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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第108話 ただいまと、消えない約束



 朱音が《真なる命泉トゥルー・エリクサー》を雪だった者の唇へ流し込んだ瞬間……白金の光が、異形の身体を内側から満たしていった。


 その光は、まるで雪の心そのものへと届くように、深い深い闇の底へと沈んでいく。


 雪だった者の内側、精神世界。その闇の中で雪とメアは、お互いを離すまいときつく抱き合っていた。メアは雪の胸元に顔を埋めたまま、震える声でひっしに言葉を紡いでいた。


「……お兄ちゃん……約束して……あたし……誰かの役に立ちたい……もう……誰かを傷つけるのは……嫌なの……」


 その声は、闇の中で震える小さな灯火のようだった。


 雪はそっとメアの頬に触れ、優しく微笑んだ。


「……わかってるよ。メアちゃんは……優しい子だよ」


 メアの瞳が揺れる。


「……お兄ちゃん……お願い……手を……ぎゅっと……握ってて……離さないで……」


 雪は迷わずその手を握り返した。


「ああ。絶対に離さないよ。何があっても……」


 その時……ズゥゥゥン……と、闇が激しく震える。


 周囲の黒い濁流が、恐怖に怯えるようにざわめき、波紋を立てて後退していく。


 そこに頭上から、先ほどの神聖な光を何十倍にも荘厳にしたような、とてつもない光が降り注いできた。


 白金の光の渦が、闇を焼き払うように広がっていく。


 メアが雪の腕にしがみつく。


「……なに……この光……こわい……でも……あったかい……」


 雪も思わず顔を上げた。


 光は、闇を押し返し、触れるたびに闇は唸る音を残して溶け、それに反して、雪の白印の紋章が力強く明るさを取り戻していく。


 尽きかけていた魔力が、泉のように満ちていく。


「……あ……この感じ……」


 雪は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 この温度、この優しさ、この呼ばれている感覚。


(……この光……まさか……)


 雪の瞳が大きく揺れた。


「……朱音……お姉ちゃんの……」


 その名を呟いた瞬間、光がさらに強く輝き、雪の意識がそちらへ引き寄せられていく。


 メアが不安そうに雪の服を掴む。


「お兄ちゃん……?」


 雪はメアの手を握り返しながら、光の方へ顔を向けた。


「……大丈夫。あの光は……怖くない。あれは……」


 雪の胸が震えた。


「……あの人が……呼んでる……」


 朱音の声が、光の中から確かに届いていた。


 頭上から降り注ぐ白金の光は、闇を押し返しながら、ゆっくりと雪とメアの周囲を満たしていった。


 光が強くなるほどに、メアの身体がふるりと震えた。


「……あったかい……」


 その声は、闇に怯えていた子どもの声ではなく、救いに触れた者の安堵に満ちていた。


 雪はメアの背をそっと撫でる。


「大丈夫だよ。この光は……怖くない。君を傷つけるものじゃない」


 メアは雪の胸元に顔を埋めたまま、小さく息を吸った。


「……あたし……元に……戻れる……?」


 雪は優しく頷く。


「うん。君の願いが……ちゃんと届いたんだよ」


 光がさらに強くなり、闇が溶けていくように消えていく。


 メアは雪の服をぎゅっと掴んだ。


「……お兄ちゃん……ありがとう……あたし……こわかった……でも……あたし……」


 震える声で、メアは雪を見上げた。


「……できたら……あたしのこと……忘れないで……」


 雪は迷わず、強く首を振った。


「忘れるものか。君は……僕の心の中にずっといるよ」


 その言葉に、メアの瞳がふるふると揺れた。


 そして……雪が握っていたメアの手が、ゆっくりと、小さくなっていく。


「……メアちゃん……?」


 雪の声が震える。


 メアの指先は、まるで光に溶けるように細く、透明になっていく。


 涙を浮かべながら、それでも幸せそうに微笑んだ。


「……お兄ちゃんに……会えて……よかった……」


「メアちゃん……!」


 雪が手を伸ばす。しかし、白金の光が一気に広がり、メアの小さな身体を包み込んだ。


 光は優しく、けれど抗えないほど強く。


 最後にメアは雪の手をぎゅっと握り返し……そのまま、真っ白な輝きの中へと溶けていった。


 雪の叫びも、闇も、すべてを飲み込むほどの光。


 その中心で、雪の意識は……朱音の呼ぶ声へと引き寄せられていった。



 朱音が《真なる命泉トゥルー・エリクサー》を飲ませた直後……ユグドラシルの聖域広場には、まるで天が開いたかのような神々しい白金の光に包まれた。


 光は渦を巻き、聖域の大樹の葉を揺らし、空気そのものを浄化するように広がっていく。


 誰もが目を細め、ただその奇跡を見守るしかなかった。


 やがて……光がゆっくりと引いていく。


 残されたのは、静謐な空気と、広場の中心にひとり立つ影。


 それは……変貌する前の、華奢で可憐な少年の姿。


 白銀の髪は柔らかく揺れ、肌は透き通るように白く、ダンジョン攻略前と同じ、あの優しい雰囲気をまとっていた。


 彼は、目を閉じたまま静かに立っていた。


 風がそっと彼の髪を揺らす。


 広場にいる全員が、息を呑んでその瞬間を待っていた。


 紫乃は扇子を口元に当て、萌黄は両手を口に当てて震え、斗花は拳を握りしめたまま微動だにしない。


 そして……雪のまつげが、かすかに震えた。


 ゆっくりと、ゆっくりと目蓋が開かれる。


 そこに、現れたのは……あの、優しくて明るい、世界中が愛した雪の瞳。


 朱音の胸が一気に熱くなった。


「……ゆ……雪くん……?」


 次の瞬間、朱音はもう走り出していた。


 涙が頬を伝い、震える腕で、雪の華奢な身体をぎゅっと抱きしめる。


「雪くん……! 雪くん……!!」


 雪は驚いたように瞬きをし、それから……ふわりと微笑んだ。


「……ただいま」


 その声は、闇を抜けたばかりとは思えないほど優しくて、朱音の心を一瞬で溶かすほど温かかった。


 ただいま、雪がそう言いながら微笑んだ瞬間、朱音は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、雪の華奢な身体をぎゅうっと抱きしめていた。


「雪くん……ほんとに……ほんとうに……」


 その光景を見ていたインクラインの面々も、我慢できなかった。


「雪くん…………っ!!」


 最初に飛びついたのは空。勢いよく雪の背中に抱きつき、朱音ごと雪を揺らす。


「よかったぁぁぁぁぁ!!」


 続いて風花が涙をこぼしながら腕を広げる。


「雪くん……! 生きてて……よかった……!」


 花恋は胸元を押さえながら、それでも堪えきれずに雪へ駆け寄る。


「もう……心配させないでよ……」


 萌黄は鼻をすすりながら、雪の袖をぎゅっと掴んだ。


「うぅ……ゆっくん……っ……!」


 四人が雪に一斉に抱きつき、朱音も巻き込まれて、雪は一瞬でインクラインの抱きしめ地獄に飲み込まれた。


 それを少し離れた場所から見ていた紫乃は、扇子で口元を隠しながら、ふわりと微笑む。


「……よかったですわね、ほんとうに」


 斗花は腕を組んだまま、ふっと息を吐いた。


「……あいつ、戻ってきやがったか。まったく……心配かけやがって」


 その声はぶっきらぼうなのに、堪らないほどの優しさがにじみでていた。


 周囲では、ルーセントが胸に手を当てて深く息をつき、レインはその場にへたり込みそうになりながら笑った。


「……はぁ……よかった……本当によかった……」


 鏡宮の六十名の兵士たちも、一斉に肩の力を抜き、ざわざわと安堵の声を漏らす。


「助かった……」

「奇跡だ……」

「御子様が……戻られた……」


 そして、無冠の灯の男たちは、互いの肩を叩き合いながら叫んだ。


「賢者様は、俺たちとは違う! さすが紫乃様!!」

「やはり紫乃様はすごいでござる!!」

「紫乃様ァァァ!! まさに知の化身よな」


 紫乃は扇子で頬を隠しながら、少し照れたように微笑んだ。


「まぁ……当然のことをしたまでですわ」



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