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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第四章 ユグドラ・フロンティア編

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第218話 賢者の身内なら、仕方がない



 不法侵入を不問とする代わりに、美麗は世界最高峰の情報処理能力を持つ少女を、ミラーパレスの事業へ正式に引き込める。


 しかも、その承諾を紫乃自身の口から引き出せるのだ。


(最初から、これが狙いでしたのね)


 美麗と紫乃の視線が、再びぶつかる。


 女王は、とても素敵な笑みを浮かべている。


 紫乃も、ゆっくりと口元へ同じような笑みを浮かべた。


「ええ、もちろんですわ」


 声音は、どこまでも穏やかだった。


「九重すみれは、群星リンクを統括する優秀な情報処理技術者。そして、わたくしが誰よりも信頼するブレインです。彼女の能力は、ユグドラ・フロンティアの防衛と情報基盤の構築に、大いに役立つことでしょう」


 斗花に口を塞がれていたすみれの目が、限界まで見開かれる。


(お姉様が……誰よりも信頼するブレインと……!? ああっ……お姉様、お姉さま!)


 今すぐ歓喜の叫びを上げようとしたのか、すみれが斗花の手の中でもごもごと激しく声を漏らす。


 斗花は嫌な予感を察し、さらにしっかりと口を塞いだ。


「今だけは本当に黙っとけ。話がまとまらなくなる」


「んんんんんっ!」


「あとで好きなだけ叫んで喜べ」


 紫乃は、そんなすみれを見ないようにしながら言葉を続ける。


「ただし、今回の侵入方法については、わたくしも事前に知らされておりませんでした。今後は必ず正式な手続きを踏ませます。その点は、わたくしの名において約束いたしますわ」


「ええ。それで十分よ」


 美麗は紫乃の返答を待っていたかのように頷いた。


「では、この件に関しては以後不問とします」


 美麗の宣言が、前庭全体へ響く。


「九重すみれは、賢者・九条 紫乃の要請を受け、ユグドラ・フロンティアの発展へ協力するために来訪した正式な客人。先ほどの緊急警戒態勢は、所属情報の共有に不備があったことで生じたものとして処理します」


 不備。


 絶対防壁を無断で解析し、接触記録すら残さず素通りした事態が、たった二文字で片づけられた。


「全部隊、警戒態勢を解除しなさい。通常配置へ戻って構いません」


 兵士たちの間に、わずかな戸惑いが広がる。


 目の前には、今も巨大な人型機動兵器が直立している。


 数分前まで、それを迎撃するためにミラーパレスのほぼ全戦力が集結していた。


 これで終わりで、本当に不問としてよいのか。


 皆の表情には、納得したような、していないような、何とも言えない感情が浮かんでいた。


 それでも、美麗の下した通告へ公然と異を唱える者はここにはいない。


 ルーセントが最初に白雷を収め、四戒仙もそれぞれ影、霧、狐火、雷を解除する。コード・ミラーとコード・ラインも、命令に従って武器を下ろす。


 花恋は機体の胸部を見上げたまま、小声で萌黄へ囁く。


「これ……本当に解散していいのかなぁ?」


「美麗さんがいいって言ってるし、大丈夫じゃない? すみれ、紫乃先輩の身内だもん」


「……その説明だけで納得できる、もえもえがちょっと羨ましいよ?」


「えっ、褒められた?」


「半分くらいはね?」


「やった!」


 花恋は、残り半分に含まれた毒へまるで気づかない萌黄を見て、小さく肩を落とした。


 《無冠の灯》の男たちも、ようやく剣や術式を収めていく。


 クラウは巨大人型兵器と紫乃を交互に見たあと、納得したように頷いた。


「賢者殿の身内だったのか。それなら、敵ではないんだな」


「なるほど。紫乃殿に会うため、急いで来られたのでござるか」


 カゲトラも警戒を解き、静かに刀から手を離す。


 バルドは数珠を手にしたまま、どこか温かな表情ですみれを見つめた。


「離れた地から、慕う御方のために駆けつけられたのだな。方法には少々驚かされたが、その想いは尊いものであろう」


「少々で済ませるんだ……」


 リュカが小さく呟いたものの、彼も紫乃の関係者と聞いて安心したらしく、張り詰めていた肩の力を抜いている。


 ストレイは機体構造への興味を隠しきれないまま、それでも敵意がないなら問題はないと判断したらしい。


 フェルマも、胸部に書かれた呪文や術式と思える文言へ少し困惑した視線を向けたあと、簡潔に結論を出した。


「あの賢者殿の関係者なら、問題ないんだろうね。翻訳しても紫乃様に対する愛情と敬意しか感じられないし」


 あまりにも素直な引き下がり方に、紫乃は思わず彼らの顔を見回す。


(それだけで納得しますの……?)


 鏡宮の絶対防壁を素通りした巨大人型兵器。


 無断侵入。


 無応答。


 そして、操縦席から十メートル近く飛び降り、感動の再会をやり直させようとした少女。


 そのすべてが『紫乃の身内』という説明だけで受け入れられている。


 やがて美麗が踵を返し、エコーを伴って本棟へ戻り始める。


 その横顔には、自分の望んだ結果を手に入れた者の、満足そうな微笑みが浮かんでいた。


 レインだけはその場に残り、《ラブレイザー・オルタ》を食い入るように見上げている。すでに侵入方式を解明することで頭がいっぱいなのだろう。


 ほかの者たちも、それぞれの持ち場へ戻り始めた。


 斗花は周囲の警戒が解かれたことを確認すると、ようやく腕の中にいたすみれを地面へ降ろす。


「ほら。今度こそ自分の足で立て」


「斗花さん、先ほどは助けていただき、ありがとうございました。ですが、次回こそは……」


「次回は無謀な飛び降りするなよ」


「まだ何も言っておりませんわ!」


「言わなくても分かる」


 すみれは不満そうに頬を膨らませたが、次の瞬間には紫乃のもとへ駆け寄っていた。


「お姉様!」


 そのまま紫乃の腕へ両腕を絡め、ぴたりと身体を寄せる。


「お姉様が、わたくしを『誰よりも信頼するブレイン』と……皆様の前で、あれほど堂々と宣言してくださるなんて……! すみれは、すみれはもう、感無量ですわ!」


「それは、あなたを助けるための交渉上の発言で……」


「分かっております! 照れ隠しまでして頂いて、ありがとうございます」


「分かっていませんわ!」


 紫乃は反論しようとしたものの、自分の腕へ幸せそうに頬を寄せるすみれを見て、言葉を飲み込んだ。


 無謀にもほどがある。


 連絡ひとつなく、所属不明機として絶対防壁へ突入し、ミラーパレス全域を緊急警戒態勢へ追い込んだ。


 美麗には、まんまとユグドラ・フロンティアへの協力を公言させられた。


 これから機体の侵入方法を説明し、レインと防衛機構を再構築し、二百件以上ある案件へさらに新しい仕事を追加しなければならない。


 頭の痛い問題ばかりだった。


 それでも……腕へ伝わるすみれの温かさを感じると、紫乃の胸から小さな安堵の息がこぼれた。


 無事に自分の元に来てくれた。少なくとも怪我はない。


 五十分で飛来したことも、十メートル近い高さから飛び降りたことも許してはいないが、こうして元気な姿を見られたことに、ほっとしている自分も確かにいた。


「まったく……あなたという娘は」


「はい、お姉様!」


「褒めていませんわ」


「お姉様のお声を間近で聞けるだけで、すみれにはご褒美です!」


「……やれやれですわね」


 紫乃は呆れたように息を吐きながらも、絡められた腕を振りほどこうとはしなかった。


 そのまま本棟へ戻ろうとして、ふと足を止める。


 振り返れば、解散していく者たちは皆、同じような反応を見せていた。


『賢者の身内なら仕方がない』


『紫乃に呼ばれて来たのなら問題ない』


『あの人の関係者なら、あれくらいのことはするのだろう』


 誰もが妙に素直に納得している。


 世界最高峰の頭脳が造った巨大兵器で絶対防壁を素通りし、紫乃への愛を全身で叫びながら現れた少女を、紫乃の身内だと聞いただけで受け入れている。


(……どうして皆様、わたくしの身内だと聞いた途端、納得しましたの?)


 信頼されていると考えれば、喜ばしいことなのかもしれない。


 しかし、この納得には尊敬だけでなく、どこか『紫乃の周囲なら、このくらいは起きる』という諦めまで含まれているような気がする。


 紫乃は自分の腕に絡みつき、上機嫌に《ラブレイザー・オルタ》の性能を説明し始めたすみれを見る。


 次に、遠ざかっていく仲間たちの背中を見つめる。


「……わたくしって、皆様からどのように思われていますの?」


「もちろん、世界一気高く、麗しく、慈愛に満ちた至高のお姉様ですわ!」


「あなたには聞いていません」


「では、宇宙一に訂正いたします!」


「規模の問題ではありませんわ……」


 紫乃の疑問へ答える者はいなかった。


 ただ、すみれは本当に幸せそうに紫乃へ腕を絡め、《魔導天使ラブレイザー・オルタ》は朝の光を受けて誇らしげに輝き続けていた。


 その装甲には、紫乃の深い紫と、すみれの淡い菫色が淡く映り込み、朝日と溶け合うようにきらめいていた。



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