モノの価値、ヒトの格
労働は、尊い。
1束銀貨1枚とは。
緊急事態故か、中々に太っ腹だと思うが……勝手な感想なので、当たっているかは理解らない。
1人辺り6束納品、ジャンケンで勝ったフレッドくんとティアちゃんが7束ずつ納品で、少年少女組はホクホク顔だ。
ピーク過ぎとは言え、(一応)午前中に出かけて昼過ぎに戻って来れたのはだいぶ早いと思う。
そういう訳で昼過ぎだ。
つまりご飯だ。
話を聞けば、銀貨6枚は1日の稼ぎとしては優秀なのだそうで。
お昼と夜とを食べて、宿代を払っても余裕があるという。
「って、宿? え? お家は?」
疑問をそのまま口に出してから、失敗したと思った。
だって、この年頃の子達が家じゃなくて宿で生活って、それはつまり。
「あ……僕たち、孤児院の出で……」
あー。言わせてしまった。
っていうか、何?
孤児院出の仲間だけで生きて行くと決めての仕事で、昨日は死にかけて?
そんな境遇なのにハゲゴリラには絡まれて?
いや、アレに絡まれたのは俺か。
じゃあ良いか。
……良いか?
「そか。よし、そう言う事ならアレだ。お昼にしよう!」
なんか凄く触れにくい事に素手を突っ込んじゃった感じ。
すごーく気まずい。
気分を変える為に、俺は手を叩いて宣言する。
何がどういう事かは判らずとも、腹は減っているご様子の育ち盛り達。
「仕事のやり方教えて貰ったから、今日は俺の奢りな!」
俺の宣言に、目を丸くして顔を見合わせる少年少女。
そんなに驚く事かな……?
この子たちの驚くポイントがいまひとつ掴めない、そんな俺です。
ギルド前の広場に並ぶ屋台の中に、「肉巻きパン」なるメニューを掲げた屋台が有った。
屋号は……「オリバーのパン屋」?
パン屋にしちゃあ、なんか随分良いガタイだね?
戦士と戦闘機乗りは引退するとパン屋になりたがるって言う、あれかな?
あと、ハゲが眩しいね? 輝いてるね?
それにしても肉巻きパン。
気になる。
決して食いたいと言う、良い意味ではなく。
見るからにベタついて食い難そうなアレを、誰が買うんだろうか?
想像するに、あの油、中に有るであろうパンにも染み込んでそう。
何よりも、それを、特に紙なんかに包む事もナシに手渡される様子だ。
それだけでも罰ゲームに近いのに、あの照り輝き、ものによっちゃあ滴る油。
あんなの食ったら1個でも手に負えない、って気分になりそうだ。
……胃もたれで。
もっとキッチリ焼いて、切り分けておけばまだ……。
そこまで考えて、思考を停止させる。
深く考えてしまえば、アレを買うことになってしまう気がしたのだ。
興味が無くはないが、俺はなるべく普通のメシが食いたいのだ。
少なくとも、今日は。
いたいけな少年少女の視界から過剰な光源と有害物を遮蔽し、他の屋台を冷やかしつつ、俺達はワイワイと通りを歩いた。
なんだ、思ったほど悪くは無いね、異世界生活。
夢かどうかの不安は、まだあるけどな!
若い子って良いなぁ。
元気にいっぱい食べてる子を見ると、こう、なんか幸せな気持ちで、つい見とれちゃうよね?
あの、衛兵さん? なんで構えてるんです?
さて、未成年者を不法に労働させている疑惑に巻き込まれ、なんとか疑いが晴れてヨカッタヨカッタ。
冤罪だと判っても頭を下げない衛兵隊にちょっぴりご立腹な俺は、ちょっぴり本気で魔力を解放、衛兵隊の何人か……ごめん、6人中4人を気絶させてしまった。
恐れ慄いた衛兵さん達に心からの謝罪を頂き、意気揚々と衛兵隊詰め所を後にした。
人を見た目で判断しないよう、厳に反省せよ。
子供達がびみょーに距離開けてるぅ……。
やめて? おいちゃん子供だけに働かせるとか、そんな危ない人じゃないよ??
え? そうじゃない? 魔力解放威圧が怖い?
文句は俺を怒らせた人に言って下さい、ええ。
そんなホンワカイベントが有りつつ、午後からは完全無欠で暇になった俺&少年冒険者達。
何となく色んな話が聞けそうな冒険者ギルド併設の酒場に足を向けつつ、気になった事を聞いてみる。
「この街は……孤児は大きくなったら、どういう仕事につくんだい?」
孤児、その生い立ちだけで負い目を感じる子も居るとか、よく聞く話だ。
産み落とされた子供に、罪なんざ無いってのに。
「え? 大工さんになったり、読み書きができたら領主様の所で働いたり。孤児院の手伝いをする人も居るよ?」
あれ?
俺が思ったより、なんというか色々仕事がありそうで、なんか悲観的な感じじゃないね?
「冒険者になって、将来は冒険者ギルドの職員、て子も結構いるよね」
「働いて、将来はお店を持ちたいって頑張ってる人も……」
「男の子は、冒険者とか衛兵さんになりたがるよねー」
衛兵隊も人気の職業ですか。
魔力込みの半本気睨みなんて、ぶちかましてごめんね? 衛兵のみんな。
でも冤罪だめよ?
しかし、話を聞く限り、なんというか暗い話は微塵も無いな。
昨日のあの……なんて名前だっけ? ゴリラでいいか。
あのゴリラの当たりの強さは、あれはどっちなんだろう?
孤児に対するものか、新入りに対するものか。
「それはどっちもです、ノーラッドさんは、そういう乱暴な人だったので」
俺が聞くと、カレンちゃんがフンスと鼻息も荒く教えてくれる。
生粋のこの街出身の人は孤児に対しての偏見はないが、他所から流れてくる事が多い冒険者の中には、孤児を嫌う者も多いという。
「すぐ乱暴する人がいっぱい」
ティアちゃんも身に覚えがあるのか、嫌そうに言う。
「そういうのはアレだな。……舐められたくねェけど無闇に喧嘩売る度胸もねェ三下が、確実に自分より弱そうな子供ビビらせて悦に入ってるだけだな」
殊更に声を大きくしたのは、目的地についてテーブルを確保したからだ。
なんでかって?
そりゃあ勿論。
無闇に喧嘩売る度胸もねェ三下が、確実に自分より弱そうな子供が入って来たってんで、チラチラこちらを見てやがるからだ。
昨日の今日でアレだけど、子供に威張るしか能のねェ馬鹿に容赦なんかしないよ?
「おう新入り、誰が三下だって?」
「お前だ馬鹿野郎」
何処かのテーブルから上がる声を、振り向きもせず、叩き切るように遮る。
激昂したらしいそいつが立ち上がる音。
椅子が倒れる派手な音がして、直ぐに殴られるような音。
……え? まだ俺何もしてないよ?
「三下が図星突かれてピーピー囀るな。捻り潰すぞ」
流石に驚いて振り向くと、大男みたいな熊がのっそりと立っていた。
状況を察するに、あの熊が三下を殴り飛ばした……らしい。
え? 大丈夫? あの冒険者、死んでない?
ていうか冒険者ギルドに熊が居るんですけど?
ちょっと冒険者の人、誰か熊退治してー?
お前も冒険者だ。




