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第2話『保健委員・和原なごみさんによる窃盗②』

 唐突な自慢になってしまうが、僕はよく女子から好意を寄せられる。

 理由は謎としか言いようがない。恥ずかしながら、僕はこれといった取柄も特徴もない平々凡々な人間で、特別な魅力などはまったく持ち合わせていないのだ。


 もちろん好かれること自体は嬉しいし、この凡百の身に余る光栄だと思う。

 ただ一つの問題は――なぜかヤバい女子にばかり好かれてしまうということである。


 一例として昔話をしよう。僕が五歳のころ、ご近所に同い年くらいの女児が住んでいた。本名はもう覚えていないが『りっちゃん』と呼んで一緒によく遊んでいた。


 ある日その『りっちゃん』に首輪を嵌められて、犬小屋に繋がれてしまったことがある。

 ぼんやりした子供だった僕は「りっちゃんはこういう遊びが好きなんだなあ」と素直に受け容れていたのだが、半日もしないうちに互いの親に知れて大騒ぎになった。


 友達に対する悪質な意地悪ということで『りっちゃん』は大目玉を喰らったそうなのだが、あれは意地悪ではなく純粋な彼女の趣味だったと思っている。なぜなら犬ムーブをする僕を見て、心から幸せそうに微笑んでいたからだ。


 また別の例も挙げよう。

 僕が小学四年生のころ。「私っ、冬休みに転校しちゃうのっ。だからっ。最後の思い出にこれっ。食べてっ!」と、髪の毛ぎっしりの呪詛じみたクッキーを渡してきた本庄さんという女子がいた。

 見知らぬ地へ旅立つ級友のためと思い、当時の僕はさほど抵抗なく食べた。丸呑みしては失礼と思い、よく咀嚼して味わって食べた。本庄さんは目を潤ませて喜んでくれた。


 そして冬休みが明けても、本庄さんは別に転校などしていなかった。しれっとした顔で教室にいた。


 相変わらず僕はぼんやりした子供だったので「まあいいか」と思って、その後も変わらずに級友として過ごした。それから卒業して互いに別の中学に行くまで、本庄さんは定期的に呪詛的なお菓子をくれた。


 まだまだ例はたくさんあるのだが、いちいち挙げていくとキリがない。年平均で十回くらいこんな事件があったと思って欲しい。

 不幸中の幸いというべきは、僕の「ヤバい子を惹き付ける体質」が同年代にしか作用しないということである(経験則による推定)。

 おかげで小学生までは子供同士の些細なトラブルということで片付いたし、成人済変態お姉さんに攫われるようなこともなかった。


 そう――小学生までは。


 普通に考えたら分かる。中学生以降はそう穏便にいかないと。

 責任能力も芽生えてきた年頃の男女間でアブノーマル性癖トラブルが起きてしまえば、それはもう『子供の些細なトラブル』では済まない。少なからず事件性を帯びる。

 だが、僕は馬鹿だった。中学生になって背丈がほどほどに伸びても、中身は相変わらずぼんやりした子供のままだった。

 

 そんな僕の無自覚のせいで――中学三年の夏、取り返しのつかない事件が起きてしまった。


 その日、水泳の授業中に僕のパンツが盗まれていた。

 正直、大して気にもしなかった。比較的よくあることだから予備は複数枚常備していたし、普通に履き替えてそのままスルーして過ごすつもりだった。


 しかしその日の放課後、僕は職員室に呼び出された。

 別のクラスの名も知らない女子が「坂木くんの下着を盗みました」と自供したという。彼女は不慣れな犯行ゆえ、盗み取ったトランクスを友人に見つかってしまい、「どうして男物のパンツを?」なんて詮索に慌て、すべてを洗いざらい吐いてしまったらしい。


 僕は「気にしていないから許してあげて欲しい」と主張した。

 だが、もう遅かった。彼女はそれから二度と学校に戻って来ることはなかった。

 その後――僕の家の郵便受けに入っていた匿名の手紙には、こう綴られていた。


『道を踏み外してしまいましたが後悔はありません。あの日あなたの荷物を漁ったとき、予備の下着がたくさん用意してあるのを見て、『好きに持って行っていいんだよ』と背中を押してもらえたように感じました。やっぱり坂木くんはわたしのことを理解ってくれていたんですね。それだけで満足です』


 それを読んだとき、僕は自分の事なかれ主義な対応をひどく悔やんだ。

 確かに僕は彼女たちの異常性をある程度分かっていた。理解していた。それでいて、よくあることだと割り切ってしまっていた。

 それではいけなかったのだ。彼女たちの奇行は世間的に許容されるものではない。そんなものに軽々と理解を示してはならなかった。結果、一人の名も知らぬ少女を奈落の底へと転落させてしまった。


 だから僕は決めたのだ。

 決してこれからは彼女らに『理解者』などという希望は与えまいと。

 決してその本性と向き合わず、冷酷に目を背け続けようと。

 もちろん本当は分かっている。今回の検尿窃盗事件だって、実際はほぼ間違いなく和原なごみさんが犯人なのだろう。


 あれだけ周到に『現場は密室で誰も立ち入れなかった』とアピールしていたのは「犯行チャンスがあったのは最後に施錠した私だけです」という強烈な匂わせに他ならない。というかそもそも普通に体液とか浸透圧とか言動がおかしい。なんなら胸ポケットからちょっと検尿容器の蓋が見えていた。


 それでも僕はひたすら鈍感に徹しよう。

 高校生活では今度こそ、周りの女子を社会からドロップアウトさせることのないように。



読んでくださってありがとうございます!

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