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熊さんと俺

冒険者ギルドでのトラブル第2弾、相手は……熊?

 冒険者ギルドに熊が出没。

 冒険者か狩人の出番だと思うんだけど、誰も動く様子はない。


 っていうか、服まで着てるとか、随分とスタイリッシュな熊だな。

 無駄に呑気なのは、もちろん俺です。




 馬鹿な事を考えていると、熊は静まり返った酒場の中を、まっすぐこちらに向かってくる。


 なんで?


 っていうかホントにでけェなおい!

 本物の熊みたいだ?


 なんだこの迫力⁉


「……お前は、そっちの子供達とはどういう関係だ?」


 熊が人語を喋った。

 いや、さっきも喋ってたか。

 いやまあ、そろそろしつこいか。


 俺は驚きもそこそこに、少年たちと顔を見合わせる。

 少年たちも唐突な流れの変化に戸惑ったようだが、その質問には自信を持って答えられる。


 頷き合うと、熊の方に顔を向け、俺達は同時に答える。


「友達だよ」

「仲間だよ!」


 まるで漫画のように、俺達は声を揃えられなかった。

 嬉しいけどなんだかショック。


 でも仲間か。

 それはそれで嬉しいね。


 周りで見てた冒険者の中で、笑いが漏れる。

 畜生、覚えてやがれっ。


「友?」


 熊は、笑いもせず、俺の台詞を拾っていた。

 そんなに不思議な言葉だろうか?


 俺は首を傾げてすぐに戻し、胸を張って言ってやった。

「ああ。右も左も分からんこの街で、この子達が俺をここまで案内してくれたんだ。今日は俺のために、一緒に薬草採りにも行ってくれたしな。一緒にメシも食って、こんなモン、もう友達(ダチ)だろう?」

 仮面を外し、精一杯の笑顔で言ってやる。


 こういう時は、渾身のドヤ顔で決めるのが礼儀ってモンだ。




「一緒にメシも食って、こんなモン、もう友達(ダチ)だろう?」


 ハンスは認識を改めることに決めた。

 仮面を外し、その上であんな良い笑顔で言われては、妙な疑いを向けるほうが野暮に思えてくる。


 子供達もすっかり懐いてる様子だ。


「そうか」


 単なる無法者では無さそうだと、聞いてはいた。

 今さっき見掛けた小芝居(こしばい)は、子供達を守るために、敢えて自分ひとりに怒りを向けさせたのだろう。


 無茶だし、考えも無い。


 周囲の冒険者の実力も知らずに、下手すればこの場にいる全員に喧嘩を売る覚悟で。

 そうでもなければ、ああも堂々と啖呵を切るなど出来ないだろう。


 自分より強い者が居たとしても、退(ひ)かない。


 早死にする馬鹿の考え方だ。

 だが、それを自分の為でなく、友と定めた子供達の為に選ぶ。


 褒められたものではない。

 だが、友として隣にいれば、これほど心強い者も居ないかも知れない。


「よく判った。だが、その友のためにも、無茶はするな」


 子供達よりほんの少し年上と言った所だろうか。

 だからこそ、子供達も懐いたのかも知れない。


 ハンスは思わず、その頭を強めに撫でていた。

「ぎにゃあ⁉ 髪が、っていうか痛ぇよ⁉」

 ワタワタと、ハンスの手をどかそうと藻掻く様子に、たまらず隣のテーブルの女冒険者が笑い出し、笑いの輪が酒場中に広がっていく。


「俺はハンスだ。このギルドの副(サブ)マスターをやっている。困った事があったら呼べ」


 頭を撫でる手を止め、握手を求めてそのまま突き出す。

 しばし、ハンスの手を不思議そうに眺め、彼女はニヤリと笑うとその手に自分の華奢な手を重ねる。

「新人のリリスだよ。晩飯に困ってるんだ、助けてくれ」

 ぬけぬけと言ってのける。


 本当に、大した度胸だ。


「悪いが、厳しく接するのも俺の仕事の内でな。自分のメシは自分でなんとかしろ、新人(ルーキー)」

「なんて厳しい社会だ、世知辛くて泣けてくるねェ」


 ふてぶてしい受け答えは、既に中堅冒険者並だ。

 ずっとこの街にいる気かは表情からは読み切れないが、この街に居てくれれば色々と面白い事になるかも知れない。


 それは、根拠のない予感。

 実力次第では、色々と仕事を振るのも良いだろう。


 その前に、釘を深めに刺しておくか。


 ハンスは心持ち居住まいを正す。

「まあ、程々にな。お前に暴れられると色々面倒だ。なにせ他所から流れて調子に乗ってる馬鹿はどの時間帯でも居るからな」

 表面上、リリスは反応せず、笑顔のままだ。


「お前に腕を切り落とされるのは、ノーラッドだけで済ませて欲しいもんだ」


 ハンスに馬鹿呼ばわりされた、反応しかけた調子に乗っている自覚の有る冒険者の幾人かは、続いた言葉に動きを止める。

 Aランクの荒くれノーラッドは有名で、その有名人が腕を斬り落とされて引退したと言う噂は広まっている。


 今のハンスの言葉は、ノーラッドの腕を切り落としたのがあの新人の小娘だと、そう告げたのだ。

 その言葉を受けた新人(リリス)は、表情を動かさずに応える。


「そいつは気分次第だね。腕だけで済むなら、ラッキーだと思って欲しいもんさ」


 次にちょっかいを掛ける手合には、腕だけで済ませるつもりはない。

 リリスは人を食った笑顔で、断言して見せたのだ。

 揺るがぬ自信か、ただのハッタリか。


 どちらでも良い。新人が、当の本人がハンスの言葉を肯定して見せ、ハンスは黙って頷く。

 これで、それなりの釘になってくれただろう。


 新人だと思って手出しすれば、タダでは済まない。


 基本、冒険者というのは危険と隣り合わせの職業だ。

 傭兵まがいの仕事もあるし、商隊の護衛ともなれば、野盗(やとう)の類(たぐい)と殺し合いになることもザラだ。

 気の荒い者もそれなりに多く、酒の席での殺し合いは珍しい事でもない。


 だが、余程の事でも無ければ、冒険者同士の殺し合いをギルドが裁く事はない。

 それこそが、冒険者の自己責任の原則。


 酒を飲むのも自由なら、酔ってケンカを売るのも自由。

 返り討ちにあって殺されるのも、お好きにどうぞ、という訳だ。


 だからと言って、そうなりそうな火種を黙って放置するほど、冒険者ギルドは荒れ果ててはいない。


「まあ、幾らなんでも大量殺戮ともなれば、そうだな……。冒険者ギルド(うち)だけじゃなく衛兵も動くから、やりすぎるなよ」


 リリスの胆力を気に入ったハンスがニッコリ笑って言うが、言われた方(ほう)は流石に笑えない。


「アンタは俺を何だと思っているんだ……」


 ハンスのハッタリだと思い込もうと必死な者。

 注意が必要な実力者だと警戒を強める者。


 俺っ娘(おれっこ)という事実にトキメキを押さえられない者。


 様々な視線が、げんなりとハンスを見上げるリリスを凝視していた。

頼れる大人と頼りない大人。物語は、それらのつづら折り。

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