夢と現実と思い出と
風体と言動が怪しいと、信じてもらえない。
ところで、多くのハクスラゲームは、割と貨幣の価値が掴み難い世界だ。
昔を懐かしむ割にはちょっぴり苦悶の表情、どうも俺です。
場合によっては宿屋が無いなんてゲームまであるし、どうにも現実との比較対象が少なく、お金の価値が解り難い場合が多い。
そもそもハクスラゲームと言う奴は、武器は敵がドロップするのを拾い、そこに付与されたステータスで一喜一憂し、レアを拾ってレジェンドを掘り、エンシェントを狙い、ゲームに依ってそれぞれ等級の違うそれ以上のレアリティの武器や防具の夢を見る。
店売りの武器など、基本的に眼中には無いのだ。
じゃあお金を拾っても使わないのかと言うとそうでもないから困る。
拾った武器や防具で「この能力補正が○○じゃなくて□□だったら……!」と悶絶する場面が結構ある。
何しろハクスラで入手できる武器は、付与される能力補正やその数値が膨大且つ多岐に渡るため、目当ての武器を入手したと思っても、理想の特殊能力・数値で有る事は少ない。
どれくらい少ないかと言えば、そんな理想の武器なんか出やしねェ、ゼロだゼロ! (例外有り)っていうレベルである。
なので基本は妥協して使うわけだが、救済が無くもない。
最高等級であるオールドワンズなら、補正数値は最高値で固定、とかそれは言うだけ野暮だし、そもそも欲しい能力が付いているとは限らない。
防御補正とHP補正、それに敵が落とすお金が増えるとか、そんなのしか付いてない事だって普通にあり得るのだから。
じゃあ、救済措置とは何なのかと言えば、例えば俺のプレイしていたゲームでは、各装備1つにつき、特殊能力を1つだけ選んで変更出来た。
各種装備に付与されている内から、プレイヤー各々が不要と判断した特殊能力を、ランダムで他の能力に付け替えることが出来たのだ。
この、ランダムである、という事が肝である。
欲しい能力・数値を求めて、只管にチャレンジを続ける。
能力が合致しても、数値が足りなければどうするか?
回す。
納得できる数値が出るまで回す。
このシステムの絶妙にいやらしいポイントは、チャレンジ後、変更前の特殊能力が「残る」ため、変更候補が気に入らなければ変更しない、と言う事も出来るという点だ。
変更候補は3枠に見えて、ひとつは変更前のものと同じなので、実質新規の候補は2枠。
毎回全てが入れ替わるシステムだったら、数値はある程度妥協の幅が広がってしまうが、このシステムは「まあ、コレでも良いけど」レベルの数値・能力の物をキープしたまま、チャレンジ出来る。
失敗しても「悪くない」能力を確保できている為、どんどんチャレンジ出来てしまう。
これに必要なものが、素材アイテムだけだったらまだ良い。
拾って来さえすれば、何度チャレンジしようとも必要個数が変わることがない。
少なくとも、俺のプレイしていたゲームでは、素材要求量が増えていくような事は無かった。
……俺のお気に入りの指輪は、結局クリティカルダメージをプラス50%にするのに、どんだけ掛かったっけか……。
もとい。
チャレンジに必要なものが、素材プラスお金だった場合が、極限にえげつない旅の始まりとなる。
お金の必要額が、恐ろしい勢いで増えていく。
金貨5万枚とかから始まって、気が付くと1千万枚を超え、それでも納得する数値・能力が出ない。
気が付くと、手持ちのお金がすっからかん、という訳だ。
なまじ宿とかで使う金がなく、武器の修理で使う程度だったりすると、資金全部使っても直ぐに回収できたりするので、調子に乗って回してしまう。
話が大幅に逸れたが、結構な勢いで散財してしまうゲーム内通貨だが、やはりそこはゲームと言うか、エンドコンテンツともなると比較的容易く稼げてしまう――なんといっても深層領域のクリア報酬が狂った桁だ――から、気が付くと深層領域に挑戦を繰り返して、結果、意図せずそこそこ大量に稼いでしまう。
そして繰り返す破産からの資金回収、そして破産。
思い出して苦々しい気分になるが、本題はその稼いだ額、というか枚数。
それは、こちらに来て何度か言及している、そう。
タイラーくんの質問に対する答えがそれだ。
「金貨で言うなら、50億枚とちょっと、かな」
正確には、51億1951万3046枚。
1億枚以上の端数はちょっととは言わないな、うん。
俺が事も無げに言うと、ジェシカさんは言葉を失くし、タイラーくんは小馬鹿にしたように首を振る。
「リリス。お前が見栄っ張りなのは良く理解った。だが、夢と現実をごっちゃにするのはどうかと思うぞ?」
うんうん、そりゃそういう反応になるわな。
俺に言わせりゃこっちが夢なのだが、まあ言っても仕方ないし、俺としても夢は見ていたいのでそこは口を噤む。
「まあ、見せないとそうなるよな。うし、一度宿に帰ろう。着いてきてくれ」
俺は余裕の態度を崩さず、椅子から立ち上がる。
「帰る? 帰ってどうするんだ? 宿に置いてあるのか? 金貨が50億枚?」
言いたい事が理解っているくせに、ニヤニヤとタイラーが問う。
コイツ、酔ってるとホントにヤな奴だな!
いや、酔って無くてもあんまり変わらないけどな!
「全部出すわけじゃないが、此処で大量の金貨出したら目立つだろうが。部屋で一部を見せてやるよ」
自信満々の俺に、タイラーくんは肩まで竦めて「一部ねぇ」とかほざいてやがる。
|金貨をみっちり詰めた靴下でぶん殴ってやろうかと思ったが、ぐっと堪えて俺は先頭で歩き出した。
少年少女組がなんだかオドオドし始めた気がするが、きっと気の所為だ、うん。
銀の馬の骨に戻り、一度俺の部屋に。
その前に、タイラーくんが今日の分の宿代(2人分)を払ってから。
俺? 俺は昨日のうちに、2日分払ってる。
「よし、念の為鍵掛けてくれ」
俺はそう言うと、何も載っていないテーブルの上に手を翳す。
そうして無制限に出そうと思ったが、少し意地悪を思い付いた。
「じゃあ、出すから、タイラーくんは確認してくれ」
挑発気味にそう言うが、タイラーくんは面倒くさそうに欠伸する。
「俺1人じゃ時間がかかるだけだ。全員でやるのが良いだろう? なにせ、50億枚だったか?」
良いねぇ、知らないってのは怖いもん無しだねぇ。
「良いぜ。じゃあ、みんな数えてくれよ? 10枚ずつ纏めて、数えやすく並べてくれれば助かる」
そう言ってから、俺は机の上に手を翳す。
まずはこの上いっぱいに広がる程度を出して見せよう、と。
掌というか、手を翳した空間から溢れる金貨は綺麗に重なる訳もなく、あっという間に広がって、何枚か机からは溢れ、床に落ちる。
金属の跳ねる乾いた音が、言葉もない全員の前で重なり響く。
「どした? こんなもん、全然総数に足りてないぞ? ほら、早く数えてくれ」
眼を見開くタイラーくんに、俺は此処ぞとばかりに挑発を繰り出す。
「お前、こんな枚数何処から……?」
突如広がる金貨の小山に、タイラーくんは酔いが醒めかけのようだ。
少し、余裕が失われている。
ちらりと見れば、ジェシカさんや子供達も、呆気に取られた様に机の上の金貨と、俺の顔とを見比べている。
「おいおい、理解ってると思うけど、これまだ全然少ないからな? 早く数えないと、終わんないぞ?」
少しだけ溜飲を下げた俺はドヤ顔返しでニヤついて見せるが、タイラーくんはもう俺を見ていなかった。
資産があっても、怪しいものは怪しい。




