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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第94話 抱いた温もり、まだ消えず



 光がふっと収束し、静寂が聖域広場を満たす。


 黒の回廊から転移して来た四組の男女は、転移に伴う魔力酔いがおさまると、何度か夢から醒めたように瞬きを繰り返した。


 そして……自分たちの状態にあらためて気づく。もちろん全員が転移前のお姫様抱っこのまま固まっていた。


「…………あっ」


 最初に声を漏らしたのは冴月だった。


 クラウの胸の中……その逞しい腕に支えられ、頬が彼の胸元に触れていることに気づいた瞬間、王子様然とした冴月の顔が、一気に真っ赤に染まった。


 普段はどれほどの強敵を前にしても眉ひとつ動かさない彼女が、今だけは完全に動揺していた。


「す、すまない……クラウ殿……お、おりる……っ! このままでは……っ」


 冴月にしては珍しいほどの狼狽をみせ、声が震えている。


 クラウもまた、ここで冴月達に会うまでは、女性免疫ゼロ……そして、これぞ騎士を地でいく青年である。


「はっ!? も、申し訳ございません……冴月様!!」


 クラウは慌てて姿勢を正し、驚くほど丁寧に、まるで壊れ物を扱うような慎重さで冴月を支えなおした。


 その手つきはぎこちないのに、どこまでも誠実で、どこまでも優しい。


「す、すぐに……すぐにお降ろしますので……っ」


 耳まで真っ赤に染めながら、クラウは震える腕で冴月をゆっくりと地面へ降ろす。


 冴月は降り立った瞬間、胸元を押さえ、息を整えようとした。だけど……クラウの腕の温もりが残っているのか、その頬はまだ赤く、視線もどこか泳いでいた。


「……す、すまない……助かった……」


 冴月は必死に平静を装うが、声の端がわずかに震えている。


 クラウもまた、冴月を直視できず、視線を逸らしたまま深く頭を下げた。


「い、いえ……冴月様をお守りするのは……わ、私の……その……騎士として当然……でして……」


 言葉が途中で詰まり、クラウの耳はさらに赤くなり、周囲の空気が、ほんの一瞬だけ甘く揺れた。


 その横では、うたたがストレイの胸元に頬を寄せたまま、まるで甘い毒を含んだような声で囁いていた。


「ねぇ……いまから貴方のこと、ダーリンって呼んでいい……? ……それとね……あたし、このままがいいの……」


 その声音は、耳元で溶けるように甘く、ストレイの理性を容赦なく削っていく。


「だ、ダーリン……っ!? い、いえ、その……っ!」


 ストレイの声は裏返り、抱えている腕がびくりと震えた。


 うたたはその震えすら嬉しそうに受け止め、胸元にさらにぎゅっと頬を押しつける。


「だって……こんなにも近いの、幸せじゃない……? ねぇ、降りたくないの……ダーリンの腕、あったかいんだもん……」


 その言葉は、完全に落としにきている。しかも無自覚ではなく、確信犯の甘えかただった。


「よ、よくありません!! よくありませんから!!」


 ストレイは必死に声を張り上げるが、耳まで真っ赤で説得力が皆無だった。


「えぇ……? そんなに嫌……?」


 うたたが潤んだ瞳で見上げる。


「ち、違います!! 嫌とかじゃなくて……っ! こ、こういうのは……っ、その……っ」


 ストレイの言葉は完全に迷子だった。女性免疫ゼロのインテリ青年には、うたたの愛激重スキルは強すぎる。


「……じゃあ、降ろすの……?」


 うたたが、わざとらしく寂しげに呟くその仕草と声に、ストレイの心臓が何度目かわからないほど、大きく跳ねた。


「う……っ……そ、そっと……降ろします……っ!」


 覚悟を決めたように、ストレイは震える手でうたたをゆっくりと地面へ降ろした。しかし、うたたは降りた瞬間、名残惜しそうにストレイの服の裾をつまんだ。


「……ほんとは、もっと抱っこされてたかったのに……」


 その一言で、ストレイの顔は再び真っ赤に染まる。なお、手が震えているのは、転送のせいだけではなかった。


 その横には、この中で唯一の女二人のペア……紫乃と斗花がいた。


 斗花の腕の中で、転移が終わったのを気づいた瞬間、紫乃のその凛とした表情がわずかに揺れた。


「斗花……離しなさい。わたくしは、自分の足で立てますわ」


 声はいつも通りの気高さだったが、頬がほんのり赤くなっていた。


「いやお前、さっきまでぎゅーっとしがみついてただろ」


 斗花は苦笑しながらも、腕の力を緩める気配がない。


「ぎゅ、ぎゅーっとって……し、しがみついてなど……っ あれは状況が……その……」


 紫乃は珍しく言葉を詰まらせ、斗花の胸元に触れていた指先を慌てて引っ込めたが、その仕草は、妙に艶があった。


「はいはい、降ろすよ……暴れんなって。落としたくねぇんだから」


 斗花はぶっきらぼうに言いながらも、その手つきは驚くほど優しい。まるで宝物を扱うように、紫乃の身体をそっと支え、ゆっくりと地面へ立たせる。


 紫乃は降り立った瞬間、斗花の腕の温もりが離れたことに気づき、ほんの一瞬だけ寂しげにまつ毛を伏せた。


「……ありがとう、斗花。あなたの腕……思ったより、安心できましたわ」


 その言葉に、斗花の耳がかすかに赤くなる。


「そ、そうかよ……なら、また必要になったら言えよ……いくらでも抱えてやるからさ」


 その男前すぎる台詞に、紫乃は胸元を押さえ、わずかに微笑んだ。


「……ふふ。頼りにしていますわ、斗花」


 女同士なのに、女同士だからか、どこか甘くて、とても距離が近くて、周囲が思わず息を呑むほどの空気が流れた。


 そして最後に……夜々だけは、フェルマを降ろさなかった。


 他の三組がそれぞれ抱っこを解いていく中、夜々はひとり、膝をついて腕の中の青年をそっと抱え直した。


 フェルマは完全に白目を剥き、ぐったりと夜々の胸元に身を預けている。


 その姿は情けないはずなのに、夜々の腕の中では、どこか守られるべき存在に見えた。


「……夜々、その……降ろさなくて大丈夫ですか?」


 紫乃が戸惑い気味に声をかける。夜々は一度だけ、小さく首を振った。


「いえ。フェルマ様はまだ意識が戻っておりません。それに……」


 彼女は腕の中の青年を見つめた。その視線は、寡黙な彼女には珍しいほど柔らかい。


 そして……落とさぬよう、傷つけぬよう、まるで宝物を抱くように、さらに抱き寄せた。


「このままの方が……私も動きやすいので」


 淡々とした声。だけど、その抱き方は驚くほど丁寧で優しい。


 フェルマは当然返事などできず、白目のまま、かすかに喉を鳴らしただけだった。


「……ひゅ……ぅ……」


 その力のない音に、夜々はほんの少しだけ眉を下げる。そこには、普段の冷静な忍びの顔ではなく……大切な人を気遣う、静かな優しさがあった。


「大丈夫です、フェルマ様。しばらく……このままお預かりします」


 夜々はゆっくりと立ち上がる。


 その腕の中で意識もなく身を預ける青年は、夜々の胸元にそっと顔を埋めたまま揺れていた。夜々は、今いちど壊れ物のように大切に抱え直した。まるで、彼女だけが触れていい存在であるかのように。


 そしてフェルマを除く七人はようやく周囲を見渡し、次の瞬間……全員の動きが止まった。



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