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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第76話 刃なき戦い、その果てに



 静寂を切り裂くように、凛とした声が響いた。


「貴公たちは……何故、我が王国の地にいる? いったいどうやって、このエリアに侵入した、と?」


 声の主は、漆黒の軍装をまといしレイン。その声音には、怒気も苛立ちもない。ただ、正当な問いかけと威厳があった。

 

 命令を下すことに慣れきった者の声。それだけで、空気が一段と重くなる。


 三人は、まるで雷に打たれたかのように固まった。


 初めて……人族の女性に、真正面から声をかけられた。しかも、それがこの世の理を体現したような存在からだとあっては、言葉が出るはずもない。


 リュカは口を開こうとしたが、喉がひゅっと鳴っただけで、声にならなかった。バルドは数珠を握りしめたまま、目を伏せ、祈るように沈黙を守る。カゲトラは刀の柄に手を添えたまま、まるで石像のように固まって動けない。


 誰一人として、ルーセントやレインの顔をまともに見ることができなかった。その気配が、あまりにも高貴すぎる故に。


「……なぜ、目を合わせぬ?」


 レインの声が、さらに一段低くなる。その問いは、まるで刃のように鋭く、三人の心を刺した。


「い、いや、ちがっ……」


 リュカが慌てて顔を上げようとするが、視線が自然と逸れてしまう。


 その仕草が、レインには別の意味に映った。


「……ふむ。答えられぬ理由があるということか」


 その瞳が細められ、冷たい光が走る。


「ならば……捕らえて、喋らせるまで」


 レインが指を鳴らした。


「四戒陣、展開。包囲せよ」


 その瞬間、空気が一変した。雷が走り、影が揺れ、霧が舞い、幻がきらめく。


 四戒仙が一斉に動き出し、三人を取り囲むように展開する。


 リュカたちの背に、冷たい汗が伝った。言葉を交わす間もなく、戦の幕が、静かに上がろうとしていた。


 雷が走るたび、空気が震える。バルドの目の前に立つのは、雷狼の力を宿す女性、京華。そして、その隣には、漆黒の軍装をまとった至高のレイン。


「拙僧は……そなた達のような……尊き御方と戦う気はない……」


 そう口にしながらも、バルドの胸は静かに高鳴っていた。京華の雷撃がかすめるたび、肌が焼けるような熱を感じ、レインの冷ややかな視線が触れるたび、背筋が凍りつく。


(な、なぜ拙僧は……このような……神話の世界に出てこられるような御方と……)


 彼女たちの動きは、まるで舞のように美しいのに、一撃で命を奪う力を秘めていた……まともに喰らえばであったが。


 京華が接近するたび、彼女の銀狼の尾がふわりと揺れ、雷の残光が頬をかすめる。

 

 そのたびに、バルドの心臓は、どくん、と跳ねた。


(これは……修行が足りぬ……いや、これは……試練……南無)


 レインが指を鳴らすたび、空気が重くなる。その威圧感に、思わず目を伏せたくなる。しかし、バルドは意識することなく彼女のスキルをレジストして、ただ静かに立ち続けた。



 銀光が閃き、狐火が舞う。


 ルーセントと義那……まさに尊き御方、もしかしたら至高の名にふさわしい、神々しき存在。


(な、なぜ拙者が……このような御方たちと刃を交える羽目に……!?)


 義那の幻術が揺れるたび、空間が歪む。その中をすり抜けるたび、ふわりと香る甘い匂いに、思わず意識が乱れそうになる。


 ルーセントの拳がかすめるたび、空気が焼ける。その熱が頬を撫で、鼓動が跳ね上がる。


(拙者は……女人を何があろうと斬らぬと誓った身……されど、これは……試練……いや、拷問では……?)


 義那の瞳が揺れるたび、狐耳がぴくりと動くたび、心がざわつく。ルーセントの怒気が爆ぜるたび、背筋が粟立つ。


(拙者の心、静かなるがゆえに……惑わされぬ……はず……はず)


 そう己に言い聞かせながらも、カゲトラの耳はほんのり赤く染まっていた。


(まだまだ、修行が足りぬ、拙者まことに無念ながら未熟なり)



 霧の中、音を頼りに移動する度に、久遠の影が伸び、和久の霧が揺れる。


(な、な、なんで俺……こんな麗しき方々と、戦ってるんだ……!?)


 久遠の睨みを目にした瞬間、心臓が大きく跳ねた。あの金の瞳に見つめられると、まるで心の奥を覗かれているようで、思わず視線を逸らしてしまう。


 和久の霧の中、ふわりと彼女の尾が頬をかすめた。その瞬間、リュカの顔は真っ赤に染まる。


(ち、近い! 近いってば! 息、かかってるし!)


 余裕の笑みを浮かべながらも、それは張り付いているだけで内心は大混乱。


 リュートの弦を弾く指が、かなり震えていた。


(ああもう、なんで俺、こんな尊き御方と戦っているんだよおおお……!)


 それでも、旋律を弾くのは止めない。


 風のように、霧の中を舞いながら、彼はただ、心臓の高鳴りをごまかすように、旋律を紡ぎ続けた。


 雷鳴が遠ざかり、狐火が消え、霧が晴れていく。


 戦場は、奇妙な静寂に包まれていた。


 四戒仙とルーセント、レイン……六人の誇り高き戦士たちは、誰一人として倒れていない。とはいえ、勝利の女神は、明らかに彼女たちに微笑んでは、いなかった。


 彼女たちの動きは、すでに鈍っていた。呼吸は乱れ、視線は揺れ、心は焦りに満ちている。


 それでも、男たちは……とどめをさす事がない。


 バルドは、ただ静かに構えを解き、祈るように立ち尽くす。カゲトラは、刀を抜かぬまま、風のように間合いを制し続ける。


 リュカは、軽やかに舞いながらも、決して意識を刈る攻撃を放たない。


(なんで拙僧が……このような尊き御方に、拳を振るわねばならぬのだ……)


(拙者、女人を斬らぬと誓った身……もちろん……当て身などもってのほか)


(いやいやいや、俺、絶対に手出しできないって! 此方から手を出す?……無理無理無理!)


 それぞれの胸に、葛藤が渦巻いていた。戦えば勝てる。だが、勝ちたくない。


 いや、手を出してしまったら、何か大切なものを失ってしまう気がする。


 そんないつ終わるとも解らない行き詰った只中。レインの瞳がわずかに揺れた。


「…………!」


 彼女の意識に、鋭く、そして静かに入り込む声があった。


『コード・レイン、緊急念伝。こちら、コード・エコー……戦闘中であることは心得ている』


 その声は、音もなく、確かに届いた。


 エコーの念伝……コード同士の精神回路を通じた、絶対の通信。


『最重要ターゲットの白銀坂 雪に異常事態発生。魔力濃度、急激に上昇。地脈の流れが逆転を始めている』


 レインの眉がぴくりと動く。その瞬間、戦場の空気が変わった。


 彼女の瞳が、わずかに見開かれ、その視線が、ユグドラシルがそびえ立つ空を見上げる。


 そこには、聖域の方角から、異様な白銀の光が立ち昇っていた。



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