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野生に帰れ!

思い込みは危険、状況確認をしろとあれほど……。

 冒険者ギルドで絡んでくるせいぜいが中堅止まりの三下冒険者。

 そう思い込んで煽り倒した相手がAランク冒険者でした。


 げんなり顔でこんにちわ、俺です。




 先程手早く冒険者登録した時に、ランクのシステムについては説明されている。


 俺はよくあるFランクスタートで、当然のようにAランクに向かって登っていくわけだ。

 そして、件(くだん)のゴリラ冒険者さんがその最高峰? のAランクとか。

 やってることが小物感満載なのに、これでAランクとか説得力が無さ過ぎて、逆に本当なのかも知れない。


 そのゴリラ冒険者さまには、ご丁寧に剣をこちらに突きつけて、ハッキリと殺意を提示して頂いている。

「覚悟は良いんだな、このクソ女……!」

「ハゲにクソ呼ばわりされる謂れは無(ね)ェんだよハゲ、判るか? ゴリラ語(ご)じゃねェと通じねェかハゲ? ウホ? ウホウホ?」

 最早殺意しか無いゴリラの、やはり三下感満載の台詞に、俺は丁寧な煽りで礼を尽くす。


 それにしても困ったものだ。

 低ランク雑魚(ザコ)冒険者だと思ったから真正面から喧嘩売ったんだが、Aランクかよ。


 憮然とする俺の様子にもプライドを刺激されたのか、ゴリラが動く。


 無言で突き出される剣先。

 だが俺はそれを躱しもせず、真正面から受け止める。


 俺が、ではなく、俺の周囲の空間が、だ。




 俺が今なっている状態――ゲームのウィザードと言うクラスは、防御が弱い。

 所謂(いわゆる)、紙って奴だ。


 そんな俺が前衛職の攻撃の前に晒されて、それでなんでのほほんとしていられるかと言えば、それはひとえに深層領域に挑戦を続けている経験、そしてそこで手に入れた装備類の支えのお陰だ。


 過酷な深層領域、只管深層を目指すストイックな世界で何となく戦えるのは、その紙防御をある程度、様々なスキルで補っているからだ。


 例えば俺自身に備わっている、5秒間攻撃を受けなければ総HPの60%までのダメージを肩代わりしてくれる障壁とか。


 MPが総量の90%以上を確保していれば、受けるダメージを50%軽減してくれる胸鎧とか。

 ウィザードなんて魔法使(つか)ってなんぼ、MPなんて直ぐに90%を切る、そう思うだろう?


 普通はその通りだ。


 高威力の魔法でガンガンMPを使うのは、他のゲームと変わらない。

 MPが切れても戦う手段を確保するために、ノービススキルなんていう、MPを使用しない魔法もある位なのだ。


 しかし、その問題も攻撃毎に特定スキルのMP使用量を減らす装備と、HP・MPを回復する装備品で解決出来る。

 攻撃に使う量を回復量が上回るのだから、余程の大魔法を使うか、攻撃に関与しない魔法を使わない限りはMPが減る事はない。


 要は攻撃し続けてもMPを90%以上確保する、つまりは気をつけてさえ居れば、常に被ダメージを50%カット出来ると言う事だ。


 更に障壁の力が90%上昇するガントレット――左腕のコレだ――は、当然のように重複して効果を発揮する。

 更には指輪にはめ込んでいる宝石(ジェム)の効果で、さり気なくエンシェント装備1つにつき4%被ダメージ減。


 防具はアクセサリーまで含めて最大13個装備なので、52%減である。


 障壁自体はHPの60%までのダメージにしか耐えられないとは言え5秒で回復するし、しかもガントレットで元の数字以上の底上げがある。

 そもそも受けるダメージが先に言った通り、えーと? うん、すごく減少しているので、実質はかなり頑丈だ。


 急に説明が怪しくなったのは計算が苦手だから、許して欲しい。


 単純な足し算で行くと、合計で100%を超えちゃうとか、そんなの有り得ないだろう、普通。

 100%カットなんて完全防御だし、それを越えた分はどうなるんだ?


 回復するの? 反射するの?


 どっちも心当たりないし、そもそもダメージを受けないとかもう障壁が要らないんだけど、ゲーム内ではタコ殴りにされて障壁が割れてそのまま殺されるとかザラなので、つまり違うって事だ。

 多分正解は、50%減少したダメージから更に60%減少させて……って具合なんだと思う。


 ……多分だけどね?


 薄(う)っすらと思い出しつつの適当な説明だが、俺ですらこの程度のダメージ対策は行っている。

 だからこそ、化け物だらけの深層領域を、ソロで100階層手前まで行けているのだ。


 世界は当然のように広いので、俺なんかより余程硬い奴なんか山程いる。

 全然自慢にはならないのだが、少なくともこの状態でダメージを受けると言う事は、俺の防御スキルを全部ぶち抜いてくると言うこと。

 このゴリラにそれが出来たら、即謝ってトンズラである。


 そんな攻撃、障壁無しにまともに食らったら死ぬ。

 そういう意味で、テストとしては丁度良い。


 俺はこの世界でどの程度のレベルなのか?


 馬鹿げた理由で命懸けだが、どうせ夢だ。

 失敗したら汗びっしょりで目が醒める、それで済む。




 そんな軽い気持ちで、全く現実感なんて持ち合わせていないからこそ。


 俺は敢えて、正面から受け止めるのだ。

 回避スキルが無いから、という理由もあるけどね。


「危ないッ!」


 少年が叫ぶのと、俺の障壁がゴリラの剣を受け止めるのは同時だった。

説明も理屈も理解が難しいが、要は硬いと言うことだろう。

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