も有るのか」
「お前なァ!」
耐えきれなくなった俺はそのやり取り直後のテレポートの着地と同時に転倒。
ベテラン冒険者組は咄嗟の機転で俺の手を離し、転倒を回避。
「んにゃあ!」
俺だけが大地とお友達に。
……チクショウメ。
大地に沈む俺の耳に、小さな、澄んだ鈴の音が響く。
「む。この近くらしい」
もう起き上がるのも嫌な俺に、タイラーくんの声がその音の正体を告げる。
こんなにうれしくない目的地到着も無い。
だというのに。
「近くだから、先に行くぞ。追いついてこい」
タイラーくんの無表情な声が俺の傍らを通り過ぎる。
はあ?
おいおいおいおい、この状態の俺を置いて行くんじゃねぇ!
「あー、ホントに近そうだから、休憩してから来てね?」
ジェシカさんは気を使ったふうに言葉を置いて、歩いていくようだ。
気遣われてるふうの俺はと言えば、顔を上げる余裕も無い。
今魔獣が出てきたら、手加減してやれる自信が無い。
……色んな意味で。
10分程で、何とか立ち上がれる様にはなった。
しかし、テレポート酔いとMP切れが重なるとホントにしんどいな……帰りは気をつけよう。
見た目のんびり、実際は息も絶え絶えに歩いて、近くとか言いながら結構遠くで作業しているらしいタイラーくん達の方へ歩く。
ポーションでも飲めば多少違うかと試すも、元々MPの回復効果なんかないし、アルコールを取り込んでの酔いじゃないから当然のように効かない。効く訳がない。
寧ろ、無理に呑んだので胸焼けする始末。
まぁ、仕方が無い。
急いだ所で、俺が細かい調査の役に立てるとは思えない。
開き直ってのたのた歩くが、妙に遠くのタイラーくんは、こちらに注意を払う事もしない。
あの野郎、どうやって仕返ししてやろうか。
そんな事を考えたお陰か気が紛れたらしく、歩くにつれて気持ち悪さが徐々に遠退いていく。
回復するなら、俺も仕事を手伝うとしますかね。
回復してなくても仕事なんだよ。
そう言うセルフツッコミには、今はお休み頂くのだった。
回復待ちを装って、サボるのも手。




