お約束の場所で
分かりやすい、トラブルスポットへ。
「はい、ご記入はそれで大丈夫です」
書類の記入とか、こんなに手こずると思わなかった。
文字が読めるのは助かるが、これ、アルファベットだよな?
というか、もっと言えば……これ、英語だよね?
英語なんか理解るか! と思ったが、まあ、一応読めない事もない。
というか、言語は英語なのか?
俺、英語出来ない人ですけど……。
なんで意思の疎通ができて……あ、そっか、夢か。
うん、確かに俺、英語に憧れてるけどさ。
周りのみんなが使ってるの、日本語にしか聞こえない。
こんなに都合よく英語を習得したと思い込みたいのか、俺は……。
1人で恥ずかしく、情けなく思えて来て赤面してしまう。
仮面っぽい頭部装備で、本当に良かった。
妙な事で安心しちゃう俺です。
「それでは、登録料は銀貨3枚になります」
1人で勝手に恥ずかしくなっていた俺の耳に、ご請求の声が滑り込む。
あい、銀貨3枚っすね。
先程買い取ってもらった狼の代金(5人で山分け)の中から、3枚を渡して無事終了。
狼を持って帰ってよかった。……危うく少年に金を借りなきゃいけなくなるところだった。
この夢だけの来訪だろうし、改めて返しに、なんて来れなくなるからな。
踏み倒しはイカン。
金貨があるだろう、って?
ゲーム内で拾った金貨が、この世界で使えるか分かんないでしょうが。
はしゃぐ子供達の輪の中で1人頷いていた俺は、背後に立つ気配と子供達が静かになった事に気がついて振り返る。
「なんだぁ? またガキどもが寄り付いてんのか。それになんだ、この怪しい風体の……」
わかり易い程に人相の悪い巨漢が、俺達を見下ろしていた。
なぜか数秒、黙って俺を見下ろす、ゴリラみたいな筋肉質の大男。
なんか厳ついわ下品そう(無根拠)だわ、そんなのがなんか凄んできたと思ったら、他人様の身体を無遠慮かつ舐めるように、視線を上下させている。
なるほど、世の女性の気持ちが凄く理解ったわ。
大変に気持ち悪い。
「おい、返事くらいしろよ。お前は何だと聞いてんだ、……女?」
挙句、捻り出した言葉は疑問形で結ばれている。
見て判るだろうが!
さっきまで騒がしかったギルド内が静まり返り、子供達は顔を青くしている。
こいつはそれほどにヤバい奴なのか?
しかし、俺は知ったこっちゃない。
と言うか、ハッキリ言ってこいつの態度が気に食わない。
「返事して欲しかったらそれらしく謙れ、このハゲ」
気に食わないから全力でケンカを売る。
別にハゲてないのは見れば判るが、大抵はハゲと言われると怒る。
俺だって怒る。
「なんだと……?」
おー、分かりやすく怒ったなハゲ。
周囲は凍りついた様に動かない。
俺はさり気なく進み出ると、子供達に被害が及ばない位置へと移動する。
ホントにあの子供達に被害が及ばないか、自信は欠片も有りはしないが、こういうのは気分だ。
「なんだ、バカなのか? 耳が悪いのか? もう1回だけ教えてやる」
俺は殊更にバカにしたように溜息を吐いて、バカにしたように口を開く。
「人様に返事して欲しかったら、立場を弁えてそれらしく謙って、言葉を選べと言ったんだ。理解できるか? ハゲゴリラ」
「テメェ……!」
おーおー、分かりやすくキレてやがるな。
バカが、お前の事なんざお見通しなんだよ。
こういう場面で絡んでくる奴は、雑魚い三下って相場が決まってんだ。
顔を真赤にしたゴリラを挑発する俺の右手の袖を、誰かが引っ張る。
振り向けば、真っ青な顔の少年が震えて立っていた。
あー。なんか、コイツになんかされたことが有るのか。
余計に頭にくるな。
そんな事を考える俺に、少年は震える声で呟いた。
「お姉さん、ヤバいって、そいつ、いやその人」
まあまあ落ち着き給えよ。
そう思う俺の耳に、少年は言葉の続きを放り込む。
「その人、Aランク冒険者で……ここいらじゃ有名なんだよ……」
……はい?
Aランク?
まって? ちょっと待って?
こういう場面の新人イビリは、低ランクのクズって相場が決まってるんじゃないのかよ!
俺の内心の叫びは誰にも届かないし、振り向いた先ではAランクゴリラが剣まで抜いて、やる気満々なのであった。
御約束を信じすぎ。




