旅路の終わりで
足跡が、重なる場所へ。
「来週から、新しいお家なんだね?」
マシューくんが楽しそうに俺の手を引く。
うんうん、可愛いもんだ。
可愛いのは良いんだが。
「君たちはホントにそれで良いのかね」
問わざるを得なかった。
今回のこれは、あまりにも皆、勢いに任せすぎだ。
元々仲間だった少年少女組。
ペアで活動していたであろうジェシカさんとメガネ。
……あれ?
ソロ、俺だけじゃん?
驚愕の事実に言葉を失う、こんな俺です。
だ、だってまだこの世界に来て3日目だし?
い、いつ目を醒ますかも判らん夢の中だし?
なんか仲間が出来てホッとなんて、してねーし?
「だって、秘密教えてくれて、一緒に住もうって誘ってくれたんだと思ったし」
ティアちゃんが、俺の正面に立って見上げながら言う。
……ん? 秘密?
「金持ちだって事だろ。無駄に見せつけられたしな」
タイラーくんが事も無げに言う。
「それが秘密って……いやまあ、確かに吹聴されたい話じゃねぇけど……」
実はそんなに重要にも考えてなかったので、複雑な心持ちでは有る。
というか、俺が気にしてるのはそういう事じゃなくてだね……。
「お前さんはどうなんだよ、タイラーくんよ。話の流れから、お前さん達も引っ越すんだろ?」
察するとか慮るとか、そういうのが割と苦手な俺は正面から問いかける。
あんまりにも勢い任せなんじゃないかと思ったら、なんだか心配にもなるというものだ。
「なに、宿代の負担が無くなるのは良い事だ」
事も無げに言い切りやがった。
唖然としてジェシカさんを見れば、同感と言うように頷いている。
気が抜けるくらいに即物的な理由だったが、そこまで明け透けに言われれば寧ろ心地よいくらいだ。
溜息と苦笑を同時になんて、俺、人生で初めてだぞ。
「あー……取り敢えず、良く理解ったよこの野郎。飯は全員で相談すっか。他所で食ったほうが早いが、料理した方が安く上がりそうだし」
こんなにすんなりと、しかも図々しく人様のマイホーム計画に便乗できる奴なんて、居る訳がない。
やはり夢の中なんだなあ、と、こういう時に強く思わされる。
きっと、俺は寂しかったんだろう。
目を醒ましたら、寄り付かなかった実家にも顔を出そう。
そんで、仕事がんばりながら、新しい出会いを、彼女と呼ばせてくれる女性を探そう。
「ほう? お前、料理出来るのか?」
他人様がしんみりしていると言うのに、心底意外そうに、タイラーくんが声を上げる。
失礼な奴だと言いたい所だが、残念な事にそう問いたい気持ちは良く分かる。
俺の言動を見て、料理が出来そうなんて思う奴は居ないだろう。
本人ですら、そう思う。
で、その答えは、と言えば。
「だからみんなで相談しようっ言ってんだろーが。俺は簡単なもんしか出来ねぇよ。生地捏ねてパン焼くとかしたことねぇし、出来て肉とか野菜を焼いたり炒めたり、その程度だ」
変な見栄を張っても絶対に良い事がない。
素直に料理出来ない属性の人間ですよとアピールしておく。
素直な暴露も、時に必要なのだ。
「ま、旅暮らしだったらしいし、そんなものだろうな。俺達だって似たようなもんだ」
そう言うタイラーくんに、ジェシカさんが頷いてみせる。
遠征中の食事なんて干し肉と乾パンがデフォで、たまに獣を捕まえられれば、その焼いた肉はご馳走なんだとか。
そりゃそうよな。
フレッドくん率いる少年少女組も、料理は苦手なご様子。
孤児院では料理が出来る子も居るらしいが、強制で当番が回ってくるとか、そういう事はないご様子。
今は一端の冒険者として、宿暮らしだって言ってたしな。
「……フレッドくん達は、明日っから一緒の部屋にすっか。銀の馬の骨、大部屋あるかね?」
提案しただけで、輝く4つの表情。
あまりの判り易さに、手近なマシューくんの頭をぐりぐりと撫で回してしまう。
「ああ、パーティ用の大部屋が有る。7人でも、なんとかなる筈だ」
すぐにタイラーくんが教えてくれる。
伊達に銀の馬の骨を常宿にしている訳ではないという事だろう。
……んん?
「なんでさらっとお前らも同室の予定なんだよ。つーか、それで良いのかペア冒険者」
色々と問題ありそうな予感しかしないぞ。
そんな俺の心配を気にする様子もなく、タイラーくんは涼しい顔で言う。
「金が浮くからな」
「お前らは払え!」
なんで押し掛けといて宿代払わなくて済むと思ってんだこの野郎。
「大体アレだ、お前等、アレだろう⁉ 子供達の前でいかがわしい事とか、させられねぇぞ⁉」
教育に大変宜しくないからな。
決して羨ましいからじゃ無いぞ! 違うんだからな!?
ちらりとジェシカさんに目を向ける。
俺と目があって、ニッコリ笑いながら手を振ってくれる。
……だから、羨ましいからじゃ無いんだぞ‼
「お前はバカなのか?」
言外に否定しているのは判るが、口にしたのは選りにも選って馬鹿呼ばわり。
案外しっくり来るのが頭に来る。
よぉし上等、いかがわしい行為に及ぼうもんなら、お前は宿の軒先に吊るしてやる。
何なら肉フック吊るしも視野に入れてやる、良かったな!
そんな、今後の予定では有るものの、分類で言えばどうでも良い話をしながら歩く内に、冒険者ギルドの前を通りかかる。
その建物の前で、見慣れた街の熊さんこと、冒険者ギルドのハンスさんとグスタフさん、それに見慣れない男が何やら話し込んでいた。
……誰だろ?
「んー? おお、なんだお前ら。雁首揃えて飯でも食ってたのか?」
こちらに気付いたグスタフさんが声を掛けてくる。
「ああ、家買いに行ってた」
そんな問い掛けに「飯食ってきた!」レベルの軽さで言うと、グスタフさんは「おう」と答えてから、少し変な顔をする。
「家だぁ? また随分急じゃねえか。なんだ、この街に腰を落ち着ける心算なのか?」
言いながら俺達を見渡す。
驚いているようだが、資金とかの疑問は無いもんかな?
いやまあ、問われても誤魔化すけども。
「ああ、好き好んで旅してた訳でもないしな」
適当にそれっぽい事を言ってみる。
グスタフさんもハンスさんも俺の言葉に頷いている辺り、それだけで納得してくれたらしい。
まあ、ハンスさんは受付さんから、俺が金貨持ってる事は報告行ってそうだし、ローン組んだとか思ってくれたんだろう。
ローンとか有るか知らんけど。
まあ、無い事は無いだろうな、うん。
「冒険者ギルドとしては、この街に居てくれるだけで随分助かるがな」
ハンスさんの台詞から、特に何か疑問を持っては居ないご様子。
後ろ暗い所は無いものの、それでも変な追求が無いのは助かる。
「所で、お前ら暇か? なんか仕事抱えてたりするか?」
そんなふうに妙な安心を感じる俺に、グスタフさんが、ふと思い付いたように話題を振ってくる。
随分急だが、俺は当然フリーだ。
手を繋ぐマシューくんを見るが、首を縦に振っている。
タイラーくんを見るが、そちらも同様。
「全員暇だよ。今日はもう、帰って飯食って、酒飲みに来るくらいかな」
俺の返事に、オッサン3人は顔を見合わせて頷きあっている。
……1人は知らない顔だけど、この2人と顔つき合わせてなんか話し合える間柄のようだし、それなりベテランなのだろう。
そう思ってみれば、妙に縦に細長いが、なるほど風格が有る。
「明日から、少し遠出してもらえるか? なに、行って来いの3~4日の仕事だ」
ハンスさんの言葉に、顔を見合わせる俺達だった。
そして、新たな道が続く。




