重さの9割
「くそっ、逃げられたか…」
主時は少し悔しそうな顔をしながら刀を鞘にしまった。そしてその数秒後、刀は光の粒子となり消えた。
「才賀、ありがとな。助かった」
そういいながら主時が振り返ると、爽の刀と才賀のレイピアも光の粒子となって消えていった。
「2人とも、戦闘力は高いけど長期戦に極端に弱いんだから。気を付けてね~」
本当に気を付けてほしいと思っているのか怪しい、少々いたずらっ子ぽい声だ。しかし、少なかれ本当に心配しているのは事実である。
「てか、この鳥かごにさっきの銃声ってことは、相棒さんもいるのか?」
「あ、うん。いるよ。多分そろそろ来るかな…」
などと噂をしていると、公園の入り口のほうから、アタッシュケースを重そうにしながら持った、黒髪の女性がいた。
「ちょうど来た」
「なぁ、まさかとは思うけどまだあのアタッシュケース使ってるのか?」
「うん、新しいの買えばとは言ってるんだけど…」
爽と才賀は、顔を見合わせた後、頭を抱えた。そんな2人を置いて主時は黒髪のッ女性のところまで駆け寄った。
「重いだろ。持つぞ」
そういって返事を待たずにアタッシュケースを取った。
「あ…」
「お前は人に頼ることを覚えろ。目白」
「主時にだけは言われたくないなぁ」
夜霧目白は、そういいながら笑った。正確には、口元だけが笑った。目が一切笑っていない。主時、爽、才賀、目白は全員、中3の同級生だ。1年間教室という箱庭の中で過ごした者同士、お互いのことはそれなりに理解しているが、誰も目白の心からの笑顔を見たことがない。何なら最初のほうは口すら笑っていなかった。そう考えると、多少はマシになったほうなのだろうか。
「なぁ、さっきすげぇ大きな音しなかったか?」
「したした。なんか銃声みたいなさぁ」
突然、目白が来たのとは別の公園の入り口から話し声が聞こえてきた。その声は少しずつ近づいていく。戦う際に少々音を出しすぎたようだ。
「やっべ逃げるぞ。おーい、2人ともー!」
「わかってる。逃げるぞ」
主時は少し離れたところにいる爽と才賀に声をかけて、4人で急いで公園を後にした。
いつもならこのまま解散なのだが、今回はそういうわけにもいかない。4人は、ハンバーガーチェーン店に向かい、そこで話し合っている。
「それで、あの死神女って何者なの?」
「俺たちもわからない。名前も、目的も、何なら顔すらわかんない。ただ、実力は確かだった」
「精神力も結構強いぞ。爽の顔と声聞いて少しも動揺がなかった」
「え?嘘。あのイケメンフェイスと口説き特化の声を初めて聞いて?」
「お前ら俺のことをプロのナンパ師かなんかだと思ってるのか?」
爽は呆れているが、実際彼は高校ではかなりモテている。仲がいいからという理由で、主時には定期的にクラスの女子から声を掛けられるので、特に主時は爽がモテるという事実を実感している。
「それはいったん置いといて、あの死神女と関係あるのかは知らないが、そいつが来る直前に戦っていた神獣が極端に弱かった」
爽は話をそらすように言った。
「弱かったってどんぐらい?」
「俺と主時、どちらか片方だけでも完封できる程度には。多分才賀でも完封できたと思う」
「ボクでも?流石にないんじゃないかな?だって、2人とも短期決戦っていう点においては最強だし」
「だとしても流石にソロ討伐が余裕綽々とはいかない…なぁ、目白聞いてるか?」
爽は、3人が会話している中ずっと無言でハンバーガーを食べている目白に声を掛けた。
「うん。聞いてふ」
目白は、ハンバーガーを食べながら答えた。
「ならいいや」
「あ、いいんだ」
「とにかく、何か確実に良くないことが起こる気がする。他の奴らには俺のほうから連絡しとく。とりあえずもう外も暗くなってきたし解散するか」
そういわれて外を見てみると、あたりを照らしているのが太陽ではなく、車のライトや街頭といった人工的なものに変わっていた。
「それじゃ、今日は解散ってことで。またしばらくしたら今度は全員集合して話し合うことになるかもしれないからそのつもりで。バイバーイ」
才賀の発言の後、4人はそれぞれの自宅のほうへと向かった。
「それにしても、今日はありがとな。おかげで助かったわ」
主時は帰り道、同じ方向に家のある目白に改めて感謝を伝えた。
「大丈夫。私はただ引き金を引いただけだから」
「けど、あの重いアタッシュケース、そろそろ買い換えないのか?」
彼女が両手で持っているアタッシュケースはかなり重い。中には組み立て式のスナイパーライフルが入っているのだが、あの重さの9割はスナイパーライフルではなくアタッシュケース自体の重さだ。一体なぜあんなに重いのかも疑問だが、それをずっと使い続けるのはもっと疑問だ。
「まだ、このままでいいかな?」
「そうか。ならいいけど…」
そんな会話をしながら歩いている帰り道。夜の住宅街の中は想像よりも静かで、人通りが少ない。これでも一応、日本の首都東京の中心、新宿区なのだが。
しかし、どうやらその静かさはいとも簡単に崩れてしまうようだ。
「君たち、異能使いだね?」
突然2人の目の前に現れたのは、白髪で耳、鼻、口、ありとあらゆるところにポ明日をした中学生くらいの少年だ。
「そうだ。異能について知ってるってことは、大抵ロクな奴じゃないからあんまり関わりたくないんだが…」
「ロクでもない奴?君たちにだけは言われたくないね」
そういいながら少年はポケットからナイフを取り出した。どうやら戦う気のようだ。
「できれば話し合いで何とかしたいけど、この流れでまともに話し合えたところ見たことないからな…やるしかないか」




