侵入
「ここだね」
秋弥が足を止めたのは、なんも変哲のない2階建の家の前だった。創生は、それを聞いて躊躇なくポケットからピッキングツールを取り出して扉の前に行った。
「あいつ、器用だよな」
「発明の技術の応用って本人は言ってるけど、本当に応用できるものなのかあれ?」
疑問をあげればキリがないが、別に今更問い詰めることではない。
「開いたぞ」
創生が振り向いてそういうまで30秒ほどだった。ピッキングの平均タイムがどのぐらいなのか調べようとも思わないが、早いほうなんじゃないのかとみんな思っている。
中に入ると、電気は一切ついておらず、人の気配が全くしない。
「秋弥くん、本当にここであってるの?」
「あってる。どこかに地下への隠し扉があるはず」
「うおっ、なんか潜入捜査っぽい」
「普通に死ねるからあんま浮かれるな」
こうして、各々がばらけて室内の探索を始めた。
1階はそのほとんどをリビングが占めており、他に風呂場やトイレなどがあるが、隠し扉のようなものが見当たらない。しかし、少し不思議なものなら見つかった。
「なぁ、海渡がなくなったのは確か3年前だよな?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあ、なんで椅子が4人分あるんだ?」
「え?」
確かに、リビングのテーブルをかこっている椅子は4つだった。
「いや、普通に処分めんどくさかったんじゃないか?」
「いや、食器も4人分だな」
「あ、そういえば靴も4人分あったよ」
「そうなんだ…」
4人暮らしの面影がこびりついている事実を知り、秋弥は少しだけ恐怖を覚えた。いや、秋弥だけではない。面影を見つけた主時、爽、目白も。それをぎりぎりまで否定していた創生も。何も見つけていない才賀も。全員恐怖を覚えた。
何故4人か。それは、小学生でも考えればわかる。フィクションなら定番の流れだ。海渡の死を振り切れていない。それ以外に考えられない。
「もう3年前だぞ…」
「家族の死はそう簡単には振り切れないからね」
そう語る目白の声は少し冷たく聞こえた。
「まぁ、それもそうか」
そうして一同は、二階へと足を進めた。
二回は部屋が2つのみの、1階に比べて狭い作りになっている。
「どうする?分かれて探すか?」
「人数的に誰かしら相棒と離れ離れにならない?」
「だったら俺と爽がバラけたほうがいいかな?あいつ異能なしでも充分強いし」
「あー、確かに。あの時も1人だけ動きおかしかったもんね」
「流石に体が異能に慣れてきてるからやめておきたいが…」
などと会話していると、奥側の部屋の扉が開いた。各々が自身の武器を構えると、出てきたのは白髪の少年だった。
「何か物音がするなと思って見てみれば、お前らか」
少年は、主時と目白の顔を見て言った。
「やけに落ち着いてるな。これはお互い不法侵入しましたって感じじゃなさそうだ」
「ここで戦っても、人数差で負けるだろうな。入れ」
昨日主時と目白があったときとは違い、やけにおとなしい少年は、そういうと部屋の中へと戻った。
「どうする?入るか?」
「罠かもしれないよ?」
「罠ごときで体力満タンの爽がやられるとは思えない」
「お前らは俺を無双系作品の主人公かなんかだと思ってるのか?」
爽は少し呆れている。確かに、爽は実際に強い。冗談抜きで元・3-Dの中で一番強い。そもそも異能を得る前から異能使いとそれなりにやり合えるぐらいの運動神経の高さを持っていた。そんな爽が異能を持った今、倒すためには昨日の公園であった死神女のようにガンメタを張らないといけない。持久戦が苦手というシンプルで対策しやすい弱点を抱えていることが玉に瑕だが、ちょっとやそっとの対策なら彼は正面から壊してくる。だからこそ、あの死神女の実力の高さがよくわかるのだが、今回はそこは本題ではない。
結局爽を盾にするかのように全員爽の後ろに並んだ。
「お前ら、死んだらちゃんと葬式に来いよ」
「任せとけ。ちゃんと参加する。リモートで」
「やっぱお前が前行け主時」
「あ、ごめんなさいごめんなさい。あ、髪引っ張らないでまだ俺はげたくない…あ痛い痛い…」
こうして先頭が爽の逆鱗に触れた主時に変わり、みんなは部屋の中へと入っていった。
そこは、俗にいう子供部屋だった。勉強机やベッドなどが置かれている、ごく普通の子供部屋だ。2人分の勉強机や2段ベッドなど、1階に引き続き海渡の死を受け入れられていない様子が垣間見える点を除けば。
「よくやってきたね」
2段ベッドの1番上から主時たちを見下ろすように少年はいた。
「わざわざ部屋に戻ってそこまで行ったのか?」
「やーいかっこつけー」
「ズボンのチャック全開だぞー」
「うるさーい!」
少年は、顔を真っ赤にしながらズボンのチャックを閉めた。
「そういえば名乗ってなかったね。俺は竹中青。海渡の弟っていえば、わかりやすいかな?」
「あぁ、知ってる」
創生がそう返した途端、他の元・3-Dが全員創生のほうを向いた。
「まて俺聞いてない」
「僕も聞いてないな…」
「ちょ、どういうこと⁉」
「え?言ってなかったっけ?」
「言われてない」
「マジか」
創生は、どうやら思いっきりやらかしたようだ。それをみんなから詰められている。
「そういうのはちゃんと伝えてよ!」
「創生、お前いつも伝える情報何かしら忘れるよな…」
「ほうれん草大事」
「あの、続き喋っていいか…?」
1人取り残された青が戸惑いながらも止めた。
「まったく、愉快な連中だな…本当にお前らがマレウスデイを乗り越えた奴らなのか…?」
マレウスデイ。その言葉を青が発した途端、緊張感が漂い始めた。そして次の瞬間、一瞬の間に主時、才賀、秋弥が青に接近し、それぞれの持つ刃の先端を向けた。そして、爽、創生、目白は銃口を青に向けている。
「てめぇ、そのことをどこで知った」
爽の発した声は冷たくもどこか荒っぽかった。それもそのはずだ。マレウスデイとは、表に出ていないにも関わらず、大規模であった、異能による最大級の事件である。
そして、元・3-Dの異能管理人たちが自身の異能を自覚した日であり、元・3-Dの拝受者たちが異能を手にした日であり、そして今、主時たちが戦い続けることになったきっかけでもある日である。




