時間の支配者 影の支配者
廃工場を2人で制圧するのに30秒もかからなかった。中に異能使いがいなかったので、この速さは当たり前ともいえる。だが、だからこそ疑問も残った。
「あの少年どこ行った?」
「さぁ、少なくとも俺は見かけなかった」
「あぁ、俺もだ」
2人は白髪の少年を追ってここまでやってきた。しかし、この廃工場の中で2人は白髪も少年も見ていない。
「あー、なるほどね。なんでこんなに人倒れてるんだろって思ったら2人か」
悩んでいる2人に聞き覚えのある声が聞こえた。声のしたほうを見てみると、秋弥と、何か長い筒状のものを担いでいる創生がいた。
「創生、今度は何作ったんだ?」
「レールガン。俺の能力、戦闘向きじゃないから」
「マジで何でも作れるな…」
創生は名前の通り物づくりが得意である。ハッキング技術も、物づくりに必要になったプログラミング技術の応用で出来るようになったらしい。
「それで、2人がいるってことは、やはりここが臭うってことか」
「あぁ、そういうこと」
そういって創生がしゃべりだそうとした次の瞬間
「やぁやぁ、いらっしゃい。招待した覚えはないけれど」
通路の奥から声を掛けられた。スーツを綺麗に着こなした、50歳ほどの男性だ。その男性は微笑んでいるが、その心が全く読めない、不気味な気配を放っている。
「あなたが竹中戦さんですか」
「え?竹中?」
「あぁ、竹中海渡の父親。説明は省くが今回の黒幕とだけ伝えておく」
想像よりも早い黒幕の登場に、主時と爽は困惑していた。
「そこのオレンジ髪と青髪の2人の戦い、見ていましたよ。なかなかの実力をお持ちですね」
「黒幕に褒められてもうれしくねぇな…」
主時は、刀を構えながら言った。それと同時に、爽も刀と拳銃を構える。
「おっと、殺意が高いですね。私は貴方たちと戦いに来たのではありません」
そういって戦は主時たちをなだめようとしている。
「じゃあ、何の用だ?」
「私は、あなたたちにお願いをしに来たのです。私の計画のお手伝いをしてほしくてね」
「計画?」
「そうか。だったら話は聞こう。俺も答え合わせがしたい」
創生は、そういっているがレールガンを構えたままだ。
「物騒ですがまぁいいでしょう。私の計画を」
そうして話し続けた戦の計画は、恐ろしいものだった。
「私は、時間を奪う」
「は?何言ってるんだ?」
爽は少し引いている。無理もない。いくらファンタジーな力、異能を持っているとはいえ常識は変わらない。しかし、そんなことを気にせず戦は話をつづけた。
「私たち異能使いは、人類進化の中核者だ。だが、ただ待っているだけじゃ進化は訪れない。だから進化を自ら促す必要がある。手始めに私は、時間を奪い、人類を時の概念から逸脱させる」
「時間を奪う?そんなことできるのか?」
「あぁ出来る。私の異能、【時の支配者】なら」
そういいながら戦はポケットから拳銃を取り出すと、発砲した。それは創生へと当たった。しかし、創生からは血はおろか、傷すら見当たらない。
「創生、大丈夫か?」
しかし、声を掛けても創生は瞬きすらしない。
「無駄ですよ。私の異能、【時の支配者】は拳銃の命中した相手を10秒間行動不能にする。そろそろその少年も動き出しますよ」
そういい終わるのが先か、創生が動き出したのが先かはわからなかったが、創生は動き出した。
「うわっ、え?何事?」
どうやら、止まってた間の記憶がないようだ。
「私はこの力で全人類から時間の概念を奪う。そして、動くことのない、永遠を人類は生き続けるのです。しかし、今の私では10秒が限界。なので異能を進化させる必要があるのです」
「異能の進化。それの条件、知っての発言か?」
そう尋ねる主時の刀を握る力が強くなっている。主時だけではない。他の3人も怒りが漏れ出している。
「えぇ、知っていますよ。異能使い100人の遺体と引き換えに。ですよね。最初聞いた時は驚きましたが、それで人類が進化するのであれば安いもの…」
「反逆時間」
主時は、話し終わるのを待たずに異能を使って戦に斬りかかった。戦はそれを拳銃で受け止める。
「おやおや。まだ話は終わっていませんよ」
「罪のない人を殺すことを正当化するような奴にロクな話ができるとは思えない」
すると、主時の頭の上を何者かが飛び越えた。主時はそれを確認すると戦と距離を取った。そして、飛び越えてきた人。【血液昇華】を発動した爽は戦の拳銃を刀で押さえながら至近距離で自身の拳銃を撃った。戦はすぐさま回避するために距離を取ったが、それでも右太ももに命中した。
「主時、あと何分残ってる」
「2分30秒。まだまだいける」
「なるほど、これは予想以上に厄介なようですね。ここはいったん引くとしますか」
そういいながら戦は地面に向かって発砲した。すると、煙幕のようなものができ、それが止まった。爽がそれに向かって何発か撃ったが、手ごたえはなさそうだ。
「逃げられたか」
「いや、まだ大丈夫。僕の異能がまだ捉えている」
秋弥はそういいながら左手で左目を隠している。彼の異能、【影の支配者】を使っている証拠だ。
【影の支配者】は、自身の影を操作する異能だ。戦闘面では影を実体化させて弱い分身として戦わせることができる程度のお世辞にも強い異能とは言えないが、情報収集や、尾行においては優れた異能だ。
この影は五感を持っており、しかもそれを秋弥と共有することができる。実体化させないのであれば影に射程距離の概念はなく、いくらでも遠くに行ける。しかも実体化させなければ影に質量はないので壁をすり抜けることも可能だ。これにより本来入れないところを操作したり、今回のように他の人の影に侵入して尾行することもできる。
「バイクを使って移動しているみたいだから、もう遠くにいるけど、まだ後は追えるはず。行くよ」




