想いが集う場所
異世界に、憩いを求めて。
逃げ場を探して袋小路に飛び込んだ感じの俺は、仲間全員を引き連れて、ヘンリーさんの部下の人の後ろを歩く。
まだちょっとご機嫌ナナメのカレンちゃんとティアちゃんに両手を取られ、逃げられないポジショニング。
逃げる気は無いから、離して欲しい……ような、そうでも無いような。
ちょっとだけ悪い気もしない、そんな俺です。
「こちらで御座います」
そんな俺の様子に小さく苦笑を浮かべ、まずは1軒目の邸宅へと案内してくれたのは、外回り担当だと言う職員さんだ。
流石にオーナーに案内させる訳にも行かず……いや、最初しようとしたんだよ、ヘンリーさん。
お気持ちは嬉しいけど、基本徒歩での物件回りだ。
あんま無理させる訳にもいかんでしょ。
なんでそんなに熱心と言うか、親身になってくれるのやら。
彼の真意、その想いを知るには、まだ少し時間が必要なのだった。
現地で見ないとわからない事は多い。
1軒目は思ったより痛みが激しく、要修繕。
広い――とは言え痛みが激しいその屋敷は、それでも建て替えの許可は出ていないので、修繕で対応するしか無いらしい。
その修繕に金貨2千枚と、時間を1月は見て欲しいと言われれば、そりゃあ、誰も手出ししないよね。
「――だそうだけど、どうする? ここ」
念の為尋ねるが、全員首を横に振る。
まあ、見た目が陰鬱だし、修繕すると言ってもねぇ……。
修繕中は、当然住めないだろうし。
続く2軒目は綺麗で、大きな建物に職員さん曰く小さな庭が有る。
「塀もしっかりしているし、建物に目立つ痛みは見えないな」
しっかりした作りの門を手のひらで叩き、門の中へ踏み込む。
小さい庭と言われたが、そこには東京の一般的な1軒屋を、二棟建ててまだ余裕が有りそうな広さだ。
手入れの問題か? 今は剥き出しの土肌だが、芝生を張っても良いだろうし、何なら畑を作るのも有りかも知れない。
ジェシカさんと少年少女組は職員さんに連れられて屋内へ。
……いや、構わんのだが、買うのは俺なんだよ……職員さん。
まあ、そんな小さなことは置いといて。
俺もタイラーくんに声を掛け、庭を離れて建物へと入る。
それだけで俺は、派手すぎない玄関のホールで立ち竦む。
広い。
このホールで生活できそうなくらい広い。
「俺、こんな広い家で生活できる気がしねぇんだけど?」
「じゃあ、お前は狭い部屋を選べば良いな?」
しれっと人を納戸か何かに押し込もうとするタイラーくんに睨みを利かせるが、全くどこ吹く風でサーキュラー階段を昇っていく。
コイツはいつか面白可笑しい目に遭わせてやらねば気がすまん。
俺は固く心に誓った。
そんな俺たちの様子を半笑い……笑いを堪えてた? 職員さんが案内してくれた邸内は、手入れが行き届いてとても綺麗で、それだけに、人の住んでいない寂しさが際立っている。
1階11部屋、2階15部屋。
随分な豪邸だが、住むのは7人。
明らかに過剰なので、既に乗り気の6人を宥め、3軒目を見に行く。
いくら俺でも、無軌道に仲間とか同居人を増やす予定は無いんだ、頼むぜ。
こうして徒歩で回れる程の近場に大きな邸宅が犇めく様に立つこのエリアは、クラスで言えば中流階級と言った所らしい。
俺の知ってる中流と、だいぶ規模が違う訳だが。どうなってんだ?
あれか、中流貴族か、と笑いながら聞くと、似たようなものだとタイラーくん。
嘘でしょ……。ご近所が貴族さんとか、絶対なんか問題起こすよ、主に俺が。
そんな事を思いながら到着した3軒目。
結論から言えば、2軒目の邸宅を買う事で話がついた。
3軒目、ヤベエくらいでかい。
庭に、2軒目の邸宅が3棟建つレベル。
当然、母屋はそれ以上のデカさの3階建て。
そんな規模が違うデカさの建物、同じ値段なんて絶対訳ありだと思って聞いてみれば、案の定だった。
まあ、ありきたり? な、お家騒動、乱心ご亭主の家族&使用人虐殺パニック。
その後幾人かの手に渡った物の、お約束の幽霊騒ぎで新ご主人ご乱心。
話を聞いたタイラーくんが「ここがあの……」なんて言ってる当たり、有名な話だったんだろう。
曰く付き物件と聞かされた俺はテンション爆上がりだったのだが、他のメンバー、特にカレンちゃんとティアちゃんが泣きそうな顔で反対だったので断念。
ここで俺はそもそも疑問に思っていた、「もう少し小さい屋敷が良いんでない?」と言う疑問を皆に投げ掛けるが、タイラーくんが何やら色々と言葉を並べ、俺は理詰めで納得させられる。
「お前のことだ。道端で泣いていれば、捨て犬も捨て子も拾ってくるだろう。それに屋敷の維持に人を雇うかも知れないとか、そう言う事は考えんのかお前は」
なんてことをやや見下ろし気味に、ちょっと早口で言われたら、俺としても「お、おう」としか言えず、押し切られたのだ。
資金を出すのは俺なのにな。
あと、今更だがやっぱりただのお人好しだと思われているのが納得いかん。
イマイチ釈然としないのだけど、不快ではないし、子どもたちが笑顔を輝かせているのを見ると、まあ良いかと言う気分になる。
そういう訳で、当初は「最悪、掘っ立て小屋でも」なんて思っていた俺の家探しは、話の振り方を間違えた俺のせいで「俺達の家探し」になり、結実を迎えた事になる。
……いつ何処で俺、間違ったのかな……。
購入意思を伝えると、心底驚く職員くん。
そりゃまあ、冒険者でこのレベルの屋敷を内見から即決で、なんてそうそう居はしなかったのだろう。
他所様の異世界転移/転生モノで、ご自宅購入系の話は素直に羨ましかった。
実際に生活するとなると相応に手間は掛かるだろうし、良い事ばかりではないだろう。
それでも。
夢か現実か判らんとは言え、購入できるとなると素直に嬉しいし、些事はこの際どうでも良い。
仮に夢だった所で、目が醒めたら俺が泣き崩れるだけだ。
被害者は居ない、じゃあ問題無いね。
そうと決まれば、ヘンリーさんのお店に戻り、購入手続きへ。
簡単な修繕に時間がかかるとの事で、1週間後に引き渡しとなった。
修繕という事で金額を上乗せで2千枚プラスすると伝えて仰天され、その場で全額払うと伝えて更に驚かれる。
そして驚きは困惑へ。
唐突に7千枚の金貨を出されても、ハイそうですかとなる訳がない。
他従業員さんの応援を呼び、金貨7千枚を人海戦術で数える。
それらの作業が終わったのは、夕日が赤くなりつつ有る、17時くらいの事。
驚き慌て困惑する職員たちを見ていたが……時折、物憂げな様子でヘンリーさんが俺を見ていたのが気に掛かる。
ヘンリー……まさか、な。
ともあれ、後半につれてダイジェスト気味にお送りしたが、これが俺が家を手に入れた顛末なのであった。
脳裏を過るのは、碑文か、拾い上げた小さな手か。




