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男女比1000:1の女性至上主義国家の恋愛スキル皆無の冒険者パーティー、男が希少な男女比1:100な現代ダンジョン社会に転移したらモテすぎて困惑しています  作者: Ciga-R
第二章 インクライン編

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第106話 炎の双璧、再び目を開く時



 紫乃は、朱音のそばに膝をついた斗花に静かに、問いかけた。


「軍に所属していたあなたなら、人命救助の一環で人工呼吸や……今のような意識のない状態での蘇生は経験あるわよね?」


 斗花はぶっきらぼうに鼻を鳴らした。


「……まぁ、ある」


 短く、簡潔にそれ以上語る気はない……そんな声音。


(……ま、紫乃のところの九条重工製のアンドロイド相手だけどな)


 もちろん、誰にも言うつもりはない。


 そんな斗花の返答に、萌黄がぱぁっと顔を輝かせた。


「さすが斗花パイセン!! 頼りになるっす!!」


「じゃかましい!」


 斗花は即座に怒鳴った。


「お前がパーティーの仲間なのに、しないからオレがするんだろ!」


「ひゃっ……!?」


 萌黄は肩を跳ねさせ、次の瞬間……頬を赤く染め、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。


「か、カッコよすぎっす……! さすが鉄拳の女帝……斗花先輩となら……あたし……その……」


 言いかけて、自分で自分の口を両手で塞ぐ。


 インクラインの三人は、「また始まった……このミーハー娘は……」と顔を覆い、無冠の灯のメンバーは、またしても全員が視線を逸らした。


 なおストレイだけは、うたたに袖を握られたまま、最初から固まったまま動きはない。


 そんな萌黄から目を反らし、構っている時ではないと、斗花は深呼吸をひとつしてから、意識を失って倒れている朱音へ視線を落とした。


 まずは状態確認。軍で叩き込まれた手順が、自然と身体を動かす。


 朱音の額に触れた瞬間……斗花の指先がぴたりと止まった。


「……血が固まってる」


 額から流れた血が、乾いて固まり、黒くなっている。


 斗花は眉をひそめた。


「鈍器系で殴られた……か?」


 朱音の傷を確認し終えると、斗花は周囲へ視線を巡らせ、そして……息を呑む。


 地面の一部は、超高熱で溶けて黒く焦げ、ガラス状に固まっている。別の場所では、絶対零度の冷気で凍りついた氷の結晶が、白く輝いていた。


 熱と冷気。相反する二つの極魔法が、同じ場所に存在している。


「……なんだよ、これ……」


 斗花は喉を鳴らした。この凄まじい痕跡を残したのは……おそらく、あの雪だった者。


 朱音の頬に触れながら、斗花は奥歯を噛みしめた。


(……雪、お前……どんな状態になっちまったんだよ)


 朱音の呼吸は安定していて、命に別状はなさそうに思える。しかし、頭を殴られたのであれば、このまま放置すれば危険なのは明らかだった。


 斗花は朱音の頬に触れながら、その呼吸が安定していることを確認しながらも、胸の奥に重く沈む感情は、別のところにあった。


(……雪、お前……)


 斗花は、もちろん白銀坂 雪と面識があった。


 このアースリバース世界では、男性というだけで希少な存在、そのうえ雪は、幼い頃から白印の力に目覚めていた。


 癒しの力で人々を救い、どんな相手にも気兼ねなく明るく接し、他の白印の者たちのように表に出てくることを拒むこともなく、世界中から愛される……そんな存在。


 斗花が軍属を辞め、冒険者として再出発したばかりの頃。新しい訓練場へ足を踏み入れたその瞬間……彼女は思わず目を疑った。


 そこに立っていたのは、赤髪、炎属性、姐御肌、負けん気の強そうな顔つき。


(おいおいおいおい!……世界には自分に似たやつが三人いるって言うけどよ……その一人がお前か!?)


 斗花は心の中で盛大にツッコんだ。そして、その自分そっくりなやつは、こちらに気づくとニッと笑った。


「あなた、新入り? あたしは紅坂 朱音。魔法剣士。炎なら負けないよ? 貴女の炎に、覚悟はある?」


 その瞬間、斗花は確信した。


(……やっぱ似てるわコイツ)


 そして、話してみれば妙に気が合い、気づけば二人は一緒に訓練する仲になっていた。


 そんなある日のこと。訓練場に、ふわりと柔らかな風が吹いた。


 その清浄な雰囲気に振り返ると、そこに立っていたのは……白銀の髪を揺らす、可憐な聖女のような存在。


 斗花は思わず息を呑んだ。


(うわ……どんだけ! 妖精みたいな可憐な娘って本当にいるんだな……)


 そして、その少女はにこりと笑い、軽く頭を下げた。


「はじめまして。白銀坂 雪です。いつも朱音お姉ちゃんと仲良くしてくれて、ありがとうございます。今日は差し入れを持ってきました」


 その名を聞いた瞬間、斗花の思考が一瞬止まった。


(……は? 白銀坂 雪って……あの、世界中で大人気の白印の……!?)


 癒しの力で人々を救い、誰にでも明るく朗らかに接し、世界中から愛される存在。その本物が、目の前で微笑んでいるのをみて、斗花は思わず背筋を伸ばした。


(マジかよ……こんな可憐な存在が、この世にいるんだ……これが男性!?)


 斗花が秘かに願い考えていた男性像からはかけ離れた容姿で、頼るというより、なにがなんでも守るべき……それが男という自分とは違う異性であると認識した瞬間だった。


 だというのに今、目の前に残された痕跡は……地面を溶かすほどの超高熱と絶対零度の冷気で凍りついた氷の結晶。


 その中心に倒れていた朱音。


(……こんな痕跡を残すなんて、癒しの力しか使えないはずの……雪、お前……本当に、どうしちまったんだよ)


 斗花は朱音を抱えなおし、低く、しかし強い声で呼びかけた。


「……起きろよ、朱音。お前の大事な雪が、こんな状態になっているのに、寝てる場合じゃねぇだろ」


 その声には、戦友を想う熱さと、雪だった者へ感じるどうしようもない畏怖、それ以上に朱音を目覚めさせたいという強い意志が宿っていた。


 斗花は朱音の身体を支え直し、その顔をそっと自分の方へ向けさせる。


 頬に添えた手は、軍で鍛えた荒々しさとは違い、驚くほど丁寧で優しい。


 朱音の唇は、まだ意識の戻らない彼女の呼吸に合わせて、かすかに上下しているだけだった。


 斗花は上級ポーションの瓶を開け、ためらいなく口に含む。


 その動作は迷いがなく、まるで訓練で何度も繰り返した手順のように滑らかだった。


 そして……朱音の唇へ、自分の唇をそっと重ね、口移しで、ゆっくりとポーションを流し込んでいく。


 その瞬間、広場の空気がぴたりと止まり、誰もが息をひそめ、その光景を見守っていた。


 紫乃は扇子を取り出し口元に当て、わずかに目を細める。


 萌黄は顔を真っ赤にし、「ひゃぁ……」と声にならない声を漏らし、インクラインの空、風花、花恋の三人は揃って視線を逸らした。


 無冠の灯のメンバーは、見てはいけないものを見ているのでは、という顔で固まりながらも目を離すことができずに、ストレイだけは相変わらず、うたたに袖を握られたまま石像のように動かないでいる。


 斗花は周囲の反応など気にも留めず、朱音の喉がごくりと動くのを確認すると、そっと唇を離した。


 その表情には、軍人としての冷静さと、戦友を救いたいという強い意志が宿っていた。


「……ちゃんと飲んだな。朱音、今すぐ戻ってこいよ」


 その声は低く、しかし確かに朱音へ届くように響いた。


 朱音の喉がかすかに動き、次の瞬間、長く閉じていたまぶたがゆっくりと震えた。


「……ん、ぁ……?」


 焦点の合わない瞳が揺れ、ぼんやりとした視界の中で、最初に映ったのは……斗花の顔だった。


「……斗花……? あたし……訓練で沈んだのか……?」


 かすれた声で呟きながら、朱音は自分の額に触れ、そこに痛みが……ないことに気づき、徐々に記憶が戻ってくる。


 たしかコボルトキングに殴られたはず……その頭部の激痛が、跡形もなく消えている。


(……え? なんで……? 雪くんが……治してくれた……?)


 状況がまるで理解できない。そして、目の前にいるはずのない人物……斗花。


 朱音は一気に目を見開いた。


「……なんで、アンタがここに……?」


 混乱したまま、A級冒険者の本能がとっさに状況を確認するために周囲を見渡す。


 そこでは、インクラインの仲間たちが、心配そうにこちらを見つめている。


 そして、やはり何故ここに居るのかわからないが、五星姫の紫乃は胸に手を当て、ほっとしたように息をついていた。


 萌黄は涙目で、「よかったっす……!」と震えている。


 そして……朱音の視界の端に、それが映った。


 広場の中央に、まるで世界から切り離されたように立ち尽くす、異形の影。


 白銀の髪。人の形をしているようで、していない。冷気と熱が同時に揺らめく、常識を逸した存在。


(……なに、あれ……?あたし……あんなの、知らない……)


 朱音は息を呑んだ。


 彼女は、まだ知らない。あれが……雪だった者の成れの果てだということを。



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