冒険準備
手に入れたのは、手段と思い出。
こうしてかなりの容量のアイテムボックスが、思ったよりも手頃に、まとまった数を手入手できた。
本当は時間停止系有りと無しの両方を買う予定だったが、必要無さそうなので「入れ物」購入はコレで完了としよう。
必要に迫られたら、また相談に来れば良かろう。
思った以上の収穫にホクホクな俺は見て判る程度には上機嫌だっただろう。
用意してもらってる間に、自分の特技的なモンに気付けるくらいには余裕もある。
なんと俺、簡単な鑑定出来るぞ。
鑑定というか、手に取るとアイテムの説明文……いわゆるフレーバーテキストとか、モノによってはそのアイテムが引き起こす効果なんかも理解る。
ゲームで、アイテムを確認してるあの感じだ。
手に取ったアイテムやらに重なるように、関係する情報が浮かび上がるのだ。
一瞬、あの北門の出来事が脳裏を過る。
あの時のあれも……子供達の名前が理解ったのも、どういう事なのだ。
誰にも見せないように僅かな時間目を伏せ、すぐにそれを、振り払うのではなくそっと抱きしめるように心に仕舞い込む。
そして何事も無かったように、老婦人が色々サービス品を見繕ってくれてる中から俺がそれを手に簡易解説、それを元にタイラーくんが要不要を判断、という流れで頂くサービス品を選定。
少しだけ、タイラーくんが、まるで気遣うように無言で俺の動き出しを待ってくれていたが、互いにその間事について触れることも無い。
ちゃんと老婦人に「そちらが損をしない範囲内で」と追加で伝えたので、多分、売値で金貨2枚分のを選んでくれているのだろう。
俺達は説明文読みと軽口の投げ合いを挟みつつ、サービス品の仕分けという、考えてみれば随分と失礼な作業を続けるのだった。
アイテムボックスは、見た目はウエストポーチ。
なんでボックスなのかと言えば、容量の説明が立方メートルだからだろう。
計算するのに、立方体をイメージした方がやり易いのだから。
まあ、適当にそう思った、程度のモンだけど。
で、今回購入するコイツの容量が1000立方メートル。
さらっと言っているが、中々に狂気的な容量だ。
10メートル四方、高さも同じ空間に、どれ程の物を収納出来るのかを考えてみれば良い。
俺の(リアルの)私物は、纏めて放り込んでもまだ余るだろう。
そんな便利なアイテムの使い方と注意点(特に大きな物の収納方法と、生き物入れない、当然自分が入ろうとしない等)をレクチャーされて受け取り、教えられた通りに、サービス品諸共余分なアイテムボックスを仕舞い込む。
おお、そこそこの大荷物が一瞬でスッキリ。
お支払いの金貨を数えている子供達やジェシカさんも、こちらの様子を見て歓声を上げている。
「あ、あと、コレもサービスしちゃう」
金貨の確認が終わると、老婦人がなにか巻物をそっと差し出す。
「効果不明のスクロールで、ずーっと売れ残ってるの。コレもあげちゃう」
ご婦人、素直なのは好感持てるが、要はゴミの処分でしょ。
まあ、面白そうだし貰っときますが。
そしてスクロールの存在にハッとした俺は、小声で尋ねる。
「あの、身体を綺麗にする魔法を覚えられるスクロールとか、有ります?」
ダメ元で聞いてみる。
お風呂に入れなくても、身体を綺麗に保つ魔法は欲しい所だ。
そもそもお風呂に入れてないから、湯桶を借りて、濡らした手拭いで身体を拭き清めるくらいしか出来て無いんだし。
「あら、洗浄だったら私達が使えるから、大丈夫よ?」
ジェシカさんの提案は有り難い。有り難いのだが。
「今後の依頼とかで、単独行とかあり得るでしょ。それに、覚えとけば便利っぽいし」
ジェシカさんの反応のおかげで、身体を綺麗に出来そうだと期待は高まる。
じんわりとテンションを高める俺を置いて、考えながら売り場に出る老婦人。
そして何やらゴソゴソとスクロール類を掻き集め、一纏めに抱えて持ってきた。
「生活に便利な魔法、色々有るわよ?」
ニッコリ笑って、カウンターに各種スクロールを広げてみせる。
ざっと見ただけで、種火、洗浄、光明の文字が浮かんでいる。
こっ……この人は、俺のようなズボラの扱いをよく理解っている……!
「全部下さい」
「毎度あり♪」
真顔で前のめりな俺と、ニッコニコな店主パルマーさん。
金貨10枚を追加で支払い、此処での用は終了である。
実は1回キリの使い捨てのスクロールだったらヤだな。
そう思って、支払いの前に一応こっそり鑑定したら、ちゃんと「魔法を獲得できる」とあった。
一応俺、ウィザードだし、使えるよね?
不安はひとつ解消したと思っても次々出てくるので、俺はもう考えることを放棄。
気楽に店を出た所で、俺は気軽に、全員にポーチを1個づつ手渡す。
「ん?」
疑問顔ながら受け取るタイラーくん。
「俺1人で12個も使うわけ無いだろ、全員分だよ」
そう言うと、歓声を上げる子供達。
……ジェシカさん、子供に混じって喜ばないで下さい。
……可愛いけど。美人は可愛い仕草も似合うとか、ずるいなあ。
「残りは?」
「予備だよ。なんであわよくば2個みたいな期待持ってんだよ」
なんとなく唇を尖らせる俺へのタイラーくんの質問に、食い気味で答える。
甘いんだよフハハハハ。
「というわけで、入れ物ゲットしたので、必要な物買い集めますか」
という俺の呑気な声を合図に、気を取り直したタイラーくんの案内で次の、とても大事な目的に向かう。
4日分程度の食料の買い込み。
食料は各々買うということで、思い思いに選んでいく。
そりゃまあ、好みもある訳だし。
時間停止系のアイテムボックスなので、ある程度余分に買っても腐ることはない。
うっかり存在を忘れて1年後に発見しても、新鮮さそのまま!
問題は気分だけ!
そういう素敵アイテムだから、ベテラン組としても初めての感覚で、どうやら食料を選ぶのも楽しいらしい。
俺はオーソドックスに干し肉と、柔らかめのパンを選択。
柔らかいパンは、環境ですぐ固くなるかカビが生えるから旅には適さないと言うが、そこはポーチ様様である。
タイラーくんに至っては果物とかも買っている。
森に行くのに? って、森の中に入るわけじゃないし、森だから果物が有るって訳じゃないか。
結局3人で色々買って、目を離した隙に子供達も何か買い込んで、食材調達も完了。
その他、なんか薪とか着火剤からテントやタープなんかのキャンプ用品らしきをタイラーくんの指示に従い購入、せっかくだし金貨も全部持って歩くと言う事で、一度宿へ向かいたいとジェシカさんから打診が。
じゃあもう、今日から大部屋押さえちゃおう、って事でついでに子供達に宿から荷物を持ってこさせ、全員で「銀の馬の骨」へ。
10人部屋と言う、普段は使っていないという部屋を7日押さえ、支払いを済ませて子供達に留守を任せる。
金貨はみんなそれなりに持ってるし、危ない依頼は受けなくて良いから、とか言ってる間に離れ難い気持ちになる、実はちょっぴり寂しがり屋の俺。
最終的には業を煮やしたタイラーくんが俺を引きずり、大森林の探索ポイントを目指す短い旅が始まるのだった。
優しい先輩に感謝。




