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第7話『転校生・織川律さんによる監禁②』

「びっくりしちゃった。転校生さんが坂木くんと知り合いだったなんて。でも、そんなに特別に仲がよかったわけじゃないんだ?」


 和原さんの口調は殊更に平坦なものだったが、『特別に』の箇所だけ若干の強調があったように感じた。


「うん。よくある子供の付き合い程度で、変に邪推されるような関係じゃないよ」

「そっか。よかったぁ」


 ほっ、と。

 分かりやすい仕草で胸を撫でおろし、和原さんは教室へと戻っていった。

 一連の様子を見ていた嵯峨野は再び深刻な顔となって、


「なあ坂木……まさかお前、和原さんと付き合ってるのか?」

「はは。そんなわけないだろう?」

「惚けるな。今の『よかった』は間違いなくこう……アレだろ? お前と織川さんが特別な関係じゃなくて安心したって感じの……」

「嵯峨野。なんでもかんでも逐一そういう発想に繋げてしまうのは僕らモテない男子のよくない癖だ」


 僕は臆さず堂々と詐欺師のように語る。


「話はもっと単純だよ。転校早々に周りから変な噂を立てられたら織川さんが可哀そうだろう? でも、そうなる心配はなさそうで『よかった』っていうことじゃないかな?」

「む」

「和原さんは誰にでも優しいから。そこまで気を遣ってくれたんだよ」


 僕の弁明を聞き終えた嵯峨野は納得したように頷いた。


「確かにそうだな。よくよく考えたら、お前なんかと和原さんが釣り合うとも思えん」

「はは、事実だけど手厳しいな」


 和原さんは決して派手に目立つタイプではないが、いわゆる小動物系の愛くるしい見た目をしている。表向きは生真面目で優しい保健委員というイメージなので、男子人気も相応に高い。表向きは。


「まあ、織川さんとも和原さんとも何もないってのは分かったが……それにしたって羨ましいは羨ましいな。いきなり転校してきた美少女に『あのときの!』って名指しされるなんて、それだけで一生メシが食えるくらいの思い出だろ。ラブコメの王道だぞ」

「別にそんなことないよ。実際は『こんなこともあるんだ』くらいのものだって」

「んなわけあるかこの贅沢者が」


 冗談交じりの軽く肩を小突かれていると、廊下の向こうから勢いよく走ってくる人影があった。


「おーい! ()ーちゃーん!」


 いかにも活発そうなよく日焼けした少女が、元気一杯にぶんぶんと手をこちらに振っている。


「おう。どうした」


 それに落ち着いて答えたのは嵯峨野だ。


「ほら! 弁当忘れてたから持ってきてあげたの!」

「お、サンキュ」

「お礼に週末の買い物、荷物持ちで付き合ってね!」

「えぇヤダよ。お前、重いものばっかり持たせてくるじゃん」

「そのための荷物持ちだも~ん! じゃ!」


 びゅんっ、と日焼けした少女は猛スピードで去っていく。

 嵯峨野は受け取った弁当を小脇に挟みつつ、やれやれといった表情をしている。


「ねえ嵯峨野」

「おう?」

「僕らって一年生だよね。なのに兄妹ってことは、あの子は双子の妹さん?」

「いや。いろいろあって去年から一緒に暮らしてる義理の妹」


 平然とこともなげに言う嵯峨野。


「聞きようによっては、それこそ羨ましがられそうなシチュエーションに思えるけど」

「何言ってんだ。妹なんて厚かましくてウザいだけだぞ。夢を抱くな夢を」

「そっか」


 僕は穏やかに笑っていろいろと呑み込んだ。

 世の中は広くていろんな人がいる。学校生活には学びが一杯だ。


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― 新着の感想 ―
隣の芝は青い。 ただ、芝ではなく樹海の如き仄暗き深い深い緑の森なのかもしれないが。
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