第110話 六人の漢、世界を揺らす
リュカの風詠みのリュートから奏でられた一音が、空へ消えた瞬間……結界を覆っていた風の結界が、突風を残して霧散した。
視界が開ける。そこに立っていたのは、無冠の灯の六人。
百花繚乱のメンバーが知っているのは、騎士クラウ、魔術師ストレイ、調薬錬金術師フェルマの三人。
なのに、結界が晴れると、その後ろから見たこともない三人の漢が姿を現した。
ひとりは、軽やかな身のこなしでリュートを背負い、風のようにしなやかな雰囲気をまとった青年。
ひとりは、腰に刀を差し、背筋を伸ばしたまま静かに佇む侍としか思えない和装の偉丈夫。
そしてもうひとりは、まるで巨岩のような体躯を持つ僧侶の衣装をまとった二メートル近い巨体。画面越しでも感じられる圧を放っていた。
百花繚乱の視聴者は、その瞬間……息を呑み、そして爆発した。
【コメント欄】
『ちょ、ちょっと待って!? 知らない漢が三人も増えてるんだけど!?』
『誰!? 誰!? 誰!? 新キャラ!? 新戦力!?』
『一人目、絶対吟遊詩人でしょ……でも動きが速すぎなんだけど!?』
『あの軽さでリュート背負ってるの反則でしょ……絶対モテるやつ……』
『侍!? 侍出てきたんだけど!? カッコ良すぎて息止まる』
『背筋の伸び方がもう武人……あれ絶対強い……』
『最後の人……でか……え、二メートルあるよね!?』
『肩幅どうなってんの!? 逞しすぎて画面の圧がすごい!!』
『伝説のモンク? なにあの筋肉!! いやもう壁じゃん!!』
『このパーティーって六人だったの!? 聞いてないんだけど!?』
『情報量が多すぎて脳が処理落ちしてる……』
『クラウ様、ストレイ様、フェルマ様でもお腹いっぱいなのに……こんな強そうな三人隠してたの反則だよ』
『ちょっと待って……この六人、全員イケてる……語彙力なくなるんだけど』
『推せる……推せる……!! そして紫乃お嬢様ありがとうございます!!』
風の結界が晴れ、六人の漢が姿を現した瞬間……百花繚乱の視聴者たちは、歓声と悲鳴の入り混じった混乱に包まれた。
クラウ、ストレイ、フェルマ。この三人はすでに五星姫とカップリングで推しとして認識されている。なのに、その後ろから現れた三人の漢は、百花繚乱にとって完全なる未知の存在。
百花繚乱の温度は、再び沸騰した。
【コメント欄】
『ちょ、ちょっと待って!? 漢三人の追加って! 贅沢すぎませんか!?』
『誰!? 誰!? 誰!? 情報が追いつかない!!』
『吟遊詩人っぽい人の歌が聴きたい……』
『侍!? 侍出てきたんだけど!? カッコ良すぎて呼吸忘れるんだけど……ンゴッ』
『最後の人……でか……二メートルあるよね!? 逞しすぎ!!』
『このパーティー六人だったの!? 聞いてない!!』
『ちょっと待って推しが増える音がする……!!』
しかし、その狂気乱舞はすぐに現実へ引き戻された。
画面の中央には、白銀の髪、額に白印……ストレイの神聖拘束魔法に縛られた雪だった者が立っている。その周囲には、倒れた朱音、ボロボロのインクラインの面々に、倒れ伏す兵士たち。
観ているだけで百花繚乱の胸に、痛みが走った。
【コメント欄】
『……雪くん……?』
『なんで拘束されてるの……?』
『朱音さん倒れてるし……インクライン全員ボロボロ……』
『これ……本当にヤバい状況じゃん……』
『推し増やしてる場合じゃなかった……泣きそう……』
そんな中、六人の漢が、真剣な表情で紫乃お嬢様のもとへ、画面越しでも息を呑むほどの迫力で歩み寄る。
『えっ!? 六人全員で紫乃様のところ行ってる!?』
『なに!? なに!? なに? 紫乃様……大丈夫!?』
『でもあれ、怒ってるんじゃなくって、必死な形相なんだけど』
『漢に頼られる紫乃様……さすがすぎる……』
『紫乃様の株が天井ぶち抜いたんですけど! 最初からだけど』
六人の漢に頼られ、紫乃お嬢様の株が天井を突き抜けているその最中……紫乃はフェルマへ視線を向け、下級か中級のポーションを求めた。
それにはフェルマは、申し訳なさそうに肩をすくめる。そのやり取りを、百花繚乱は画面越しに、固唾を飲んで見守っていた。
そして、フェルマが何気なく言った。
「上級ポーションくらいなら、今ある素材ですぐに創れますよ?」
その瞬間、紫乃の思考が止まり、百花繚乱メンバーも同時に固まった。
フェルマは、まるで日常の延長のように瓶と素材を手に取り、両手をそっと重ねる。
次の瞬間……ぱぁぁぁ……っと、淡い光がフェルマの手元から溢れ、空気が震え、光が収まるとそこには、三色の輝きを宿した、完璧な上級ポーション。
黒の回廊攻略時に九条財閥が持ち出した虎の子の上級ポーションの輝きを見ていた百花繚乱は、言葉を失った。
『……え? 今……上級って言った?』
『ちょっと待って……上級ポーションって国家レベルの宝物じゃなかった!?』
『素材ポンッて出して光らせただけで完成したんだけど!?』
『えっ……えっ……えっ……何が起きてるの!?』
『九条財閥が何十年も研究して作れなかったやつを……素手で……?』
『フェルマ様……規格外すぎません!?』
『紫乃様の顔が固まってるの初めて見た……』
『てか光り方が九条家のやつより綺麗なんだけど!?』
『フェルマ様……それは、ヤバいって……』
紫乃は震える指で、上級ポーションを受け取り、そしてフェルマから託された小瓶……エリクサーの素材となる瓶をポーチに仕舞い、インクラインのもとへ向かった。
その小瓶の中身を、百花繚乱はまだ知らない。
紫乃は空と一言二言話し、空が涙を流した瞬間に、そっとその涙を受け取る。
その瞬間……小瓶の中で光が弾け、液体が淡い虹色へと変わり、いとも簡単にエリクサーが完成した。
『えっ……光った……?』
『ちょっと待って……あれ……エリクサーじゃない!?』
『伝説の……!? 紫乃様が……!?』
『空ちゃんの涙で……!?』
『やばい……鳥肌止まらない……』
そして、紫乃に促され、斗花は朱音の蘇生を任される。萌黄はパニックになりながらも、斗花の冷静な対応に惚れ惚れし、百花繚乱もそこは状況も忘れてクスッとできた。
斗花は軍で叩き込まれた手順で朱音の状態を確認し、頭部を強打した痕跡と、周囲に残る超高熱と絶対零度の異常な魔法痕を見て息を呑む。それは、癒しの力しか持たないはずの雪が、残したものだと悟ったようだ。
朱音を救うため、斗花は迷いなく上級ポーションを口に含み、口移しで朱音へ流し込む。広場の空気が止まり、全員がその光景を見守る中……朱音の喉が動き、ゆっくりと意識が戻ってくる。
目を開いた朱音は、斗花の姿と仲間たちの顔を見て混乱しながらも、自分が救われたことを理解した。そして視界の端に映った白銀の異形を見た瞬間、息を呑む。
白銀の髪。冷気と熱を同時にまとう、常識を逸した存在。
朱音はまだ知らない……それが、自分の命より大切に思っている雪が、変貌した姿だということを。
【コメント欄】
『もえもえのパニック可愛いけど状況ヤバすぎるって』
『斗花の姐御の男前対応きた!!』
『怒鳴ったのにWイエロー惚れてて草、流石もえもえ』
『口移し!? ちょっと待って口移し!?!?』
『といっても、蘇生法だよ……でも尊いは同意』
『斗花パイセン……漢前すぎる……』
『朱音の姐御のまぶた動いた!!』
『起きた!! 朱音さんが起きた!!』
『よかった……ほんとによかった……』
『でも中央のあれ……本当に……なに……?』
『白銀の髪……白印……まさか……いやでも……』
『本当に……雪くん……なの……?』




