旅路の断片
初めての異世界団体行動。ボッチの明日や如何に。
具体的な調査ポイントは、どこなのか。
いや、大森林ってのは知ってるけど、なんせ「大」と頭につく程の森だ。
ホントに大丈夫か? 自分を信じるのも限度がある、どうも俺です。
今回は複数パーティが調査をする。
多人数が動くのだが、重複があったら意味が無いし、最悪二度手間である。
そこで登場するのが、タイラーくんがギルドで受け取った不思議便利アイテムのなんか手のひらに収まる大きさにカットされた水晶と、それと連動している、らしい地図だ。
なんでも、担当ポイントについたらクリスタルが光って教えてくれるらしい。
え、なにそれ、なんかハイテク?
気になって両方貸してもらったが、俺の鑑定は使う本人同様ポンコツだった。
導の水晶という名称と、さっき言ったのとほとんど変わらない説明で、地図に至っては「魔法道具に紐付けされた地図」という、でしょうねとしか言いようがない結果だったのだ。
もうちょっと説明してくれ、俺の鑑定よ。
そんなほのぼのイベントを挟みつつ大森林まで、間で野宿1泊の移動。
歩くのは好きではないが、まあ、1人じゃないし。
買い物で思わぬ時間を使ってしまったが、マイペースな者しか居ない我がパーティは、特に慌てもせず、移動を開始したのだった。
行軍は散々である。
いや、歩くのは構わない。
俺ひとりじゃないから気も紛れるし、気分が疲れなければ、肉体がそれに引きずられる事も無い。
問題はそれ以外の部分。
その、旅を、と言うか冒険をするには必須であろう作業が、もう本当に、俺と相性が悪い。
何かって? 狩りだよ、狩り。
ウサギを見掛けたが、狩ろうと思えば灰になる。
出力を、俺に出来る範囲で、思いつく限り最低出力に絞ったつもりでも、デストレアではウサギ相手には過剰だった。
じゃあ魔力光弾、と思えば、こっちも思ったほど威力を押さえられず、どうやっても爆散。
ノーロックで地面に当てて気絶を狙うと逃げられる。
俺、そう言えば偏差撃ちどころか、そもそもエイム下手だったわ。
ノービススキルなら、と試しても、ことごとく上手く行かない。
魔踊舞刀の低威力冷凍斬りで何とか? というレベルである。
細切れで氷漬けのウサギだったものの断片を、狩りの成果と言い張る度胸があるのなら、だが。
「この不器用女が。狩りもまともに出来んのか」
「うるっせぇなあ。脆すぎンだよ、ウサギがよぉ」
険悪になる馬鹿2人に、見かねたジェシカさんがスリングショットで狩り成功。
ジェシカさんの得物はアレなのか……そういや、クラス聞いてなかったな。
「せめてあれくらいの手際を見せて欲しいもんだ」
「俺はどうも、細かいのは苦手らしいんだよ。粉砕とか爆破、焼却が得意なもんでな」
コンチクショウめ、大物だったらなんとかなる、筈。
ちょーっと自信が無いけど、多分、きっと、大物だったらなんとかなる。
ま、手加減の練習くらいは、しても良いかもな?
以降、見かけるウサギはタイラーくんとジェシカさんが仕留めていく。
遠距離の攻撃手段をもつジェシカさんはともかく、タイラーくんは肉体言語全開で、走り寄ってダガーで仕留める。
え? おかしくね?
なんで走って追いつけるの? なんでダガーなの?
「狩りとはこうやるんだ」
挙句には当てつけのように言ってのけるが、それを素直に賞賛する気になる訳がない。
いや、おかしいから。
ドヤ顔は良いけど、お前の狩りもおかしいよ?
明らかにあのゴリラより強いぞコイツ。
なんでBランクなん?
俺は冒険者ギルドのランクシステムに、盛大な疑問を抱える事になってしまった。
どこまでも平原、そんな場所で日没間際、俺達は素直にキャンプ地をそこと定める。
タイラーくんの指示で予めキャンプ用の薪を買っていたので、火の用意は簡単だった。
歩きながらウサギの血抜きと言う荒業? 生活の知恵? の成果を見せつけられ感心したり、おっかなびっくりにウサギの解体を手伝ったり。
「……お前、よく旅が出来たな? ここまで」
と言われ、悔し紛れに移動はテレポートという魔法を使っていたから、野営は殆どしたことがないという、嘘だけど自慢できないトコだけホントという作り話をしたせいで、明日朝に実演する事になったり。
テレポートが使える、ってとこで鼻で笑ってたから、信じてないんだろうガッデム。
色々とどうでも良い系のイベントを重ねつつ、焼いたウサギの肉とパンを食し、思いの外ご満悦の俺。
キャンプグルメ?
今日のなんて、作ってもらったのと買ってきたのが中心だから、感想言うくらいしか出来ること無いよ?
あ、うん、美味しかったよ?
汗もかいたし、例のクリーンの魔法を初め、便利そうな魔法のスクロールを選び、使用していく。
使用と言うか詠唱と言うか、広げたスクロールに書いてある文字を目で追うだけなのだが。
何でも、魔法の才能がなければ幾らスクロールを広げても覚えることは無いという。
じゃあ俺、魔法の才能有るのね、とか得意に成りかけたが、ウィザードのクラスだし、当たり前かと思い至る。
うん、俺の「才能」じゃなくて、「クラスの恩恵」だった。
生活魔法と言う括りの魔法は消費魔力も少ないので、余程の事がなければ誰でも使えるらしいし。
どうせそんなこったろうと思いましたよ、ええ。
で、早速覚えた魔法を試し、便利さにニマニマする俺。
洗浄は対象選択で食器から身体まで綺麗になる便利魔法だし、光明の魔法でスクロールの文字も見やすい。
で、覚えた魔法に全力で魔力注いだらそれなり強力になりそうだ、とかいう話をした流れで種火はそのまま火魔法の基本だ、と言う、この世界の魔法の話を聞けたり。
火起こしのつもりで覚えた魔法は、もしかしたら狩りに使えるかも知れないと、小さな期待を持ったりもした。
そんな事を話ながら、時にタイラーくんの混ぜっ返しを交え、スクロールを眺め……魔法屋店主、パルマーさんのサービス品、妙なスクロールも一応覚えようと手に取れば……えっと? Fの断片?
失われた破滅の断片。力は人を惑わせ、狂気へと導く。依るなかれ。
……フレーバーテキストを読んでも何のことか判らんので、ヒマな時にでも調べてみようと思う。
あの街、図書館とか有るのかなあ。
今考えてもヒントはこれだけ、試そうにも断片というだけあって何かを覚えたということもない。
……深追いすれば無駄に悩みが増えそうな予感がするし、取り敢えず後回し。
そんな食事と雑談と、合間にスクロールでの学習を混じえ、夜は更けていく。
交代しながら周囲警戒。
均等に時間を配分すると言いながら、どうもこの2人は、俺の睡眠時間を多目に取ってくれたようだ。
有り難いけど、無理しないでくれよ?
最初に俺が見張りして、1順した所で、起こす頃には夜明け前だろう。
見上げる星空が深い。
当然のように、知っている星座はない。
だからといって、広がる威容は褪せる事なく、俺という存在の矮小さを思い知らせてくれる。
夜天に広がる星々は、傍らで燃え盛る薪の明かり程度では抗する事も出来ず、今にも降り注ぎそうな迫力を俺に見せつけていた。
さて。
俺は今、1人で考え込むという悪手を打っている気がする。
なぜかと言えば、こういう時の考え事は、あんまりいい方向に転がらないからだ。
この世界は、多分、俺の空想、夢だと思う。
こうして時間の流れを感じるが、そう感じるほどに俺が「信じたい」夢なのだろう。
だけど。もしも、万が一。
ここが、リアルなもうひとつの世界だったら?
馬鹿馬鹿しいとは思う。
俺にとって都合の良い事が起こるこの世界が、現実なんて有り得ない。
ウサギの解体の生々しい感触を思い出して、しかしそれすらも脳が錯覚を起こしているだけだと、そう思う。
だけどもし、この世界がリアルなもので。
俺がこの先、元の世界に戻るのか、この世界に居続けるのか。
選ぶ事になるとしたら。
夜が明けて、陽光が世界の輪郭をハッキリと切り分けていく時間になっても、答えは出てこなかった。
目を背けるにも、限界は既に。




