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余裕を持つことと油断は別物。

 目で追える動きに、予感めいたものは感じていたのだが。

 ダメだ。


 やっぱり全く恐怖を感じない。


 それは夢だからか?

 正直、自分のスキルで空中に放り出されたり、地面に摩り下ろされそうになった時の方が、よっぽど怖かった。


 コイツ、Aランクって言ってたよな? あれ?

 ゴリラは攻撃が通用しなかった事で多少慎重になったようで、続けざまに攻撃してくるような事は無い。


 思ったよりも考えている様で、なるほど高ランク冒険者というのは伊達では無いらしい。

 だが、それじゃあ俺の障壁がどの程度のモノか、確認出来ない。

 もっとこう、キレまくりで躍起になって攻撃しまくって欲しい処なのだが。


 仕方ない、もうちょっとだけ煽るか。


「少年……」


 俺は少年の名を呼ぼうとして、名前を聞いていなかった事に思い至る。

 なので、已(や)む無く「少年」呼びだが、この場面では仕方ないだろう。


「え……? あ、は、はい!」


 自分の剣が届かず訝しげだったゴリラも、俺が第三者に声を掛けた事に一層慎重になったようで、様子を伺うことにしたようだ。

 隙だらけだとか斬りかかってこない辺り、意外では有る。

 そんな感想は取り敢えず置いて、俺は湧いて出た疑問をなるべく簡潔に、少年に提示する。


「冒険者ランクAと言うのは……実はスタートランクの事か? B、Cと順番にランクが上がるとか、そういうシステムなのか?」


 一瞬、目の前のゴリラですら、きょとんとした顔で俺に目を向けた。

 何を言ってるんだ、と言う処だろう。

 一部で空気が凍った様にも見受けられるが、少年は比較的早く正気を取り戻し、答えをくれる。


「ち、違います! お姉さんさっき登録してFランクだったでしょ! Fから上がっていくんです! 説明されたじゃ無いですか!」


 だよね。


「なるほど? 実は最大ランクがSで、Fスタートだけど依頼(クエスト)失敗が続いたり素行が悪かったりするとランクが落ちて、Aが最低ランクなんて事は無いんだな?」


 そういう世界が有っても良いと思うが、俺の感想はそれこそどうでも良い。

「ちっ、違いますっ! Aランクは、この街では最高ランクです!」

 少年が慌てた様に答えてくれる。


 なるほど了解。


 というか、先にも言った通り受付カウンターのお姉さんに説明して貰っているので、実は理解出来ていたりしたのだが。

 今のやり取りで目的を達成しつつ有る事が解り、ほくそ笑む。


(理解(わか)った上で)俺の発した質問が、ゴリラをそれなりに煽ったらしい。

 でも、ちょっと足りないかな? 


 プルプル震えているが、まだ我慢出来て居るらしい。

 思ったより辛抱強いね?


 それじゃ、もうひと押しくらい行こうか。


「なるほど、先程のカウンターでの説明の通りで間違いないのか。このバカゴリラを見るに、俄には信じられないが。」


 まずは、受付のお姉さんがちゃんと説明していたこと、仕事をしてた事を周囲に宣伝。

 俺のせいで「ロクに説明もしてないのか」とか怒られたら不憫過ぎる。


「ふむ、しかし……Aランクの実力者、か。知性とか品位とか、そういう所もそうだが……。俺の障壁1つ破れない、傷1つ付けられないとか。大した実力だな?」


 仮面で表情が読める部位は口元だけ、そこを俺は意地悪く歪めて、せせら笑って見せる。


「Aランクねぇ……。お前がAランクでも最弱レベルの雑魚(ザコ)なのか、それともAランクってのが大した事のない連中の集まりなのか知らんが、このままじゃただの弱いものイジメだな。困ったもんだ」


 口元を歪めたまま小憎らしく言い放つと、俺は殊更にゆっくりと、ヘルメットを外して見せた。


 ゲーム内での俺のキャラは東洋系の、キツ目の美人だった。

 これで仮面の下の素顔がリアルな俺の顔だったら笑いどころだが、まあ、どっかで鏡があったら確認しよう。

 なんだか、イメージよりもちょっと甲高い……声が若いのも気になるし。


 まあこの場合の目的は、顔を晒す事じゃないしな。


「ハンデだよ。これで、俺の防御力は多少は落ちた。攻撃が届くかも知れないぞ? 非力なお前でもな」


 基本防御力に加え、セット効果の防御効果4%ダウン。


 要するにあまり変わっていないのだが、さも大サービスであるかのようなせせら笑いは忘れず添付しておく。

 こういうのを詐欺と言うが、一方で、こういう舐めた事する奴は大抵ロクな目に会わない。


 そこまで舐め腐った「防御力を落としてやった」アピールは、それなりに効果が有ったらしい。


「……舐めやがってッ!」


 これでもまだダメならもうちょっと煽んなきゃと思ってたけど、この段階で乗っかってくれた。

 正直助かる。

 これ以上煽るとなると、どうして良いか正直思い付いてなかったのだ。


 そんな俺の安堵に気付くことなど無く、ゴリラは狂ったように剣を振り回し、叩きつけてくる。

 その切っ先は床を擦れば火花を散らし、そうでなくとも周囲に風圧を放つ。

 まあ、そのどれも届かないし、俺の心を揺さぶることもない。


 さて、どれくらいで俺の障壁が破られるか、確認させて貰おうか。


 障壁が破られた瞬間に発動できるように、魔踊舞刀(まようぶとう)を準備しながら、俺はのんびりとゴリラ乱舞を眺めるのだった。

決着はついていないようだが。

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