現実と居場所
立ち直ったら、歩き出すだけ。
えーと、何ていうか。
お見苦しいところを何か色々お見せしてすみませんでした、俺です。
まだ出会って2日? ジェシカさんとタイラーくんは1日しか経っていないと言うのに、俺はもう既に引っ張りまわされてます。
何だよもう!
もう既に頭の上がんない人が着々と増えてるんですけど⁉
昼飯は落ち着いて食いたいと言う俺の希望で、冒険者ギルド近くの食堂に連れて来られました。
大丈夫だろうなここ?
熊のハンスさんとか来やしねぇだろうな⁉
どうせ顔を合わせなきゃいけないんだけど、せめて飯食って落ち着いてからにして頂きたい。
あと、よく分からんのでパスタっぽいモノを頼んだんだけど、思った以上にパスタだったわ。
普通に美味い。
飯が美味いと、それだけで幸せだよね。
「うんうん。ホントに、幸せそうに食べる子ねえ」
ジェシカさんが、飯を食う俺を見て、しみじみと呟く。
いやだってさ、ていうかジェシカさんだけじゃなく、他の連中にも言えないけどさ。
異世界転移ものってさ、飯がマズイってのがなんか、デフォっぽくね?
それがさー、俺、この世界の食事が合ってるだけなのか、妙に美味いんだよ。
「美味いよ? コレ」
返事代わりに感想を述べて、俺はパスタを巻き取ってぱくつく。
仮面は外してるけど、テーブルマナーとか知らんし。
「食いっぷりと普段のふてぶてしさはベテラン並だな。女にしとくのが勿体ないから、俺はこれからは悪友の1人として接する」
おぉん?
随分静かに食事してるかと思えば、上品なお作法の割には随分な口っぷりじゃないの?
「なんだよ? 可愛いとか恋人にしたいとか可愛いとか、思った事は素直に言ってイイんだぞ? ん? んん?」
無論俺の方にそんなつもりは毛頭無い、と言うか俺は何度でも言うが女が好きなのだが、嫌がらせの為ならこの程度の軽口は余裕で叩ける。
俺が言うと、タイラーくんは照れる様子を微塵も見せず、心底嫌そうな顔で動きを止める。
おゥ、なんだコラ?
お前、普段殆ど表情変えない癖に、なんで今だけマッハで嫌そうなんだ? あぁン?
「……無いな。無い。無さ過ぎてもう、うん、無いな」
溜息まで混ぜ込んで、見事なまでの残念さを表情でまで表現して見せた。
意外と芸達者だなコイツ、なんて思う間も有ればこそ。
「無いは1回だコラァ!」
俺は即座に噛み付いていた。
単純に4回も並べやがって!
少しはバリエーション豊かに言ってみせろや!
少年冒険者達は、俺達の漫才に笑っている。
……そんなつもりはないんだけど、まあ、子供が笑ってるなら良いか。
子供達の笑顔ってのは、基本癒やされるもんだ。
悪くないね。
「笑われてるんだがな」
そういうトコだぞ、このメガネ……ッ!
食事も終わろうかってタイミングで、フレッドくんが俺に小袋を差し出してきた。
「うん?」
理解らないなりに手を伸ばし、手のひらに乗る重さと金属が擦れる音に、中味のおおよそを知る。
中味は何となく理解ったが、理由が分からん。
「フレッドくん? こいつは一体?」
金を貸した覚えもないし、借りる予定もない。
飯代のつもりなら、だいぶ多いと思うぞ?
あ、ちなみに中味は銅貨か銀貨だと思う。
だって、フレーバーテキストにそう書いてるし。
「ギルドの、グスタフさんから。コレで何か食べろって!」
何処か誇らしげに、フレッドくんが言い切る。
グスタフ……?
名前に覚えがなく、戸惑う俺の動きが止まる。
腕組みまでして考えても思い出せない名前。
そんな相手からの金なんて受け取って良いものか、迷ってしまったのだ。
「……受け取れよ? ベテランがわざわざ気を使ってくれた物だ」
そんな俺の内心を見透かしたように、タイラーくんがボソリと言う。
ああ、そうだな。
俺は小銭の詰まった袋を握りしめ、小さく頷く。
「理解った、ありがとよ……。フレッドくん、わざわざありがとな!」
前半は小さく、タイラーくんに向けて。気を取り直してフレッドくんには笑顔で礼を言う。
嬉しそうに笑うフレッドくんの頭を、思わず撫でてやる。
可愛いやつめ、うははは。
「ご機嫌なところ悪いが、笑顔が汚い……じゃない、食事が終わったならギルドへ行くぞ。ベテラン連中にも、お前を持ってこいと念を押されてるからな」
誰の笑顔が汚いだとあァン⁉
って言うかさらっと何か言ってるけど、なにそれ。
特に最後のやつ、俺何も聞いてないんだけど?
食後の余韻ってさ、大事だと思うんだよね?
例えばさ、こう、砂糖をたっぷり入れたコーヒーとかさ? 欲しいじゃない?
「うははははは! 呑めコラァ!」
「うるっせぇ! 抱きつくな髭が痛ぇ!」
なにコレ?
って言うか、酒を飲んでるからとうっかり仮面を外した、自分の危機感の無さが恨めしい。
冒険者ギルドに入り併設の酒場に足を踏み入れた途端に、昨日見掛けた気がする冒険者達に囲まれたかと思えば、あっという間にテーブルまで拉致され。
嬢ちゃんはミードがいいだろ? とか勝手にオーダーが決まり。
あれよあれよと冒険者の群れに囲まれテーブルまで拉致され。
身長こそハンスさんよりかは低いが、似たような屈強なガタイの髭のあんちゃ……いや、もうオッサンでいいや、そんな筋肉の塊の隣に座らされる。
この髭で眼帯のオッサンが、グスタフとか言うベテランらしい。
言われてみれば昨日見掛けた気はするが、しかしそれだけだ。
特に絡んだ記憶は無いんだが、なんで俺はこんなオッサン達に囲まれて酒呑まされてんだ?
用事があって呼び出された筈じゃ?
「そうだよ! アレだろ、ハンスのオッサンに呼ばれてるんじゃねェのかよ、俺ぁ!」
ミードのジョッキをテーブルに叩きつけるも、この酔っぱらい共、笑うだけで聞きゃしねぇ……!
「呼んだか?」
魅惑の低音に視線を転がせば、出たなギルドの熊さん。
っていうかいつから居たんだよ?
何で当たり前みたいな顔で隣に座ってんだ、なんでこんな筋肉に挟まれてんだ俺。
「呼んだか、じゃねーよ! なんだよ、用があって呼んだのはそっちだろうがァ!」
もう、俺の落ち込みとか反省とか立ち直りとか、その辺の諸々の俺の心情を返せこの野郎ども!
「明日、葬儀だ」
やんややんやの宴会ムードの中。
ハンスの低い静かな声が、ジョッキを傾ける俺の鼓膜に、静かに滑り込んだ。
重い響きも、受け止めて。




