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ハイエンド草むしり

仕事を受けたよりも、シレッと名前を明かしている方が気になる。

 時間が経てば色々と落ち着くというか、諦めもつくわけで。


 俺の現実が何処に有るかはさて置き、折角こういう状況だし? のんびりしてやろうじゃないの、と意気込んでの、Fランク冒険者の方向けの依頼を請けた訳だ。

 そうして異世界初仕事、草むしりである。


 ……のんびり出来て無くない? むしろ仕事してない?

 訝しむ俺です。




「あ、リリスさん! それ違う!」

「ふぎゃ!?」


 昨日の少年の1人、リーダー格のフレッドくんが、びっくりして変な声が出ちゃった俺へと駆け寄ってくる。

 依頼(クエスト)を請けた俺とたまたま再会し……っていうか、お互い初級冒険者だし、冒険者ギルドで顔を合わせるのは不思議でもなんでも無いか。

 その流れで、一緒に採取に行くことにしたのだ。


 あ、リリスってのは俺の名前って事になってる。


 井原圭介、なんて名乗っても通じないと思うし、なにより見た目が女で名前は男ってのも、という事でちょいと悩んで。

 ゲームのキャラ名を名乗ることにしたのだ。


 それにしてもあんまりな名前だけどな。


 ニューゲーム時、名前に若干悩んだのだ。

 「スルメうどん」と「リリス」で。

 まあ、こうなってしまうと、スルメうどんを選ばなくて本当に良かったと心から思う。


 まだしも、リリスの方が名前っぽいからな。


 ……だよね?


 しかし、フレッドくんもそうだが、みんな薬草を見分ける速度が早い。

 なあにそれ、スキルか何か?

 本人たちに言わせれば、単なる慣れなのだそうだが。


 慣れ過ぎだと思うんだ、うん。


 聞けばみんな12歳らしいが、何歳からこの仕事してるの。

 ていうか、12歳で働いてるのかよ。


 おいちゃん恥ずかしくなってくるから、真っ直ぐな目で見ないで貰えるかな?


 ポーション用の野生の薬草、最低10本6束、ポーション6個分からの出来高制。

 初級の仕事って割に、要求数量が多くないです?

 書き方で誤魔化されそうになるけど、60本って事よね?


 俺がそう尋ねると、フレッドくんは苦笑いで答えてくれる。


「今は、ギルドの保管分がだいぶ少ないらしいんです。なんか、帳簿の数と実際の数が合わないとかで、急いで数を確保したいって話で」


 おっとぉ?


 事も無げに教えてくれるフレッドくんだが、その情報、ギルド内部の不正疑惑だよね?

 気軽に話して良いのか以前に、なんでそんな話を知ってるのかな?


 それとも、案外フランクにそういう情報を開示してるんだろうか。

 いや、幾らなんでも内部で不正が有ったかも知れないなんて話は、開示し過ぎだろう。


「なるほど、まあ、今だけ特別みたいな感じなのね」


 キナ臭い話には近寄らないに限る。

 俺は話を聞いていた体(てい)で話題を黙殺し、無理やり流す。


「そんな感じです。普段だったら、10本1束が最低数ですから」


 なるほどねぇ……。

 俺は素直にフレッドくんの話に感心しながら、他のみんなの手元を細かく観察して居た。


「フレッドくん、これは薬草で間違い無いのかな?」


 そうして薬草の特徴らしきものを覚えて足元の雑草の中を探り、らしい物を見つけ出す。

 根っこは残して、地面から3センチくらいのところから折り取る。

 こうする事で薬草はまた育ち、そのうち収穫出来るほどに戻るのだそうで。


 こういうのが、生活の知恵なのだなぁ。


「あ、そうです、それです!」


 フレッドくんが太鼓判を押してくれる。

 よし。


 アイテムを自力で拾った事で、その特徴は完全に記憶した。

 ……俺ではなく、アイテムボックスが。


 理屈は不明だが、俺が慣れ親しんだあのゲームでは、同種の「消費系」アイテムは、1つ拾うと周囲数メートルの範囲の同じアイテムを自動で拾得してくれる。

 きっと魔法なのだろうから考えても仕方ない。


 重要なのは原理ではなく現象だ。


 俺は意外と手近に有ったもう1本を、俺的に慎重に手折る。

 それだけで、アイテムボックスの中に薬草が68本。


 案外有るもんだな……。


 つか、どのくらいの範囲の薬草を根こそぎにしたんだろ?

「あれ? さっきまで沢山有ったのに、急に無くなっちゃった……?」

「ふぎゃ!?」

 少し離れた所で、昨日狼に押し倒されていたカレンちゃんが不思議そうに呟く。


 やっべぇ。


 そりゃそうだ、固まって採取してるんだから、俺が一帯の薬草採り尽くしたらこの子達の獲物はなくなるわけで。

 疑問だって湧くし、俺も焦って変な声も出るってもんだ。


 このクセ、直んないかなあ。


 ともあれ俺は罪滅ぼしに、ちょっと離れた所で同じ事を数度繰り替えし、大して時間も掛かって居ないというのに全員が納品してもまだ余る程度の薬草を掻き集めていた。


「山分けしよう」


 そういう俺の声と、山と積まれる薬草に、採取姿勢の少年少女は声もなく俺を見上げていた。

スルメうどんだった場合、もしもこの先にシリアスが待っていたら。

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