↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/48

そうだ、不動産屋へ行こう

言うほど略せていない。

 夢であるのを良い事に、マイホームゲットしちゃおうぜ計画。

 略して夢のマイホーム購入計画。

 略しちゃうと色々隠せて便利だなあ、感心しきりな俺です。




 タイラーくんを筆頭とした冒険者仲間に確認させ、予算的には問題無さそうだったので、翌朝の不動産屋への案内を頼む。

 誰か1人くらいに案内してもらうか、最悪でも場所だけ聞いて俺だけ向かうつもりで、解散を宣言。


 したのだが、夕食までみんなで一緒に取る事に。

 ……解散宣言の意味よ。


 そして翌日朝。


「……なんで全員集まってるのさ。しかも、なんで部屋に来るんだお前ら」


 目を覚まして、洗面所に出向いて顔を洗って歯を磨いて、朝食を頂いて。

 そんな普通の朝を満喫する俺の部屋――宿の部屋なので、俺の部屋では無い――に、結局6人全員が顔を合わせていた。


「不動産屋さんに行くんでしょ?」


 不思議そうな俺に、もっと不思議そうな顔でカレンちゃんが質問をぶつけてくる。

 うん、そうだよ?

 そうなんだけどね?


「……君たち、冒険者活動は良いのかね? 誰かに案内して貰うか、場所だけ教えて貰えれば良いんだけど?」


 冒険者の活動は、生活の糧。

 薬草採取も立派な仕事だし、特に見習い冒険者のカレンちゃん達にとっては数少ない選択肢の中の貴重な1つだ。

 毎日宿代も掛かる訳だし、そういう仕事の邪魔をするつもりはない。


 そんな、慣れない気を使う俺に、連中は揃って不思議そうな顔を並べて見せる。


「だって、面白そうなんだもの。お家買う場面なんて立ち会ったこと無いし、昨日親切なヒトがお小遣いくれたし」

「小遣いと言う額では無かったがな。まあ、お前1人に任せて、妙な物件を掴まされても困るしな」

「僕も、リリスさんのお陰で余裕が出来たから。一緒に行くよ?」

「私も」

「私も!」

「うん、僕も大丈夫だよ、リリス姉ちゃん」


 あ? ……あー。


 そう言えば昨日、金貨掴み取り大会やったな。

 ……毎回やると思われても困るぞ?


 いやまあ、別について来てくれる分には心強いし助かるから良いけどさ。

 俺、この街の地図とか、全然頭に入ってないしな。




 結局、部屋でグズグズしてても話は進まないし、折角皆が付き合うと言ってくれてるんだからと、全員で行動する事に。


 出かけるにあたって仮面を装備し、ふと思いついてアイテムボックスの中身を漁る。

 軍服+コートは初夏の日差しはちと暑過ぎるし、コートを脱いでも軍服は――俺は大好きだけど――ちょいと威圧感が有るかもしれない。


 というか、確実に浮く。


 ファンタジーな異世界で、文化の程度が良く判らない街では有るし、思い思いの装備の冒険者が闊歩している世界。

 それでも俺の格好は異質に過ぎる。


 うん、ちゃんと自覚は有ったんだよ?

 軍服好きだから気にもしなかったけどね?


 しかし、今日はちょいと大きめの買い物の予定だ。


 なるべくシックで、それなりにきちんとした格好をしたい。

 そう思った俺はゲーム内でドロップしたり課金で買ったコスの中から、イメージに合いそうな服を探す。


 結果、いつ買ったのか、それともどこで手に入れたのか判らない「四季のOLスーツセット」なるモノを発見。

 微妙な顔(ツラ)で数秒悩んだ挙げ句、俺はブラウスにタイトスカートにパンプス、オプションでハンドバッグを選択して「装備」する。


 野郎共が室内にいるが、別に服を脱いだりする訳でもなし……いきなり服装が変わるのは驚くかも知れないが、まあ、突っ込まれたらウィザードの着替えはこうだとでも言い張るか。


 ……鏡を見るが、のっぺりと口元以外を覆う仮面と夏場のOLさんスタイルの組み合わせの悪さが極まり、不審者としての佇まいを激しく引き立てている。

 コレは……ギリギリ有り……な訳無いな、うん。


 色々と眺めて考えた結果、諦めの溜息と共に夏仕様の軍服(礼服)をチョイスし、「装備」し直す。

 暑いのは暑いが、まあ、コートでも平気だったし、我慢は出来る。


 生地もまあ、気持ち程度には薄いし。

「リリスさん、その格好で行くの?」

 フレッドくんが、実に不思議そうな顔で訊いてくる。


 うん、だろうね。


 結果今までと見た目がほぼ一緒だし、ぼちぼち暑いかなって時期に、軍服としては軽装とは言え、こんなに着込んでる奴なんか居やしない。

 それは理解(わか)るんだが、不(・)意(・)に(・)素(・)顔(・)を(・)目(・)に(・)す(・)る(・)事(・)に(・)自信のない俺としては仮面は外せないし、そうなると、この仮面と合う服なんてどうしたって限られる。

 何を馬鹿な、仮面を外せと思うかもだが、ちょっと考えて欲しい。

 27年付き合った顔が、ある日突然別物になる、と言う事を。


 そんな物が不意に正面から目に入るのは、俺にしてみれば、幽霊に出くわすのと変わらんのだ。


 何処に鏡とか鏡状のものがあるか分からん街中で、剥き出しの顔で歩く度胸をどうしても持てない。


「うん。暑いのは慣れてるし、大丈夫だよ」


 俺の返事に、何故かタイラーくんが首を振っているが、見なかった事にする。

 ちなみに、ジェシカさんは変わらずニコニコで、何を考えているか判らないけど、これは良い方に捉えておこう。

 そんな感じの、見た目だけはなるべくシックというか、まあ、落ち着いた雰囲気に「見える」見た目にしたいと思ったのだけど……。


 ……ちょっと、ゴツいかしらん?


 いっそ女の子らしくも派手じゃない、そんなドレスなんかも有ったりはするんだけど、いかんせんゲームだからなのか、ちょいと露出が多い気がして躊躇してしまう。

 妙に露出の多い服を選んだ所で……その、言い難(にく)いのだが。


 今まで頑(かたく)なに「自分の体型」について語る事は拒んでいた。


 その理由は、まあ、顔が幼気に見える、って所で察しはついたと思うが……。

 見た目的にインパクトが有るとは言い難いウィザードさんのボディが、より小柄に、慎ましくなってしまった訳で。


 出るトコ出てはいるけれど、ジェシカさんと比べられると泣くしか無い、つまりはそういう事だ。

 肌を露出させた所で、風邪を引かない様にと、心配されて終わりそうである。


 出るトコって腹の事か、だと?

 良(よ)し、表(おもて)に出ろ。


 髪は下ろしてある。


 昨日はそこまで手が回らない、お急ぎ準備での外出だった。

 今回は余裕が無くもないので改めて(こわごわ)鏡を見て、なんかよく見ると新鮮で可愛かったので、そのままにしてある。


 自分の顔を可愛いとか、って思うかも知れないが。


 中味は27のオッサンだぞ? 言うと悲しい事実では有るけれど。

 27年付き合った自分の顔に比べたら、この顔は可愛すぎるわ。


 何処の馬の骨とも知らん男には触れさせんよ、触れさせられませんよ。


 可愛いと言えば、カレンちゃんとティアちゃんがきゃいきゃいと騒ぎながら、くるくる追いかけっこしてるのを眺めているとこう、心が癒(い)やされる。


「……なんでお前は、そんな面白い顔でニヤついてるんだ?」

「誰が面白顔(おもしろがお)だ!」


 そんな様子に呆れ声を投げつけてくるタイラーくんと、即座に噛み付く俺。

 コイツは全く癒(い)やしとは無縁の所にいる。


 タイラーくんを見てそう思ってしまった俺に、非はないと思う。


 ジェシカさんはやっぱり、ニコニコ笑っているだけだった。




 ジェシカさんもタイラーくんも、宿暮らしが長い。


 この世界では賃貸物件という概念が無いのか、と思ったが、そんな事が有る筈も無く。

 冒険者という職業が、その生活に関係しているらしい。


 先に少し触れているが、冒険者として依頼(クエスト)をこなして生活している関係上、例えば護衛任務で街を離れる事も有る。

 魔獣や魔物の討伐の依頼(クエスト)でも、日帰りで終わる様な仕事は少ない。

 そんな仕事で、ともすれば野営の方が多い生活スタイルになりがち。


 決まった住処に憧れが有ったとしても、賃貸で部屋を借りてもろくに帰れないのでは資金が勿体ない。


 結局、街に帰って来たタイミングで宿を借り、そこで寝泊まりして仕事を請け、また街をしばらく離れて、というサイクルになるのだと言う。

 冒険者ギルドを中心にして、宿が多い理由もここにある。


「過酷なんだな、冒険者生活」


 感心して他人事のような感想を漏らす俺だが、

「お前もその冒険者だ」

 タイラーくんは見逃してくれるつもりは無いらしい。


「……なんでまた唐突に、家を買おうなんて思ったんだ?」


 歩きながら、タイラーくんが今更な疑問を投げてくる。

 今更だが、確かに俺はきちんとした理由を話していない。


 と言っても、大した理由じゃあない。


 ひとつは単純に、夢の中でくらい家を持ちたいと思った、っていう軽い理由。

 現実ではこんな理由で買えやしないが、夢の中で――あって欲しい――くらい、好きにして良いじゃない。

 もうひとつは、明言した通り、いちいち宿のお支払いがかったるいから。


 そして、更に。


「まあ、あれだ。折角会った仲間が、意味なく顔合わせてグダグダ出来る場所は、有っても良いだろ?」


 たまに酒持って遊びに来(く)るくらいの距離感は、好ましいくらいだ。

 そう言って笑う俺に、タイラーくんが肩を竦めて見せる。


「ああ、確かに、そんな事も言っていたな」


 ……あれ? 俺、こんな事、今初めて言った筈だけど?


 なんとなく不安でジェシカさんの方に顔を向けるが、俺の不思議そうな顔を見て不思議そうにしているだけだった。

自分が忘れているだけの可能性も、考えた方が良い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。