穏やかな日差しの中で
世界は、今日も照らされて。
朝日が夜の気配を完全に振り払っても、俺は考え事の殻から抜け出る事が出来ていない。
夜警の役目を忘れはしないし、周囲の警戒を怠る事もない。
それでも、獣も魔獣も現れる事も無かったのは有り難い。
あ、たまには真面目な俺です。
遮るもののない陽光に照らされて、先輩2人が目を覚ます。
天気が良いのにかまけてタープすら使わなかったんだが、冷静に考えてどうなんだろう?
「おはよぉ、リリスちゃんありがとうね」
大きく伸びながらジェシカさんが挨拶をくれる。
大きく揺れる豊かな丘陵の存在感に見とれていると、むっつりとした顔のタイラーくんが俺を見ていることに気が付く。
「……まだ成長するかも知れんし、あまり悲観するな。どんなに絶望的でも、希望を持つのは悪い事じゃない。」
仮面で表情が見えてない関係で、野郎には俺が羨んでいるように見えたらしい。
「やかましいわ!」
これは図星を突かれた様に見えるかもしれんが、実際はお前を妬んでるんだよ!
羨ましいなこの野郎!
考え込んだり落ち込んだり羨んだり妬んだり、我が事ながら忙しい朝である。
そんな俺の朝食は干し肉のスライスとパン、それと水。
身体が3周りくらい、上下左右全方位に小さくなった影響か、随分食事量が減った。
うん、まあ、燃費が良くなったんだと喜ぶことにしよう。
ふと気付くと、タイラーくんが果物を俺に差し出している。
……いや、なんか言えよ。
たまたま気付いたけど、お前さん、俺が気付くまで黙ってるつもりだったのかよ。
「……なんだよ」
恐る恐る、問う。
「果物は、良いぞ」
真面目な顔というか、無表情で言われると怖ぇよ。
「あ、ああ、ありがと……」
受け取らないとずっとこのままっぽかったので、それもまた怖い。
俺が受け取ると、何を納得したのか頷いて、自分も果物を食べ始める。
……あー、朝食には果物が欠かせない人?
意外っつーか、うーん。
受け取った薄紅色の果物は見た目を裏切らず、酸味の強いりんご、って言う味で、さっぱりして美味かった。
朝食を終え、身支度を済ませ、薪に砂を掛けて、いざ出発。
あ、生ゴミは穴を掘って放りこみ、デストレア(弱)で灰にしてから埋めました。
「んじゃー、行くよー」
出発準備完了の俺の合図に、タイラー&ジェシカがそれぞれ俺の腕を取る。
「方向は、このまま真っ直ぐでいいんだよな?」
「ああ、問題ない」
俺が確認すると、タイラーくんが自信を持って答える。
今ひとつやらかしそう感が漂うが、まあ良い、信じよう。
昨夜言い訳にうっかり使ってしまったテレポート。
魔獣撃退の時にも普通に使っていたが、激戦の中での見間違いか勘違いだと思われたらしく、特に誰にも咎められていなかったのでしれっと隠していたのだが。
うっかりとは斯くも恐ろしいのだ。
「んーじゃあ跳ぶよ? まずは1回」
使う以上、移動時間の短縮に成らねば意味がない。
出来る限り遠く、マーカーが届く限界まで。
遠すぎるとマーカーが青くなり、跳べそうな気がしない。
赤くなるところを測ると、大体2~3キロくらい、だと思う。
地平線の手前、くらいで、今の俺の身長が160有るかどうかだから、多分地平線までの距離は……あ、地平線は地形も関係してくるから一概には言えないのか。
今度、街の城壁とかを使って測ってみよう。
それはともかく、あんまり大きく見積もるのも危ないな。
……どうせ連続で跳ぶ事になるし、1回でどれくらいとか、あんまり関係ないか。
そろそろタイラーくんが騒ぎ出しそうなので、跳ぶとしよう。
俺は穏やかに、意識を集中させた。
「よっとぉ。こんな感じだけど、あんま判んないだろ? 跳んだとか」
距離を無視どころか、身体を動かす事も無いので、下手したら移動した実感も無いかもしれない。
景色がいきなり変わってビックリする、くらいかな。
そう思いつつ振り向くと、青い顔で俯くタイラーくんが。
え? と思う間もなく、逆側の腕ごと身体を引っ張られる感覚。
そちらに目を向けると、フラッフラなジェシカさんが俺の腕にしがみついている。
「え? え、なに?」
「の……」
え? No?
タイラーくんがなにか言おうとして詰まり、呼吸を整える。
「脳が追いつかん」
あんだって?
一度休憩ということで、フォーメーションを解除。
「急に切り替わる景色に、脳の処理が追いつかん」
タイラーくんが少し落ち着いたのか、それでも青い顔で言う。
あー、そういう……。
俺も跳び過ぎるとなるかも知れないが、跳ぶタイミングを自分で決めている分だけマシだろう。
いつ跳ぶか決める事が出来ず、判断する事も難しい2人が、しかも事前情報無しで一瞬で景色が切り替わったら、脳が混乱して具体的な失調を起こすことも有るのかも知れない。
「便利な方法だと思ったんだけどな……これはちょっとキツイわね」
タイラーくんより更に顔色の悪いジェシカさんがこぼす。
「お前は、これはどうやって克服したんだ?」
タイラーくんの問いかけに、俺は考え込む。
ゲーム内ならいざ知らず、リアル……かどうかは一旦置くか。
細かく言い始めるとややこしくなるだけだし。
ともかく、実際に使った時は、頭に血が昇ってたから……。
多分、俺、気持ち悪いとかそう言うのは無視してたと思う。
んで、連続で跳んでたな……此処より景色が大きく変わりそうな、街の……ああ、殆ど街の上だったか。
で、それをどう伝えるか?
うーん、強引に纏めると。
「比較的短い距離を、連続で跳んで慣れた」
端的に言うと、そう言う事だよな?
極論すぎ?
「……慣れか……」
タイラーくんの途方に暮れた声というのも初めて聞く。
本人には悪いが、ちょっと面白い。
イタズラ心に後押しされ、俺は悪い笑みで言葉を放つ。
「もう、サクッと連続で跳んじゃって、有無を言わせない感じかな」
追い打ち気味に言うと、小さく笑う。
流石に今のテレポートで気持ち悪くなってる状況で、「じゃあ俺も」とはなるまい。
諦めて、徒歩で移動しようじゃないの。
「……成程」
そんな俺の思惑なんか完全無視で、タイラーくんが立ち上がり、そして俺は嫌そうな顔をする。
「それで行くぞ」
嫌そうな顔は、俺とジェシカさんの2つに増えたのだった。
自業自得で曇る顔。




