夢と仲間
お金で遊んではいけない。
6人が、それぞれ10枚数え、纏め、10回繰り返して。更にそこまでを5回繰り返して。
1人が500枚で、6人分。
「3千枚、丁度だ……」
タイラーくんのなんとも言えない声に頷くと、俺はそれを、一度纏めるとベッドの上に移動させる。
してやったりでニヤニヤが止らない、そんな俺です。
キッチリ3千枚、キリ良く出るもんなのかって?
収納されてたのは俺のアイテムボックスだよ?
任意で枚数指定して引き出せるのは、何回か試してる。少ない枚数だけどね。
そう、今回は「3千枚」を指定して出したんだ、最初から。
「よし、続きだ」
俺が言うと、タイラーくんが目を剥く。
「なんだよ? 50億分の3千枚でしか無いんだぜ? まだまだ有るんだ、急がないと今日中に終わんないぜ?」
挑発しつつ、俺は再びテーブルの上に手を翳し、同数を、さっきと同じ様に広げ、床に零す。
「……充分だ」
タイラーくんの押し出したような声が、俺の耳に這うように届く。
「3千枚も有れば、それなりの家が買えるだろう。それが更に3千枚も有るとなれば、小規模な貴族の屋敷すら買えるかもしれん。50億枚有るかどうかなんて、確認する意味が無い」
おやおや。
さっきまでの元気は何処へやら、タイラーくんは底知れない物を見る目を俺に向けている。
「そうなのか? 6千枚で充分だったら……」
言いながら、金貨をテーブルの上に溢れさせる。
全員が実際にその手で数えて、染み付いてしまった、その枚数。
「もう3千枚とか」
更に、テーブルに収まり切らなくなり、床に流れ落ちる。
「更に追加とか」
溢れた金貨が、床を埋めていく。
「もう3千枚出してみたりとか」
もう言葉もない一同を見回して、改めてタイラーくんに視線をロックしながら口を開く。
「取り敢えずこれで、都合1万5千枚の筈だけど、確認するか? 1万5千枚有れば、城でも買えたりするのかな?」
いつもマイペースっぽいジェシカさんも、金貨の海にどう反応していいか理解らない様子で、口をパクパクさせている。
「あ、回収するけど、幻術とか疑われたらつまらんから、何枚か拾って良いよ? 急がないと、全部回収しちゃうぜ?」
なんでも無い事の様に言って、俺は周囲を見回す。
目に映るのは、「何言ってんだコイツ?」という顔の群れだ。
金貨を広げて数えさせ、あまつさえそれを「拾って良い」とか、パフォーマンスを越えて最早嫌味な道楽だ。
確認だけなら既にそれぞれがその手で触っているし、床に溢れた分の回収の手伝いを頼めば、本物で有るという実感を深める事は出来るかも知れない。
だけど、態々拾うのを手伝って貰う必要は無い。
俺は、1枚拾えば、一定範囲内の持ち主の無い金貨は全て取得できる。
そういう便利機能が有るので、後片付けが大変なパフォーマンスを容易く実行出来た。
それに、拾って集めさせた所で、目の前から消えてしまえば。
時間が経過してしまえば、あれは幻だったのでは無いかと、そういう疑念が湧くだろう。
ちなみに、持ち主の有る金貨とはどういうモノかと言えば、要は人様の財布に入ってるとか、懐に収まってるとか、鞄に入れてるとか、金庫に仕舞ってるとか、そういう状態のモノだ。
そういった他人の物は拾えないんだけど……でも、普通に道端に落ちてる金貨だったりは、普通に範囲回収出来てしまう。
多分、金庫の中身なんかも一回ぶち撒けちゃえば、普通に「拾得」出来ちゃうんだろうけど、敢えてそこまで説明したりはしない。
やるつもりはないけど、誰かがうっかり財布の中味をぶちまけた時、その近くでたまたま俺がその中のを1枚拾ってしまえば、周囲の硬貨が全部、俺のアイテムボックスに収まってしまう。
普通に考えてそんなモン、窃盗でしかない。
この能力については誰にも言えやしないので、細かい説明は例えこいつら相手でもしない、出来ない。
そうでなくても、変に盗難事件とかの度に仲間に猜疑の目を向けられたり、痛くもない腹を探られるのも面倒臭いしな。
言えても、精々が「薬草などの消費アイテムの収集補助」程度の事だろう。
それでも虚実織り交ぜる必要が有るけど。
「拾って良いって、お前、これ金貨だぞ?」
割と自己弁護に余念のない俺に、タイラーくんが呆気に取られた様に声を向けてくる。
酔も醒めたのか、常識人振りが戻ってきたようだ。
思ったよりも効いたのかな? だったら良し。
「だから、コレが幻覚とか幻術とか思われる方が癪なんだよ。俺の面子の問題さ。拾って、確かめてくれ」
俺が促すと、全員、数枚の金貨を手に取る。
みんな、思った以上に善人である事よ。
「そんなんじゃ証拠にゃ足りないだろ? 両手で持てる分だけ取っとけって!」
俺は無造作に金貨を握ると、まずはフレッドくんの両手に押し付ける。
「わ、わぁ⁉」
驚いて取り落しそうになるのを何とか回避。
ついでマシューくん、カレンちゃん、ティアちゃんに押し付ける。
「ホレホレ、大人組。何なら大人の汚さを、子供に見せつけてやんな」
なんだか楽しくなってきた俺は、余裕顔で2人を煽る。
顔を見合わせるジェシカさんとタイラーくん。
まず動いたのは、綺麗な汚いお姉さん、ジェシカさんだ。
「おっとぉ、零しちゃったぁ♪」
狙いすましてブーツの中に流し込んで、零したも無いでしょうよ。
こんなモン立派に拾得扱いだし、そのブーツの中の金貨は当然ジェシカさんの物である。
「お前は……恥ずかしげもなく堂々と、良くもそんなマネが出来るな?」
苦々しい声のタイラーくんは、いっそ清々しいほど堂々と、机の上の金貨を懐に放り込み、掴んでは放り込みを何度か繰り返している。
自分が相方に吐いた台詞の意味を、じっくりと良く考える事をオススメする。
子供達が大人の汚さに引きながら、金貨を大事に抱えている様子を微笑ましく眺める。
オロオロしちゃってまあ、初々しいもんだ。
いずれタイラーやジェシカになるかと思うと、なんだか悲しくなってくるね。
そんなことを無責任に思いながら、残りの金貨を全て拾得し、収納する。
俺の様子と自分の懐を確認する、抜け目のない駄目大人を横目に見ながら。
「……なるほど、確かに幻では無いな」
床やテーブルからは金貨が消えたのに、懐に残った金貨を確認して、ニンマリ笑うタイラーくん。
お前さん、ちょくちょくキャラ変わんのやめろ。
正直、面白いけども。
「ホントよねぇ。こんな重いブーツ、私持ったこと無いわ。あ、なにか袋とか無いかしら?」
ジェシカさんは、あんまり変わった気がしない。
というか、最初は「履いてるブーツの隙間に流し込む」程度だった筈なのに、ちょっと目を離した隙に、脱いだブーツいっぱいに金貨を注ぎ込んでいた。
まあ……うん。マイペースで結構なことである。
ジェシカさん本人は変わりないが、子供達がジェシカさんを見る目は確実に変わっただろうな。
その少年少女組は手にした金貨をどう扱って良いのか判らず、しかしテーブルとかに置いたら消えるとでも思っているのか、混乱の度合いを深めているようだ。
面白いから見ていたかったが、そういう場面でもないので、落ち着かせるためにキチンと説明し、安心させてあげるのだった。
どういう訳か俺が近所の道具屋で金貨を収納する為の革の鞄を人数分購入し、全員に振る舞うという良く判らない目に遭いながらも、このメンバーに「俺が金を持っている」事実を認識させた。
50億枚はまだ半信半疑、というかハッキリと信じられなくても、少なくとも1万枚は持っている事は知っている。
「っつー訳で。まあ、家は買えそうって事で、宜しいか?」
何を考えて全員無言なのかは不明だが、話が進まないのは困るので、思い切って問いかける。
「問題ないだろう……1万枚の屋敷となると、もはや想像もつかんが」
この街で育ったというタイラーくんが、OKをくれる。
……そういや、タイラーくんはこの街の育ち、というか生まれなんだよな?
「……タイラーくんや、そう言えば君、実家はどうしたの? この街の生まれって」
少し呆然とした様子のタイラーくんに声を掛けると、ハッとしたようにこちらに顔を向ける。
「あ、ああ、俺は孤児院の出だ。家なんか持っていない」
……お前も孤児だったのか。
なんだか急にどう声を掛けた物か判らなくなり、照れ隠しに頬を掻こうとして突き指しそうになる。
まだ仮面に慣れていない。
まあ、とにかく気分を変えて。
「ああ、うん、よし。それじゃあ明日にでも、不動産屋に行きたいね。誰か案内してくれるかな? 店の場所を教えてくれるだけでも良いけど」
ふふふ。
日本人ライフでは家なんてとても手の届く物じゃ無かったが、この世界でなら、どうやら余裕っぽいな!
こんな都合の良い展開、絶対夢だ。
でも、どんな原因で見てる夢か判らんが、夢ならば醒めるまでは愉しむのが礼儀よ!
宿で毎回チェックインするのが面倒、たったそれだけの思いつきから始まったマイホームゲット作戦は、ここから本格始動する。
実はタイラーくんの予想を超えた超高額がデフォで、思い付いたその日の内に頓挫するとかそういうオチが無い事を、俺は心の底から願いつつ。
でも、そういうギャグもありかな、と、ちょっとだけ期待しちゃうのだった。
冷やかしに付き合わされる仲間が不憫。




