3-2 入学初日からいろいろあります
読んでいただきありがとうございます。
春の陽光のきらめく学園の門。
たくさんの生徒たちの輪ができている。
その中心から歩いてくる人がいる。
「シャル!
まるで馬車から女神が降りてきたのかと思ったよ。
君は何を着ても美しいね。
制服姿も似合っているよ。」
馬車から学園に降り立った途端、アル様の声が聞こえてきて足が止まってしまった。
「あ、ありがとうございます。
王太子殿下。」
大勢の人の前で話しかけられ、公私の場をわきまえなければとそう呼んでみる。
「いつものように呼んでほしいな。
シャル。」
「・・・アル様、おはようございます。」
みんなの前で恥ずかしすぎて声が小さくなってしまう。
「シャル、入学おめでとう。
教室まで私が案内するよ。
行こう。」
ざわざわとした人込みが波をひくように分かれていく。
嫉妬と好奇の視線が向けられる。
ドキドキしてくる。
この途中で教室が分からずに迷っているヒロインとアルが出会い、案内する場面があるはず。
でも、ゲームと違って私が一緒でも大丈夫かな?
なんか心の奥がざわざわとしている。
なんでだろう?
「ここがシャルの教室だよ。
お昼にまた誘いに来るね。」
周りのざわめきが一気に大きくなった。
「いえ。
アル様にご足労かけるわけにはまいりませんので、私一般の食堂で…」
最後まで言えないうちに声がかぶせられる。
「仕方ない。
それならレオンハルトに呼びに行かせるよ。
それならいいだろう?」
「分かりました。
それではお昼に。」
アル様と別れ、私は自分の教室の扉を開く。
一斉に向けられた鋭い視線。
敵意むき出しの表情の令嬢、令息もいる。
まるで時が止まったかのよう。
教室には私の靴音だけが響いている。
どうしたんだろう?
不思議に思いながら一番後ろの窓際の席に移動した。
隣の席にいた令嬢がおもむろに席を立ち、前の方の席に移動した。
地味に傷つく。
椅子に座った途端、すぐに再開されるひそひそ声。
「王太子殿下の婚約者のローゼンベルク公爵令嬢って傲慢なんでしょう?」
「私もそう聞いたわ。
近づきたくないわね。」
そうか。
悪役令嬢は嫌われているんだ。
社交界デビュー前だから小さい頃の評判がそのままなんだ。
破滅フラグをへし折るために頑張ってきたのに、悲しくなる。
でも、負けていられないわ。
マイナスからのスタートだけどプラスにしていけばいいだけだもの。
「そんな人が未来の王妃なんて嫌だよな。」
「本当ね。
やっぱり王太子殿下の婚約者はマーガレット様の方がふさわしいわ。」
会話の聞こえた方を視線を向ければ、微笑みあうひときわ大きな集団。
その真ん中に目を引く金髪の綺麗な令嬢の姿。
入学早々、クラスの中は敵ばかり。
ヒロインだけでも大変なのに、先が思いやられる。
あれ?
そういえば、ヒロインとの出会いイベント起きてないよね。
私が離れてから出会っているのかな。
もしかしたら、もう・・・
おかしいな?
なんか、寂しいような。
考えるのは止めよう。
お昼になり、約束通りレオンが教室に迎えに来た。
「キャー。
レオンハルト様よ。」
「いつ見ても素敵ね。
誰のところにいらしたのかしら?」
騎士団に所属し、王太子殿下の側近でもある彼はみんなにも人気らしい。
「え~
シャルロット様のところよ。」
「王太子殿下の婚約者なのに。」
「どうしてあの方ばかり?」
またしても、余計な嫉妬を受けている。
これ以上の冷たい視線に耐え切れずレオンの少し後ろを無言で歩く。
足早に黙ってついていくと、アル様の待つ特別な個室に案内された。
緊張はするが、人の目がなくなりようやく息をつける。
「そういえば、この前はおいしいクッキーありがとうな。
母上からいただいたんだけど、シャルの手作りなんだってな。
すごくおいしかったぞ。
俺は、クルミの入った方が好みだな。」
「!」
アル様のレオンに向けられた視線が一瞬鋭くなる。
「そうなの?気に入っていただけて光栄だわ。また、作って持っていくわね。」
私は、あれからマリーおばさまとの交流を続けている。
レオンのお父様との関係もよくなり、マリーおばさまもすっかり元気になられた。
なんと、あれからレオンに年の離れた妹が生まれた。
この妹がまたかわいい。
一人でそんなことを考えていたからか、アル様がすぐ近くに来ていることに気づかなかった。
「どういうことかな?
婚約者の私はまだ一度も君の手作りのものを食べていないんだけどね。」
目で何かを訴えてきている。
本能的に危険を感じた。
まずい。
「あ。それでしたら次回のお茶会の際には、何かアル様のお好きなおやつをお持ちします。」
「では、それについては昼食をいただきながら、じっくり話そうか。
シャル、おいで。こっちだよ。」
有無を言わさぬ雰囲気で、隣の席に座らされてしまった。
隣の席である。
今まで対面だったのに。
なんか近すぎて恥ずかしい。
昼食はおいしかったはずなのに、味がよく分からなかった。




