爆発と落下
創生の家は結構大きい。もっと詳細に言えば高い。一軒家なのに4階建て+地下1階というかなり贅沢な家だ。本人曰く父親は大手会社の社長。母親は芸能人として成功しているらしい。ここまで金持ちだったら少々気に障るような性格であってほしかったが残念なことに優しき心の持ち主だ。しかし、性格はよくても生活には問題があり…
「あ、来た」
創生の家のピンポンを押すと、中から柏田秋弥が出てきた。紅葉色の髪に栗のヘアピン。そして初見は男子だと見抜けるかどうか怪しいかわいい顔立ちと高めの声。異能というかなり個性強めなものを持っている中3の同級生。元・3-Dの中でもファーストインパクトという意味では特に個性が強いかもしれない。
「創生は…この感じはいつも通りか」
「そうだね。ま、とりあえず入って」
またかよと言いたげな表情を浮かべている4人に、秋弥は家に上がるように言った。
家の中は清潔感がある。設置されている照明1つとっても、シンプルながらかなりの値がするものなのだと素人でも察せるほどの物だ。
そんなどことなく高級感の漂う空間の中に1つ、部屋の扉があった。創生の部屋だ。
「ねぇ、なんとなく勢いで行くって言っちゃったけど、本当に行くの?」
「安心しろ。正直俺も後悔してる」
「目白、万が一の時は頼んだぞ」
「うん、その時は何とかする
4人が扉を見ながら不穏な会話をしている。
「別にわざわざそんなことしなくてもいいでしょ」
「それはお前が慣れてるだけだ」
「あ、はい…」
秋弥は説得を諦めて扉をノックした。
「創生、爽たちが来たぞ。入るな」
そういいながら返事を待たずに扉を開けると、中から何かの焼けこげる臭いがした。
「ん?あ、来たんだ。久しぶり」
テンションの低い声。白衣姿に寝ぐせだらけの黒髪。猫背になりながら片手にはんだごてを持っている男、零唐創生が部屋の中にはいた。
そしてその僅か一瞬だけ創生がはんだ付けしていたものから目をそらしたとき、それが光を放ち、次の瞬間爆発した。
「目白ちゃん!」
「【かごめかごめ】」
目白の異能、【かごめかごめ】は自身を中心に半径100メートルまでの空間を鳥かごで囲む異能だ。銃使いの彼女単体で考えれば、戦闘範囲を狭める異能はむしろデメリットともいえるが、この鳥かごは本人の意思、もしくは本人の死亡でしか解除されることはない。つまり、うまく使えば絶対に崩れない盾となるのだ。当然、爆発にも耐える。
「危なかった…目白、ナイス」
しかし、そんな中とてもナイスとは言えない状況の男が1人いた。
「げっほげっほ…あぶねぇ死ぬかと思った…」
前進が煤で真っ黒になり、髪の毛がもじゃもじゃになった創生である。
「いや、よくあんな至近距離で爆発食らって生きてるな」
「そりゃまぁ、慣れてるから」
「慣れちゃいけないでしょそれ…」
そういわれても創生は理解していないのか、きょとんとしている。
「それで、ボクたちをこんな時間に呼び出して何の用なのかな?」
「呼んだのは爽と、既読のつかなかった主時だけだったんだがまぁいいや」
そういいながら創生はテーブルに置かれたリモコンを手に取り、ボタンを押した。すると、プロジェクターが作動しスクリーンに映像を映した。映像はファミレスの防犯カメラだ。このようなものにハッキング出来るのは創生しかいない。そして、それがどこなのか、主時と爽はすぐに理解した。
「爽、これって」
「そうだな。俺たちの高校の近くのやつだ」
主時も爽も高校にはお互い以外にも仲のいい人はいる。その人たちにこのファミレスに連れてかれた経験はそれなりにある。
「そうだ。だから2人にだけ頼もうと思ったんだが、別に人数多くて困ることでもないからな」
そのまま映像の続きを見ていると、店内に見覚えのある人が入ってきた。白髪でありとあらゆるところにピアスをつけている少年。先ほど戦った少年だ。
「あ、こいつ」
「さっき2人が戦ってた人だよね?」
「うん。そうだと思う」
「え?みんな知ってるの?」
「実は…」
驚いている創生と秋弥に、爽が説明した。
「そういうことだったんだ。だったら、話は早いかな」
そのように言われて映像の続きを見ると、少年は席に座ると、手で印を結び始めた。そして、その数秒後、突然天井を大きな何かが突き破って落下し、そこで映像が止まった。その大きな何かの正体。詳しいことはわからないが、これを見た全員が同じ結論に至った。
「最後の、多分神獣だよな」
「あぁ、間違いないと思うよ。それにしても印を結んで召喚か…古い文献に書いてあったから知識としては知ってたけど、実際に使ってる人がいるとはね」
「でも、防犯カメラに写ってるということは岩戸隠れはしていないはずだ。なのにニュースになっていない」
岩戸隠れ。神獣たちがその姿を隠す方法だ。自身のいる空間を同じ光景で上書きし、自身のいない人間からすればごく普通の光景へと変えることができる。異能使いのみがその違和感に気付くことができ、岩戸狩りという上書きされた空間を砕く技で真実を公開させることができる。
岩戸隠れは防犯カメラも誤魔化すことができる。だが、今回は防犯カメラには映っているので岩戸隠れは使っていないことになる。だが、だとしたらこれほどの被害、ニュースになっているはずだ。
「俺たちが下校するとき、これの前通るけどなんもおかしなところなかったよな?」
「あぁ、天井が壊れているとか、岩戸隠れの気配を感じるとか、そういうのは一切なかった」
主時も爽も、何の違和感を感じず、毎日このファミレスの前を通っていた。
「だよね。だから不思議に思って、僕と創生で調べに行ったんだ。こういうのは僕たちの十八番だからね」
秋弥の言う通り、2人とも情報収集に優れた異能を持っている。なので率先して情報を取りに行くのはわかるのだが…
「やっぱり創生連れてったか…」
「本人は嫌がっていたけど、そうしないと僕異能使えないからね…」
「死ぬかと思ったぞ…」
創生は極端に外に出るのを嫌っている。登校するのが嫌で高校を通信制にしているほどだ。しかし、この二人は創生が異能管理人で、秋弥が拝受者。創生がいないと秋弥は異能が使えない。何とかして引っ張り出したのだろう。
「それで、いろいろと調べてたらバックヤードにこんなのが落ちててね」
そういって秋弥が見せてきたのは、生徒手帳だった。ところどころ合皮が剥がれ落ちており、年季を感じる。黒山羊中学の生徒手帳のようで、竹中海渡という黒髪の男子の名前と写真が貼られている。
「バックヤードにバイトできないはずの中学生の生徒手帳が落ちてるのはおかしいなと思って創生に調べてもらったんだけど、その子、3年前に病気で死んでるみたい」
「そう。でも、だとしたら1つ不可解なことがあって」
創生はそういいながら防犯カメラの映像を巻き戻し、白髪の少年が入ってくる前で止めた。
「ここ、見てみ」
そういって創生が指さしたところには、先ほどの生徒手帳に張られた証明写真と同じ顔の少年が、ファミレスの外を歩いている様子が映し出されていた。
「これをオカルトで済ませるのは簡単だけど、幸か不幸か、俺たちはオカルトの原理を証明する手段を持っているから。少し調べる必要があると思って連絡した」
「なるほど。わかった。何かあったらまた連絡してくれ」
主時はそういいながら右手でグッドマークを作り、それを突き出した。




