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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第75話 不可侵の領域、その門前にて



 風が止み、空気が張り詰める。


 ユグドラシルの根が地を割るように広がる森の中、三人は静かに歩を進めていた。

 

 そのときだった。前方から、かすかな気配が流れ込んでくるのにカゲトラは、目を細める。


「……気配、あり。少々、待たれよ」


 言いながら、カゲトラは静かに目を閉じ、刀の柄に手を添え、呼吸を整えると意識を内へと沈める。


《心静かなる刃》精神統一の奥義が、彼の感覚を鋭く研ぎ澄ませていく。


 風の流れ、草の揺れ、地を踏む音。魔力の揺らぎ、空気の震え、木々の陰に潜む気配までもが、静かに浮かび上がってくる。


「……六名。距離、およそ五百歩。武装あり。魔力の気配も確認。おそらく歯車……この国の冒険者たちと見て間違いなかろう」


「どうやら、当たりみたいだな」


 リュカがリュートの弦を軽く弾きながら、目を細める。


「穏便に済ませたいけど……相手の出方次第では、戦闘もありうるな」


「うむ。向こうが問答無用で襲いかかってきた場合は……一人か二人を残し、他は戦闘不能に追い込む」


 バルドが重々しく言葉を継ぐ。


「とはいえ、命を奪うではないぞ。ここがいかなる地であれ、我らは無益な殺生を良しとはせぬ」


「了解」


 リュカが頷き、リュートを背に回す。


「ここがどこの国かも、相手が何者かもわからない。そんな状況で、恨みを買うのは避けたいしな」


 カゲトラもまた、刀の鯉口にそっと指をかけながら、静かに頷いた。


 風が再び、三人の間をすり抜けていく。


 彼らは慎重に、しかし確かな足取りで、前方の気配へと歩を進めていたが、カゲトラがふいに立ち止まり、眉をひそめた。


「……どうやら、拙者の気配探知を感知されたようでござる」


 その言葉に、リュカとバルドが足を止める。


「感知されたって……まさか、向こうもスキャン系のスキル持ちか?」


「うむ。相手側からも、探知の魔力の波が返ってきた。こちらの人数、すでに把握されたでござろう」


 カゲトラの声は低く、しかし冷静だった。彼の視線は、森の奥……気配のする方角を鋭く見据えている。


「……動きあり。二人ずつに分かれ、急速に接近中。左右から回り込む気配……挟撃の構えでござるな」


「問答無用でやる気かい!」


 リュカが肩をすくめ、リュートの弦にそっと指をかける。その表情は冗談めいていたが、瞳の奥には鋭い光が宿っていた。


「くるぞ」


 バルドが静かに呟き、数珠を握りしめる。その手のひらから、淡い光がにじみ出す。


 風が止み、森のざわめきが遠のく。まるで、世界が息を潜めているかのようだった。


 そして、左右の木々の間からと正面から、影が現れる。


 鋭い視線と、確かな足取りと共に六つの人影が、三人を包囲するように姿を現した。


 木々の間から現れた六人の姿を見た瞬間、リュカ、バルド、カゲトラの三人は、思わず言葉を失った。


 てっきり、自分たちと同じ歯車……この国の冒険者である、武骨な男たちが現れるものと思っていた。


 しかし、そこに立っていたのは、まるで異なる存在だった。


 六人のうち、左右から現れた四人は明らかに人ならざる気配を漂わせていた。


 その姿は、どこかニャルたち猫獣人を思わせる、獣の耳と尾を持つ女性たち。とはいえ、彼女たちの装いは、里の娘たちのような素朴さとはまるで異なっていた。


 戦場に立つにはあまりに豪奢で、しかし一目で高機能とわかる戦闘装束。煌びやかな装飾と、洗練された機能美が見事に融合し、ただの装備ではない格式を感じさせる統一した装い。


 そして何より……その容姿。


 四人はそれぞれ異なる美しさを持ちながら、共通していたのは、ただならぬ気高さと威容。まるで、神話から抜け出してきたような、完璧で、危ういまでの存在感を放っていた。


 先頭に立つのは、雷をまとう女性。金色の長髪が雷光を帯びて逆立ち、銀狼の耳と尾が稲妻の残光を揺らす。


 白銀の戦装束には雷の紋が刻まれ、彼女の動きに合わせて、空気が微かに震えた。


 その隣に立つのは、漆黒の影をまとった、白黒の虎縞の耳と尾を持つ冷たい金の瞳の女性。その眼差しは静かに三人を見定めるように射抜く。


 その視線に触れた瞬間、リュカの背筋にひやりとしたものが走った。


 三人目は少し離れて、ふわりと揺れる白の髪を持つ、狐耳と尾が風にたなびき、淡い光がその周囲にちらつく。


 視線が合っただけで、意識がふわりと揺らぐような、不思議な感覚に包まれる。


 そして、霧のように輪郭を曖昧にする茶色がかった柔らかな髪と、愛らしい狸の耳。その笑みは親しげでありながら、どこか底知れぬ妖しさをはらんでいた。


 四人は、まさにリュカ、バルド、カゲトラ、三人の精神を揺さぶる感情を体現するかのような存在だった。


 四戒仙の姿に圧倒され、言葉を失っていたリュカたち。


 しかし、直接目を向けるには畏れ多いと正面の二人から目をそらしていた男たちだったが、異質な気配に思わず目を向ける。


 するとその瞬間、空気が変わった。風が止み、光が揺らぎ、世界が一瞬、息を潜めたようだった。


 その中心に立つ、二つの影。


 一人は、透き通るような薄金の髪を持つ女性。その髪は陽光を受けて淡く輝き、まるで天から降り注ぐ光そのもののように、柔らかくも神々しい。


 瞳は淡い琥珀色に光を宿し、見る者の心を静かに見透かすような深さを湛えていた。


 その身に纏うのは、白を基調とした礼装のような戦装束。胸元には、白蛇を象った紋章が刻まれており、見る者に神意を想起させる。


 その佇まいは、ただそこに立っているだけで、周囲の空気を清めていくかのようだった。


 コード・ルーセント。


 光をまといし、鏡宮 美麗の力の象徴であり、彼女に連なる存在。その名を知らずとも、彼女が只者ではないことは、誰の目にも明らかだった。


 そして、彼女の隣に立つもう一人の影。


 漆黒の軍装に身を包み、黒髪に橙のインナーカラーを差した冷ややかな美貌の女性。


 その瞳は鋭く、感情を一切見せない無表情のまま、周囲を見渡していた。その姿には、まるで秩序そのものが宿っているかのような、完璧な統率の気配があった。


 彼女が指を鳴らせば、戦場は一瞬で沈黙に包まれる……そんな錯覚すら覚える。


 コード・レイン。


 静謐なる支配者。その存在は、まさに鏡宮 美麗本人が放つと等しいの神託の化身だった。


 リュカは、思わず喉を鳴らし、バルドは数珠を強く握りしめ、カゲトラは無意識に刀の柄に力を込める。


 四戒仙の存在だけでも十分に規格外だった。しかし、いま目の前にいるこの二人は、それをも遥かに凌駕していた。


 まさか、こんなダンジョンの地下十五階で……物語の中にしか存在しないと思っていた、女王陛下にも匹敵する至高の御方と呼ばれるような存在に出会うとは。


 そのあまりの現実味のなさに、三人は言葉を発することもできず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。


 視線を合わせることすらできず、胸の奥で高鳴る鼓動だけが、やけに鮮明に響いていた。


「……あの方々は、まさか至高の御方……?」


 リュカが小声で呟く。その声には、驚きと、どうしようもないほどの畏れがにじんでいた。


「まさか……至高の御方に連なる方でござろうか……」


 カゲトラの声もまた、いつになく低く、慎重だった。


「……拙僧の霊感が告げておる。あの御二人は……神のごとくの方に近き者だ」


 バルドの言葉に、三人の緊張がさらに深まっていく。



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