将来
秋弥の異能を頼りに後を追うことになった4人は、現在地下鉄に乗っている。乗り物の免許を持っていない彼らにとっては、公共交通機関が最も素早い移動手段である。
「にしても、これ俺たち今日は徹夜かな?」
主時は腕時計の針がさしている、19:00という文字を見ながら言った。
「だな。明日土曜日でよかったわ」
「もっとも、あまりそういうのが関係ない奴らがここに2人もいるのだが」
そういいながら主時は通信制の創生と中卒の秋弥を見た。高校生活に何か不満を感じているわけではないが、時々二人のことが羨ましく感じる。
「ところで、創生は何やってるんだ」
「さっき廃工場で倒れてた職員のIDカードパクって色々と調べてる」
創生はパソコンをいじっているが、果たして地下でロクに動かせているのだろうか。
「にしても不思議なもんだな。案内いかれた思想を持った奴に手を貸すなんて」
創生は呟いた。確かに、戦の言っていたことはかなりぶっ飛んでいた。あの廃工場にいたのは戦を除いて20人ほど。学校のクラス1つ分の規模だ。それだけの人が、この世界から時間の概念を盗もうとしていた。
「けど、集団ってなるとそんなもんだと思うよ」
異能の使用に集中して今まで口を開かなかった秋弥が言った。
「人間ってさ、人とのつながりに弱いんだと思う。1人が嫌だから、自分のいられる集団を探す。そして、次第に集団に人は依存していく。集団になじむために自我を殺す時だってある。そうすると、集団の考えに自身の考えが占領されていく。そして、もしその集団の長がそれを理解して、集団を操ろうとすれば、想像よりも簡単に操れると思う」
「うわっ、残酷…」
「僕たちは運よくいい集団に居られたけど、そうじゃなかったら。他人ごとではないのかもね。特に、異能管理人は」
主時たちも、元・3-Dのみんなと出会っていなかったら、道を踏み外していたのかもしれない。異能を渡された身である拝受者はまだしも、生まれつき異能を持っている異能管理人は、その性質上孤立しやすい。どうしようもない組織に依存してしまった可能性が大いにある。
主時と創生は、少しだけ性筋が凍った。
そんなこんなで地下鉄に揺られること約30分。着いたのは住宅街の近くにある駅だった。
「秋弥、戦はどこにいるんだ?」
「一軒家に入っていったね。多分、自宅」
「よし、それじゃあ行くか!」
「あ、ストップ」
主時が歩き出そうとしたのを爽が止めた。
「そろそろ2人が来る」
「2人…って、どの2人…?」
「今回の件に関わってる2人はあの2人しかいないだろ」
あの2人。この件に関わっている2人は確かにあの2人しかいない。
「あ、いたいた。おーい来たよー」
地下鉄の出入り口から見覚えのある2人組が出てきた。才賀と目白だ。目白は相変わらず重そうなアタッシュケースを持っている。
「爽、お前呼んだのか?」
「あぁ、人手はあればあるほどいいからな」
「けど、話聞いてる感じ室内戦になりそうだよな?レイピアの才賀はまだしも、スナイパーの目白は厳しくねぇか?」
「あ…」
どうやらそこまで深く考えていなかったようだ。実際目白の武器も、異能【かごめかごめ】も室内戦には向かない。
「ま、どうせスナイパー近距離でぶっぱなすでしょ」
「見てる側はひやひやするけどな」
そうして、高校生6人は目的地へと向かった。
住宅街、しかも夜なので人通りはそこまで多くない。せいぜい仕事帰りの大人が死んだ目をして歩いているぐらいだ。
「俺たちも将来こうなるのかな?」
「働きたくないー」
「一生親のすねかじっていたい」
「創生に関しては本当にすねかじり続けられそうなんだよね…」
この世には「親ガチャ」なんて言葉があるが、創生は間違いなくあたりの部類だろう。裕福な家で自由に育てられている。何か行動を制限されることもなく、かなり甘やかされている。大抵こういう過程は両親が忙しくて愛を感じないなんて言うのがテンプレだが、零唐家を見ていると、そういうのは現実だとあんまりないのかもしれないと思ってくる。
「でも、実際将来どうするのボクたち?」
一番将来のこと考えていなさそうな才賀が言った。
「創生はどうせ発明かパソコンで食っていけるだろ?で、そんな創生に秋弥は養ってもらうからいいとして…」
「いや、なんで養われる前提なのボク…」
「すでに養われてるようなものだろ」
主時の言う通り、すでに秋弥は創生。いや、零唐家に事実上養われている。異能ばれで家を追い出された秋弥を零唐家が引き取っているからだ。もっとも、それが将来創生とサシの関係になっても続くかは不明だが。
「爽くんは顔いいし、アイドルにでもなる?」
「キャラじゃない」
「あぁ、爽には無理だ。こいつ音痴だし」
「主時にだけは言われたくない」
「そうだった…」
主時と爽、2人とも絶望的に音痴だが、2人ともその自覚がない。なのでお互いがお互いよりも歌がうまいと思っているのだが、他4人からすれば、どんぐりの背比べである。
「そういう主時はなんかあるのか?」
「いや、特にないよ」
主時は、すっぱりと答えた。
「まぁ、そうか。主時が遠い未来のこと考えてるとは思えないし」
「そんな失礼な…」
実際考えていないが、主時は一応否定した。
「それで、目白ちゃんは?」
「私は…特にないかな?」
目白は、少し考えてから言った。
「ま、目白ちゃんはかわいいしなんにでもなれると思うよー!」
才賀は、目白の頭を撫でながら言った。
「かわいいければ何でもできると思ったら大間違いだぞ」
「相変わらず相棒に甘いな」
「かわいいだけじゃダメなんだよ」
「美少女無罪はフィクションだけだぞ」
才賀は、男4人に速攻発言を否定された。否定されたことへの怒りと、別にかわいいことは否定されていないという事実が頭の中で混ざり合い、顔を真っ赤にしながら無言で早足になった。




