表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/122

第77話 その出会いは、理想を揺るがす



 ユグドラシルの方角から立ち昇る、神々しさと禍々しさが混ざりあったような異様な光の奔流。


 それは、ただの魔力の揺らぎではなかった。空間が軋み、大地が微かに唸り、空気がざわめき、聖域そのものが異音を上げている。


 この場所を最もよく知る六人の女性たち……四戒仙、そしてルーセントとレインもまた、その異変を確かに感じ取っていた。


 京華の掌に集っていた雷光が、まるで何かに怯えるように音もなく消えた。彼女は眉をひそめ、空を仰ぎ見たまま、低く息を呑む。


「……あの光……あれは、ただの魔力じゃない。天が、怒ってる……」


 久遠の影が、足元から静かに地へと沈んでいく。彼女は目を細め、鋭い視線を光の奔流へと向けた。


「地脈が……逆流している。これは、ただの異変じゃない。何かが、目を覚ました」


 和久の霧が、風に溶けるように薄れていく。その尾がふるふると震え、彼女は胸元を押さえながら、か細く呟いた。


「聖域が……泣いてる。こんなに冷たい風、初めて……」


 レインは、指先で描いていた魔術式の軌跡を止め、静かに目を伏せた。その瞳の奥に、わずかなかげりが差す。


「……やはり。あの時の兆しは、偶然などではなかった。これは、計画の先にある何か……想定を超えた、因果のうねりだ」


 ルーセントは、宙に掲げかけた拳を止めたまま、じっと光の奔流を見つめていた。


 その瞳に宿るのは、驚愕でも恐怖でもない。ただ、静かな覚悟と、確かな決意。


 その異変に、男たちもまた動きを止めていた。バルドはユグドラシルの上空を見上げ、数珠を強く握りしめる。カゲトラは刀を静かに納め、深く息を吐いた。リュカは、リュートの弦にかけていた指をそっと離し、胸元で手を組む。


 誰もが、言葉を失っていた。世界の何かが変わろうとしている、その事だけはなんとなく感じられた。


 戦いの場に、再び静寂が訪れ、ルーセントが一歩、前に出た。金色の髪が風に揺れ、彼女の瞳がまっすぐに三人を見据える。


「……ゼロの命令は絶対。そして、ここまで敵対心を見せぬということは」


 彼女は一拍、言葉を置いた。


「話し合いができる、ということだな」


 リュカは思わず口を開きかけたが、すぐに飲み込んだ。


(いや、そっちが一方的に襲ってきただけなんだけどな……)


 心の中でだけ、そっとツッコミを入れる。


「時間がない」


 ルーセントの声が、静かに、しかし確かに響く。


「何故ここにいるかは、不問とする。我らとともに来てくれ」


 その言葉に、三人は顔を見合わせた。拒む理由は、なかった。むしろ、あの光の奔流を前にしては、選択肢など存在しない。


 ルーセントが、ユグドラシルの方角へと視線を向ける。その瞳に映るのは、空を裂くように立ち昇る、白銀の光柱。


「……下手をすれば、このエリアそのものが、消滅するかもしれない」


 その一言に、リュカは息を呑み、バルドは目を見開き、カゲトラは無言で拳を握りしめた。


 四戒仙もまた、すでにその危険性を察していたようで、誰一人として言葉を発しなかった。ただ、静かに、ユクドラシル上空を見つめていた。


 聖域に向かって、九つの影が駆ける。


 白銀の光が空を裂き、地脈の震えが足元を揺らす中、彼らは無言のまま、しかし確かな足取りで進んでいた。


 やがて、聖域まであとわずかなところで、ルーセントが手を上げて全員の足を止めさせた。そして白銀の光が空を裂く中、レインがぽつりと口を開く。


「……せっかくだし、名前くらいは知っておきたい。いきなり共闘ってのも、ちょっと不思議な感じだし」


 その言葉に、場に一瞬の沈黙が落ちた。誰もが、互いの顔をちらりと見合う。しかし、誰も最初の一言を口にしようとはしなかった。


 その空気を、よしとしなかったのか、カゲトラが一歩前へ出る。 


「では、拙者から参ろう、某の名はカゲトラ。無冠の灯の前衛にして、侍。……女人を傷つけぬこと、拙者の誓いにて候。刃を振るうは、護るためのみにて……それが拙者の道理にござる」


 その言葉に、四戒仙の瞳がふと揺れた。


「バルドと申す。拙僧は、祈りと拳をもって道を開く者。……争いは好まぬが、守るべきもののためならば、立ち上がる覚悟はある」


 静かで、温かな声音。その巨体からは想像もつかぬほど、柔らかく包み込むような気配が広がる。


「リュカ。風詠みの楽士で斥候、吟遊斥候ってとこかな。音で風を操るのが得意。あと、あなたたちとは……仲良くできたらなって……なんてな」


 軽やかな笑みと、どこか照れたような視線。その言葉に、和久が思わず目を瞬かせた。


 彼女たちは、初めて彼らをまじまじと見つめた。戦闘の緊張とユグドラシルの異変に気を取られていたが、今になってようやく、目の前の三人が自分たちとは異なる存在であることに気づいたのだ。


 銀狼の耳を揺らす京華が、ふと眉をひそめる。


「……あれ? なんか……違う?」


 義那がじっとリュカを見つめ、狐耳をぴくりと動かす。


「この感じ……噂に聞いていた白印様とは、違う……?」


 久遠の金の瞳が、バルドを見据える。その視線に、いつもの冷徹さはなかった。


「まさか……これが……男……という生き物?」


 和久がぽつりと呟く。その声には、戸惑いと、どこか隠しきれない不思議な熱が混じっていた。


 彼女たちは、造られた存在。戦うために生まれ、育てられた。白印と呼ばれる、か弱く儚い存在としての男性しか知らず、それも噂だけで実際に見たことはなかった。そして、かつての男という存在を、彼女たちはまるで知らない。


 そして今、目の前にいる三人は、聞いていたそのどれとも違っていた。


 鋭く、優しく、強く、そして……どこか懐かしい。


 胸の奥が、ざわつく。鼓動が、知らず高鳴る。理由はわからない。ただ、彼らを目にするだけで確かに、何かが揺れていた。


 京華が、そっと胸元を押さえる。義那が、視線を逸らす。久遠が、眉をひそめる。和久が、そっと尾を揺らす。


 レインとルーセントは、四戒仙たちの変化に気づいていた。


 そして、それ以上に……彼女たち自身もまた、心の奥底で、言葉にできぬ衝撃に囚われていた。


(……なぜ、私は……)


(この胸のざわめきは、何だ……?)


 彼女たちは、完璧な戦術個体として造られた存在。美麗の意志を、深層意識にまで刷り込まれた、彼女の影であり器である。


 その美麗の究極の野望……それは、かつて存在した真なる男の復権。白印ではない、ただ守られるだけの存在ではない、かつて世界を導いた漢の再来。


 そのために、美麗は白銀坂 雪を聖域に導き、地脈を操り、超人の誕生を目論んだ……だというのに。


(……完成している……)


 ルーセントの瞳が、カゲトラを見つめる。その佇まい、気配、言葉の重み。そして、バルドの静かな強さ、リュカの軽やかさの奥にある芯の強さ。


(この三人……まさか、既に……)


 レインの思考が、わずかに乱れる。念伝でエコーや美麗に報告すべきだと、頭では理解していた。なのに、頭が働かず、言葉が、浮かばない。


(……なぜ、私は……この感情を、言葉にできない……?)


 彼女たちは、戦場で動揺することなどなかった。どれほどの敵を前にしても、冷静に、正確に、任務を遂行してきた。


 なのに今、目の前に立つ三人の男たちは……その存在だけで、彼女たちの生きている証を揺るがせていた。


 美麗が求めた理想の男の姿。それが、ここにある。


 白銀坂 雪の異変よりも、ある意味で衝撃的な事実が、静かに、確かに、彼女たちの中に刻まれていた。

 

 三人の名乗りが終わった瞬間、明らかに、今までとは違う空気が流れた。


 つい先ほどまで、彼らに向けられていたのは、警戒と敵意、そして猜疑の眼差しだった。それがいま……その視線には、なぜか微かな熱が宿っていた。


 まるで、戦場の緊張が一瞬だけほどけ、別の意味でのざわめきが生まれたかのように。しかし、当の三人には、その変化の意味がまるでわからなかった。


 リュカは、首をかしげながらも、どこか落ち着かない様子でリュートの弦を指で弾いている。


(……なんか、視線が刺さる……? え、俺、なんか変なこと言ったっけ?)


 カゲトラは、背筋を伸ばしたまま、周囲の空気の変化に気づきつつも、ただ静かに呼吸を整えていた。


(む……なにゆえ、皆の視線が……? 拙者、何か不作法を……?)


 バルドは、数珠を指でなぞりながら、そっと目を伏せる。


(……拙僧の気配が、何か不快を与えたか……? いや、しかし……)


 彼らは、女性に対する免疫がほぼゼロ。唯一、猫獣人の娘とのやり取りで、ほんの少しだけ女性という存在に対する耐性が芽生えたばかり。


 もっとも、その猫獣人の娘たちは、種族特有の気質なのか、朗らかで明るく、裏表のない素直な性格をしていた。


 感情をまっすぐに表現し、敵意も打算もなく、ただ純粋に接してくる彼女たちとの交流は、リュカたちにとって女性というよりも、どこか仲間や友に近い感覚だった。


 だからこそ、彼らはまだ知らない。この世界で、男性が希少で特殊な存在となった今、女性たちが抱える感情や視線の意味を。


 とくに、戦闘特化型として育てられた彼女たちが、初めて異性を意識したときに見せる、あの揺らぎの正体を。


 今、彼らに向けられている視線の熱……それが何を意味するのか、彼らはまだ、知る由もなかった。


 そのため、今向けられている視線の意味、それが、敵意ではなく、戸惑いと興味、そして微かなときめきを含んだものだということに、気づくはずもなかった。


 ただ、胸の奥がざわつく。理由もわからず、鼓動が速くなる。それが何を意味するのか、まだ彼らは知らない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ