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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第47話 奇蹟の夜に、灯る想い



「むぅ……バルド様にばっかり、ずるいです……にゃ」


 ぷくっと頬をふくらませたフワリが、そろそろとバルドの背後に回り込む。そして、猫獣人の娘たちの輪に加わると、そっと袖を引っ張った。


「わ、わたしも……助けてもらったんですから……お礼、言わせてくださいっ……にゃ」


 その声に、バルドの顔はさらに真っ赤に染まり、もはや湯気が出そうな勢いだった。


 一方その頃、別の場所でも甘いバトルが始まろうとしていた。


「ミトラ姉だけ、ずるいにゃ!」


 ニャルがぷりぷりと怒りながら、カゲトラのもとへ駆け寄る。


 ミトラの膝の上で、ここは極楽かと目を閉じていたカゲトラが、はっと目を見開く。


「うちもするにゃーっ!」


 そう言って、ニャルがカゲトラの頭をぐいぐいっと引っ張る。


「おう? な、なんでござるか……」

「あっ、ニャル、だめにゃ……!」


 ミトラとニャルの間で、カゲトラの頭が左右に揺れる。その様子に、周囲からくすくすと笑いがこぼれた。


「……なんだか、平和だな……」


 リュカはその光景を見ながら、ふっと笑みを浮かべた。けれど、次の瞬間なにかに気がつく。


「……あれ? 俺って……」


 気づいてしまった。


 誰にも囲まれていない自分。

 誰にも袖を引かれていない自分。


 誰にも…………。


「……リュカ」


 その袖が、そっと引かれた。


「……え?」


 見下ろすと、そこにはコトラがいた。まだ少しふらついているものの、しっかりと立ち、そして、にこにこと笑っていた。


「リュカ、ありがとうにゃ。助けてくれて……すっごく、うれしかったにゃ!」


 その言葉に、リュカの顔が一気に真っ赤になる。


「な、なに言ってんだよ……べ、別に、俺は……」


「えへへ、照れてるにゃ~」


 コトラがくすっと笑い、リュカはますます言葉を失っていく。


 広場には、戦いの名残を吹き飛ばすような、あたたかな笑い声が満ちていた。それはまるで、奇跡のあとに訪れた、ほんのひとときのご褒美のように。


 戦いの爪痕が色濃く残る猫獣人の里。焼け落ちた家々、崩れた柵、倒れた木々。けれど、そこに立つ三人の姿は、まるで嵐のあとに差し込む陽光のようだった。


「よし、まずは水源の確保だな。地下の水脈を引き直すぞ」


 リュカがリュートを鳴らすと、音の波が地面に伝わり、地中の水脈が共鳴するように震えた。


 彼の音魔法は、地形を読み、導く力を持っていた。


「……水が、流れてきたにゃ!?」

「井戸が……復活してるにゃ!」


 驚きの声があがる中、バルドは倒壊した建物の前に立ち、慈悲乃鉄槌……メルセデスを静かに振り上げた。


「……拙僧の加護、今一度、力を貸したまえ」


 鉄槌が地を打つ。


 その衝撃とともに、崩れた柱が立ち上がり、砕けた壁が再び形を取り戻していく。


 まるで、時間が巻き戻るかのように。


「すごいにゃ……!」

「おうちが、元通りにゃ……!」


 そして、風が吹いた。軽やかに、鋭く、そして優しく。


「風林火山・風の印、展開!」


 カゲトラが印を結ぶと、風が瓦礫を巻き上げ、焼け焦げた灰を巻き取り、整地された地面が姿を現す。


 その動きはまるで、風そのものが意志を持っているかのようだった。


「にゃ、にゃんで!? 風が……掃除してるにゃ!?」

「あの人たち、いったい何者にゃ……」


 猫獣人たちは、ただただ目を見開き、信じられないものを見るような顔で、三人の働きを見つめていた。


 けれど、やがて……その視線は、驚きから、尊敬へ。そして、憧れと、あたたかな想いへと変わっていった。


「リュカ様、すごいにゃ!」

「バルド様、またおうち直してにゃ!」

「カゲトラ様、風が気持ちいいにゃ〜!」


 三人は照れながらも、黙々と作業を続けた。誰かのために……それが例え自分達とは違う、獣人族だろうが、役に立てるならと。


 そして、日が傾く頃には、里はかつての面影を取り戻しつつあった。まだ完全ではない。けれど、ちゃんと暮らせる場所にはなっていた。


 笑い声が戻り、灯りがともり、猫獣人たちの瞳に、希望の光が宿っていた。


 日が沈み、星が瞬き始める少し前には、ささやかながらも心のこもった宴の支度が広場に整っていた。


「みんなが無事だったことを祝って、今日はお祭りにするにゃー!」


 ニャルの元気な掛け声に、里のあちこちから歓声が上がる。


 盛大に火が焚かれ、木の実や保存していた食材が持ち寄られ、そして……その中心に立ったのは、バルドだった。


「拙僧、料理は嗜む程度でございますが……」


そう言いながらも、手際よく鍋を振るい、香草を刻み、大鍋からは食欲をそそる香りが立ちのぼる。


「う、うまいにゃ……!」

「なにこれ、初めて食べる味にゃ……!」


 猫獣人たちは目を輝かせ、次々とおかわりの列を作る。


 そして、気づけば。


「バルド様〜、おかわりにゃ!」

「わたしにも、もう一杯にゃ!」

「バルド様の手、あったかいにゃ〜」

「この背中、登れるにゃ?」


「な、なぜ拙僧の背に……!? あ、あまり引っ張らないでくだされ……!」


 バルドの腕には、しがみつく猫獣人。


 背中には、いつの間にかよじ登った二人がどちらが頭まで先に登れるか競争している。そして足元には、しっぽを絡ませてくる子までいる。


「こ、これは……拙僧、料理などしに来たのでは……」


 顔を真っ赤にしながらも、鍋をかき混ぜる手は止まらない。その姿に、周囲からはくすくすと笑いがこぼれた。


「バルド様、またたび状態にゃ……」

「いたずら好きには、たまらないにゃ〜」

「次はどんな料理が出てくるのかにゃ?」


 いたずら好きな猫獣人たちにとって、照れまくるバルドはまさに最高の遊び相手。けれど、その目には、確かな尊敬と親しみが宿っていた。


 笑い声と湯気が立ちのぼる広場。


 そこには、確かに生きているという実感と、新たな絆の芽吹きがあった。


「くくっ……バルド、モテモテじゃんか……」


 リュカは湯気の立つ椀を手に、少し離れた場所からその光景を眺めていた。


 猫獣人たちに囲まれて右往左往するバルドの姿に、肩を揺らして笑っていた。そこへ……。


「ねえ、リュカ。リュカは楽器持ってるけど……歌、うたえないのにゃ?」


 コトラが、ぽすんと隣に座りながら、首をかしげて尋ねた。その瞳は、まっすぐで、どこまでも純粋だった。


「……歌、か。うたえるよ? 俺は、これでも吟遊詩人でもあるからな、よく歌っているよ」


「じゃあ、うたってにゃ!」


「えっ、今!?」


「今にゃ!」


 コトラのしっぽが、ぱたぱたと期待に揺れる。その様子に、リュカは苦笑しながらも、肩にかけていたリュートを手に取った。


 もしも……これが、俺たちの国の尊き御方からのお願いであれば、こんなに落ち着いていられなかっただろう。


 そう考えたら女性とはいえ、朗らかで表裏のない明るさの、こいつらっていいやつらだよな。


「……じゃあ、ちょっとだけな」


 ぽろん、と一音。


 その瞬間、広場の空気が、ふっと変わった。


 リュカの指が弦を弾き、やがて、静かに歌声が紡がれ始める。


 それは、風のように軽やかで、水面のさざ波のように繊細で、けれど、どこか懐かしく、胸の奥をそっと撫でるような優しさに満ちていた。


「……あれ、急に静かになったにゃ……?」


「歌……?」


「きれい……にゃ」


 いつの間にか、騒がしかった広場が、しんと静まり返っていた。


 焚き火のはぜる音すら、遠くに感じるほどに。


 猫獣人たちは、目を丸くしてリュカを見つめ、その歌声に、ただただ聴き入っていた。


 バルドも、カゲトラも、ミトラも、そして、いたずら好きな猫娘たちまでもが、その場に立ち尽くし、静かに息を呑んでいた。


 リュカの歌は、夜空に溶けていくように広がり、星々がその音に呼応するかのように、ひときわ強く瞬いた。


 それは、生きて残った祝福の夜にふさわしい、静かで、あたたかく、心を包む……まさに、奇跡のような歌だった。


 リュカの最後の一音が、夜空に溶けて消えた。しばしの静寂……そして。


「リュカ様〜〜〜っ!!」


 なだれのように、猫獣人の娘たちが一斉にリュカへと飛びついた。


「歌、すっごく素敵だったにゃー!」

「リュカ様って、歌も上手なんて反則にゃ!」

「もう一曲うたってにゃ〜! 今度は陽気な歌がいいにゃ!」

「リュカ様、大好きにゃ!」


「ちょ、ちょっと待って!? どうゆうこと? どうゆうことだってばーっ!?」


 リュカはあっという間に押し倒され、しっぽや耳がわちゃわちゃと顔の周りを舞い、もはやどこに誰がいるのかもわからないカオス状態。


「リュカは……リュカは……」


 その様子を見ていたコトラの目が、じわじわと潤んでいく。


「リュカは……あたしのにゃあああああ!?」 


 コトラの絶叫が夜空に響き渡り、その勢いのまま、彼女は猫獣人たちの群れに突っ込んでいく!


「どいてにゃーっ!リュカはあたしのにゃーっ!!」


「にゃっ!?」

「わわっ、コトラ姉!?」

「ちょ、しっぽ踏まないでにゃー!」


 わちゃわちゃと押し合いへし合いの中、コトラは見事リュカの胸元に飛び込んだ。


「にゃふっ!」と小さく声を上げて、リュカの上に着地。


「ちょ、コトラ!? お、おも……いや、全然そんなことないけどっ!……急にどうした!?」


「ふふん、リュカはあたしのにゃ。誰にも渡さないにゃ……!」


 コトラが勝ち誇ったようにしっぽをふりふり。


 その姿に、他の猫娘たちは「むぅ〜〜〜」と不満げな声を上げるが、やがて「まぁ、コトラ姉だしにゃ……」「しかたないにゃ……」と、しぶしぶ引き下がっていく。


「……助かった……のか?」


 リュカがぽつりと呟くと、コトラがぴとっと額をくっつけてきた。


「でも……ほんとに、ありがとにゃ。リュカの歌、すっごくあったかかったにゃ……」


 その声は、さっきまでの騒ぎが嘘のように、やさしくて、かなり照れていた。リュカも思わず、顔を赤くしながらも、そっと微笑んだ。


「……そっか。なら、うたってよかったよ」


 焚き火の灯りが、二人の影をゆらゆらと揺らす。


 その周囲では、まだ宴の笑い声が続いていたけれど、その中心で、リュカとコトラの時間だけが、少しだけ、ゆっくりと流れていた。



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